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ダンジョン街を歩く

 ウロボロスの事件の翌日、天気は快晴となっている。


 僕は今、冒険者っぽい装備に身を包んでいた。

 使い古された皮の防具の上にシャドウコートを羽織り、背中には1本の槍がある。

 ベルトには、水筒の魔道具とロープをぶら下げ、小ぶりのナイフを着けている。

 腰のポーチの中には、応急セットと着火の魔道具、僕が今までためていたお小遣いが入っていた。

 そして、左肩には……


「クー」


 昨日生まれたばかりのアステルが乗っていた。

 頭から尻尾までの長さは30cmほどで、重さは500gあるかないかかな?

 500mlのペットボトルを肩に乗せてるような感じがする。

 生まれたばかりだが、肩にがっしりとしがみついている。

 あと、鳴き声を出すようになったが、僕の言語理解でも言葉には翻訳されないので、ただ鳴いているだけみたいだ。

 そのうち話せるようになるのが楽しみだ……!


「気を付けてね? ルシエルちゃん、アステルちゃん。……リーチェちゃん、ルシエルちゃんをよろしくね?」


 母様が甲板まで見送りに来てくれている。


「はい! いってきます!」


「はい。お母様」


 僕はいつも以上に元気に、リーチェはいつも通りに返事をした。

 こんなにもテンションが高いのには理由がある。

 それは、今から僕達がダンジョン街を探索するからだ。

 ピシッと冒険者の装備を決めているのもそのためだ。

 ちなみに、リーチェは羽を隠しているだけで、服装もいつも通りだ。


「本当なら、お母さんも一緒に行きたいんだけどね……」


 母様は悲しそうな顔でそうつぶやく。

 母様とアレスおじさんは、エウロスさんとの話し合いがあるからここで待機だ。

 なんでも、ウロボロスの件で色々と話があるらしい。


 うぅ……

 落ち込んだ母様を見ていると、なんだか申し訳ない気がしてきた。


「か、母様。また今度みんなで行こうよ! ね?」


「……ほんとう?」


「本当だよ! 約束する! ねっ? リーチェ」


 僕はリーチェに助けを求める。

 リーチェは、ジト目で僕を見る。


「……ええ。お母様、安心してください。私達がいいお店を見つけておきますから……」


 リーチェがそう言うと、母様が微笑む。


「ふふっ。2人ともありがとう。じゃあ今度みんなで行きましょうね?」


 もしかして、からかわれてた?

 でも、まあいっか……

 これで心置きなく探索できる!


