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訓練場での摸擬戦

 冒険者ギルドの裏にある訓練場。

 訓練場は屋外にあり、学校の運動場のような感じだった。

 訓練場には、素振りをしたり、案山子に攻撃したりしている冒険者達がちらほらといた。

 20人ぐらいはいるように見える。


「この辺でいいだろう」


 先導していたキースがそう言って、僕達のほうへと振り返る。

 僕達は人がいない空白地帯を陣取っていた。

 面白がってついてきたギャラリー達も周囲に散ってこちらを見ている。


「キース、刃引きした剣と槍を持ってきたぞ」


 キースの仲間の1人が、訓練用の武器を持ってきた。


「ありがとう。……摸擬戦なので、魔法の使用は無しで、刃引きした武器を使用する。従者君は……槍でいいのかな?」


 キースは僕に向かってそう言ってきた。


 ……なんで僕は従者ってことになってるの?

 あれか?

 他の人からしたら、お嬢様のリーチェ、その執事のバロン、従者の僕って見えてるのか?

 ちくしょう……確かにしっくりくるよ!

 一応、僕がご主人様ってことになるんだけどな……


「いや、僕はこれを使うよ」


 僕はそう言って、ベルトにぶら下げているロープを外して手に持つ。

 レベル30以上って言ってたし、用心して本気で行こう。

 もし負けたら、リーチェが連れていかれちゃうしね。


「……馬鹿にしているのか? そのロープで僕を倒せるとでも言うのか?!」


 僕の武器を見たキースは、一瞬呆けた顔をした後、声を荒げて怒鳴った。


「えっ?」


 あっ、しまった。

 僕のメイン武器が槍だと思われているのか。

 それを使わずにロープで戦うと言ったことが、煽っているように見えてるのか……!


「いや、僕のメイン武器は……」


 僕が誤解を解こうとするも、キースの仲間達の声にかき消されてしまう。


「キース! もういい! さっさと倒してくれ!」


「こいつら俺達のこと馬鹿にしすぎだろッ!」


 僕達の騒がしさに釣られて、何事かと訓練中だった冒険者達も集まってきた。

 その冒険者達にはギャラリー達が説明している。

 どうやら、訓練中だった冒険者も観戦するようだ。


「おい! よそ見すんな! もう始めるぞ!」


 審判役となったキースの仲間の1人が言った。


「あっ、ごめん。どうぞ」


 僕とキースの距離は10mほど。

 僕は半身になってロープを構える。

 それを見たキースからは、表情が消えた。


「あくまでもそのロープで戦うつもりか……どこまで馬鹿にするんだ! 容赦はしない。全力で潰す!」


 キースは刃引きをした剣を構える。

 僕とキースが武器を構えたことを確認した審判は、開始を宣言する。


「はじめ!」


 ガッ!


 キースが地面を踏みしめ、一気に距離を詰める。

 開始の宣言とほぼ同時のタイミングだ。


 速い! でも見えている!


 僕は力の抜いて素早く鞭を振るう。

 格闘技でいうところのジャブのような、スピード重視の点の攻撃だ。

 狙いは剣を手の甲。


 ヒュンッ!