「坊ちゃん、お嬢様。ではそろそろ参りましょうか」


 話がひと段落したところで、バロンがそう言った。

 今回の探索は、バロンが一緒についてきてくれる。

 さすがに子供だけでうろつくのも危ないので、保護者を付けることになったのだ。


「そうだね。……母様、行ってきます!」


「……行ってきます」


「いってらっしゃい」


 母様は小さく手を振って、僕達を見送ってくれた。

 こうして、僕とリーチェはバロンと共にダンジョン街へと向かうのだった。


▽▽▽


 僕達はダンジョン街の門をくぐって、ダンジョン街の南区へと足を踏み入れた。

 地面は石畳で、ここから見える住居も石でできたものが多い。

 ダンジョン街での資源は、石が中心となっているのかもしれない。


「すごいね。石の家がいっぱいあるよ」


 僕がそう言うとバロンが口を開く。


「そうですね。我々だと基本的に木造の家となりますから、こういう街並みはなかなかお目にかかれません。ドラグヘイムでは石が豊富なのでこうなっているのでしょうね」


 やっぱり、そうなのか。


 しばらく歩いて広場が近くなってくると、人が多くなってきた。

 基本的に竜人ばかりだが、人間や獣人などの他の種族もちらほら見かける。


「ねえバロン。竜人以外の他の種族も結構いるんだね? みんなダンジョンに挑戦しに来ているのかな?」


「一概にそうとは言えませんが、ダンジョンの特産品目当てで来ていることは間違いないでしょう。冒険者ではなく、商人や旅の護衛などの可能性もありますね」


 なるほど……

 この国に来るのはダンジョンへの挑戦者だけってわけでもないのか。

 商人が来るってことは、逆に他国の珍しいものも集まってくるのかもしれないな。


「ねえ。あれは何かしら?」


 リーチェが指差している方向に目を向ける。

 そこは、大きな建物の密集地帯といった感じで、建物の煙突からは煙が出ていた。

 工業地帯のようにも見える。


「あれは、工房地区ですね。鍛冶師や装飾師のような技師や研究者などが集まっている場所ですね。エウロス様も通ってらっしゃるとか」


「なかなか面白そうだけど、煙が嫌だわ……空気が悪くなっているもの」


 リーチェは残念そうに見つめる。


 工房地区か……

 なにか面白いものが眠ってそうな予感がする。

 時間ができたら見に行ってみよう。


 もうしばらく歩くと、南区の広場に着いた。

 広場では、結構な人がいて賑わっていた。

 アイテムや飲食物を販売している露店や屋台などがあり、すぐ近くから肉が焼けるいい匂いがしてくる。

 何人か見世物をしている人がいて騒がしくもあるが、ちょっとしたお祭りみたいな感じで、少し楽しい気分になってくる。


「クー」


 ふと、左肩にくっついているアステルが鳴き声をあげた。


「アステル? どうしたの?」


 アステルを見てみると、アステルの視線は一点に集中していた。

 その視線を追ってみると、さっきからいい匂いをさせていた串焼きの屋台があった。

 屋台では焼き鳥のようなものをあぶっていて、屋台の周りにいる人達は美味しそうに串焼きをほおばっている。


 見てると僕も食べたくなってきたよ……


「もしかして、欲しいの?」


 アステルは、僕の声に一切反応することはなく、じっと肉を見ている。

 少しは反応してほしいな……

 ちょっと寂しい。


「しょうがないなぁ……バロン、あの串焼き買ってもいいかな?」


「構いませんよ。ただ、お昼も近いのであまり食べ過ぎないように注意してくださいね?」


「わかった。ちょっとだけにするよ」


 そう言って、僕達は串焼きの屋台に向かう。

 その間も、アステルは肉をガン見していた。

 僕達が串焼きの屋台に近付くと、竜人の店主が声をかけてくる。


「おう! らっしゃい! そこの坊ちゃん達、1本どうだい? この広場の名物、グラスリザードの串焼きだぜ!」


 グラスリザードって、たしか草食の大人しいトカゲだったよな。

 ……アステル共食いだぞ?

 でも、どんな味がするんだろう……


 そう思っていると、バロンが前に出る。


「4本頂きたいのですが、いくらになりますか?」


「1本20ゴールドで80ゴールドだ! ……と言いたいところだけど、そのトカゲの目力に負けて70ゴールドに負けとくぜ!」


 この世界での通貨はゴールドで、教会と各国が共同で作成している。

 国によっては通貨の絵は違っていたりするが、教会を通じているため価値は同じとなっている。

 ゴールドを日本円で換算すると、1ゴールドで10円ほどになる。

 なので、このグラスリザードの串焼きは1本200円ということになる。


「いいのですか?」


「ああ。勘だけど、あんたたちは常連になってくれそうな気がするしな!」


 そう言って、屋台のおっちゃんは笑う。


「ではお言葉に甘えましょう。100ゴールド硬貨です」


「おう。10ゴールド硬貨3枚とグラスリザードの串焼き4本な!」


「ありがとうございます」


 バロンは1枚の硬貨を渡して、3枚の硬貨と串焼きが乗った石の皿を受け取った。


 硬貨は、1ゴールド硬貨、10ゴールド硬貨、100ゴールド硬貨……というように10倍毎にある。

 一番大きいので、10万ゴールド硬貨まで存在する。

 それ以上の金額を動かす場合、直接受け渡しをせずに国営の銀行内でのやり取りで完結させることが多いらしい。


「坊ちゃん、お嬢様。あそこのベンチで頂きましょうか」


「わかった」


「ええ」


 僕達はベンチに座って串焼きをほおばる。

 アステルには、食べやすいように串から肉を外して、石の皿の上に置いてあげる。


「おいしい!」


 感想としてはそれに尽きた。

 ただ焼いてるだけでなくて、何かのスパイスで味付けされている。

 胡椒っぽいんだけど、胡椒ほど辛くはなく、少し甘いような感じがする。

 肉自体もあっさりとしているので、2、3本は軽く食べられる。


「ふむ。これはスパイシーオニオンの粉末かと思います。ドラグヘイムの特産品の一つですね」


「へえ……そうなんだ。じゃあここにいる間に食べとかないとね!」


「クー」


 その鳴き声を聞いて、アステルの方を見てみると、既に完食しているようだった。

 え? 早すぎない?

 僕まだ一口しか食べてないんだけど……


 アステルのつぶらな瞳が僕を見つめる。

 ……いや、見つめているのは、僕の持つ串焼きのようだ。


「だ、だめだぞ……」


 それでもアステルは、じっと串焼きを見つめている。


「くっ……仕方ないか……」


 僕がしぶしぶあげようとすると、横からアステルの前へと串焼きが差し出された。


「ふふ。私のやつをあげるわよ。あなたは自分のを食べてていいわよ」


 リーチェさん……

 ありがとうございます!


「でもいいの? あんまり食べてないんじゃ……」


「いいのよ。私はそんなにお肉を食べないから……その分お菓子は食べるけど」


「じゃあ、今度お菓子を食べに行こうか。たぶんドラグヘイムにもあるはずだし」


「あの。坊ちゃん」


 僕達が話していると、バロンが声をかけてくる。


「どうしたの?」


「クー」


 え? まさか……?

 アステルの方を見てみると、リーチェが置いた串焼きも既に完食していた。


「ううう……」


 なんて食いしん坊なやつなんだ……


「私の分をあげますから、坊ちゃんはそのまま召し上がってください」


 バロンまで……

 でも、みんなが食べてないのに僕だけ食べるのも気まずいので、僕のもアステルに差し出す。


「……」


「いや、食えよ!」


 バロンの串焼きを食べて満腹になったのか、アステルは僕の串焼きを無視。

 そのまま僕の肩によじ登ってくる。

 ぐぬぬ……!


「坊ちゃん、私は少しお腹の調子が悪くなってきたので、その串焼きはお嬢様とお二人で召し上がってください」


「「!?」」


 急なバロンの一言に僕達は唖然とする。

 いや、さっき普通に食べてたでしょ!


「時間も押してますし、そろそろ冒険者ギルドに向かいたいところですね」


 早くしてくれとでも言わんばかりのそぶりで、バロンはチラチラと僕達のことを見る。

 これ、絶対からかわれてるよね?

 ちょっと笑ってるし!


「わかったわよ!」


 それに触発されたリーチェは、僕の串焼きを取って、僕の口へと差し出してくる。

 こ、これは……

 あーんするのか?

 あーんしたらええのんか?

 僕は意を決して口を開く。


「あっ」


 リーチェのその声と同時に、横から串焼きにかぶりつく影が見えた。


「クー」


 その影の主を見ると、アステルがつぶらな瞳で僕を見ながら、くっちゃくっちゃと串焼きを食べていた。


「おまえー! いい加減にしろよー!!」


 僕がそう怒ると、笑いがこらえられなくなったのか、バロンがくつくつと笑い出す。


「バロン! そこは我慢してよ!」


「し、失礼しました。やはり、坊ちゃんはラスティナ様似ですね」


「もういいよ! ほら、早く冒険者ギルドに行こう!」


 そうして、僕達は足早に冒険者ギルドを目指すのであった……


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