 ただのロープだとは思えない鋭い攻撃が、キースの手の甲へと向かう。


「くっ!」


 キースは、バックステップして剣でガードした。

 接近するのを止めた時点で、僕の有利な間合いとなる。

 主導権はこちらが握ったと言ってもいい。


 そこは、ダメージ覚悟で突っ込んで、接近戦に持ち込むべきだったね……


 僕は連続して点の攻撃を放つ。

 ロープによる攻撃でも効きそうな箇所……

 手、腕、首、顔の上半身部分を集中的に狙う。


 キースは、剣で上手くガードしていたが、たまにガードし損ねるときがある。

 左腕を攻撃した後に剣を持つ右腕を攻撃すると、ガードが追いつかないのだ。

 僕は、そこから崩す。


 僕は、キースの左腕と右腕へと順番に点の攻撃を放った後、意表をついて足元を攻撃した。


「ッ!?」


 ガードが間に合わなかった状態で、急に足元を狙われ、キースのテンポが崩れる。

 上半身の攻撃に慣れて始めていたという要素も大きいかもしれない。

 キースはギリギリで反応し、ジャンプすることで足元への攻撃を躱した。


「ここだッ!」


 その瞬間、僕は薙ぎ払うように鞭を振るう。

 線の攻撃で、キースの伸びきった足を狙う。

 体制が崩れたままのキースは、剣で弾くこともできず、足をロープに絡み取られる。

 僕はそこで、全力で一気に引き寄せた。


「うわっ!」


 キースは何の抵抗もなく、僕の方に引き寄せられて、地面へと叩きつけられた。


 いくら竜人が高い筋力を持っていたとしても、踏ん張れない状態では、その力を生かしきることはできない。

 足払いを綺麗に決められたようなものだ。

 キースは、地面に打ちつけられて隙だらけだ。


「これで終わりだよ」


 僕は、一気に詰め寄って、手刀をキースの首に当てた。

 キースは剣を振るおうとしたが、僕の声を聞いて動きを止めた。


「……やられたよ。完敗だ」


 倒れたままのキースは、脱力してそうつぶやいた。


「キ、キースが負けた?!」


 審判のその声で、ギャラリーから歓声が上がった。


「「「「うおおおおお!!」」」」


「マジか! まさか本当にロープで倒すとは!」


「負けたときの言い訳にするかと思ってたのにな! あの従者、勝ちやがったぞ!」


「期待のルーキーを倒すとは……あの従者も有望株だな……」


「くっそー! 勝てよキース! 賭けに負けちまった!」


「賭けは俺の勝ちだな! 今日の晩飯は奢ってもらうぜ!」


「ヒュー! こいつは驚いた。やるじゃねえか!」


 ギャラリーが盛り上がっている中、僕はキースに手を差し伸べる。


「思いっきり叩きつけちゃったけど、大丈夫?」


 急に出された手にキースは目を丸くするが、しっかりと握り返してきた。

 僕は倒れていたキースを引っ張って起こす。


「すまない……馬鹿にしていたのは僕達のほうだった」


 キースは苦い顔をして頭を下げた。


「いや! こっちこそごめん。うちのリーチェが色々言っちゃったし……」


 こっちも煽らずにただ断っておけば、こんなことにはならなかったはずだし……

 でも、こうして謝るってことは、キースって案外悪い奴じゃないのかもしれないな。


 そこで、キースの仲間達から声が上がった。


「だっさ。ロープに手も足も出ずに負けるとか……」


「相手は従者のガキだぜ? 恥ずかしくないのかよ」


「こんなガキに負けたやつのパーティメンバーとか、笑いものにしかならねえよ」


「えっ……?」


 仲間達が吐き捨てた暴言にキースが呆然とする。


「俺らお前のパーティ抜けるわ」


「前々からキースとは合わないと思ってたし、ちょうどいいよな」


 そう言って仲間達……いや、元仲間達がキースの前から去っていく。

 キースは、ただそれを立ちつくしてみているだけだった。


「……」


 先ほどの盛り上がりから、一気に気まずい空気へと変わった。

 ギャラリーも静まり返り、こそこそとギルドへと帰っていく。

 僕とキース以外で残っているのは、リーチェとバロン……

 そして1人の竜人の男の子だけになった。


 気まずい……

 こういうときどんな顔すればいいかわからない。


「は、ははっ……私はなんて滑稽なんだ……君も笑えばいいと思うよ」


 いや、笑えないよ……


 僕はリーチェとバロンに助けを求めるが、2人ともどこか遠くを眺めているようだった。

 残っていた竜人の男の子に目を向けるも、彼も気まずそうにこちらを見ていた。


「これでも、彼らに合わせるために頑張っていたんだけどね……」


 そこで、意を決した男の子が声をあげた。


「す、すみません! こんなときに言うのも申し訳ないのですが、キースさんに用があって来ました!」


 キースは暗い表情のまま、男の子へと顔を向けた。


「どうしたんだい?」


「パーティ募集板を見て来ました! 自分をパーティに入れてくれませんか?」


 その用件にキースは驚いていたが、すぐに真剣な表情になって男の子を見る。


「パーティか……あいにく、パーティはついさっき解散したよ。今からまたメンバーを集めようと思うけど、君がダンジョンに潜るのは厳しいと思うよ。君の情報を教えてもらえるかな?」


 キースがそう言うと、男の子は顔をしかめる。

 その後、言いにくそうに口を開いた。


「自分はリューク……リューク・サウスレクスといいます。Gランクの冒険者です」


 カラン……


 キースの持っていた剣が地面に落ちた。


「……断る。君を受け入れることはできない。おそらく、他のパーティでも結果は同じだろう。君はダンジョンに潜ることを諦めた方がいい」


 キースは無表情で淡々とそう告げた。


「そう……ですか……」


 男の子は唇を噛みしめ、暗い表情でそう言った。


 キースのこの態度は、明らかに普通じゃない。

 一体、この子に何があるっていうんだ?


「あの、何かダメな問題でもあるんですか?」


 僕は恐る恐るキースへと尋ねた。


「君は知らないのか……? この子は……指名手配中のウロボロスの幹部、ティーガー・サウスレクスの血族だ」


 つい先日ティーガーと戦った僕は、それを聞いて言葉を失ったのだった……

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