僕の相棒
仮面の軍団を倒した後、エウロスさんとその部下達が魔導船へと飛んできた。
エウロスさんが言うには、この仮面の軍団はウロボロスという邪竜の復活を企む悪い組織なのだそうだ。
アレスおじさんの魔力を感知して、エウロスさんはすぐこちらに飛んで来ようとしたようなのだが、ウロボロスの別動隊に足止めされていたらしい。
魔導船で死んでいたウロボロスの戦闘員は、エウロスさんの部下達が回収していった。
これから調査を進めていくらしい。
「それにしても無事で良かったぞ。エキドナとティーガーはウロボロスの幹部だ。よく撃退することができたな……」
そのエウロスさんの話を聞いて、リーチェが口を開く。
「奴らに私がフェアリープリンセスだということがばれていました。私の話は外ではしていないので、風竜公様の屋敷内で漏れていた可能性が高いです」
リーチェがそう言うと、エウロスさんが苦い顔をした。
「確かにそうかもしれんな……申し訳ない。すぐに調査するから待っていてほしい」
そう言って、エウロスさんは飛び去って行った。
「あ、ワイバーン達と話をしないと……」
僕は魔導船の周りを飛んでいるワイバーン達を呼ぶ。
ワイバーン達はすぐに集まってきた。
『どうしたのだ?』
「えっと。君達を解放しようと思ってね」
僕がそう言うと、ワイバーン達は驚いたような表情をする。
『いいのか?』
「うん。もともとあの状況を助けてほしいって約束だったでしょ?」
『ああ。ならば解放してほしい。我々は仲間を探しに行きたい』
「わかった。テイム解除!」
解除するには、テイム解除をかければいい。
テイムと同じ感覚で使えば発動できる。
僕はワイバーン達のテイムを解除していった。
『解放してくれた恩は忘れない。何かあれば手助けするぞ』
ワイバーン達はそう言って、去っていった。
すると、アレスおじさんが僕の横に来た。
「逃がしたのか? あのまま仲間になってもらえばよかったと思うんだけどな」
「うん。本当は、僕もこのまま仲間になってほしかったけど……あのワイバーン達は人間に隷属させられて、恨みを持っていたんだ。だから落ち着くまでは、そっとしておいてあげようかなって」
「なるほどな。だったらしょうがないな」
僕は頷く。
僕達が話していると、母様がやってきた。
「2人とも、そんなとこに立ってないで、休憩しましょう?」
「ああ。行こうか」
「わかった」
僕たちは母様に連れられて、食堂へと移動した。
▽▽▽
食堂に着くと、既にリーチェが紅茶を飲んでいた。
リーチェは、毛布で来るんだ卵を片手で抱きしめている。
「リーチェ、さっきはありがとう。助かったよ」
「いいのよ。私がやりたいようにやっただけなのだから。あなたもよく頑張ったわね……」
「そうだな! ルシエルもよく頑張った! 偉いぞ! ……ちょっと危ないこともしてたけどな」
アレスおじさんは、そう言って僕の頭をガシガシと撫でる。
「ルシエルちゃんもよく頑張ったわ。 ……でも、あまり危ないことはしないでね? お母さんすごく心配したんだからね?」
母様は涙を浮かべてそう言う。
「……心配かけてごめんなさい。気を付けるよ」
そこで、バロンがティーセットを持ってやってきた。
そのまま、全員にお茶を入れていく。
「皆さま、お茶をどうぞ」
僕達はお茶を飲んで一息つく。
ふぅ……色々あったなぁ……
ドラグヘイムに来てバタバタし過ぎている気がする。
特に今日はすごく疲れたよ。
でも、みんなが無事で本当によかった。
……安心したら眠くなってきた。
「ルシエル、眠そうだな。疲れているなら寝ててもいいんだぞ? 今日は大変だったからな……」
「そうね。ルシエルちゃん、ゆっくり休んでね?」
「夕食ができましたらお呼びしますので、安心してお休みください」
大人達にそう言われた。
そんなに眠そうな感じが出てたのかな?
まあ、お言葉に甘えて少し寝よう。
「わかった。じゃあ少し寝るよ」
僕はそう言って、自分の部屋へと向かう。
▽▽▽
真っ暗な魔導船の甲板。
そこで、竜人達が僕のことを見ていた。
それは、僕が殺した竜人達だ。
彼らは怒りや恨みなどが入り混じったような黒い目で、僕をジッと見ている。
目と口、僕が貫いた首から血を流しながら……
「うわぁぁぁ!」
僕は体を起こす。
「はぁはぁ……ゆ、夢か……」
コンコンコン。
「入るわよ?」
リーチェが僕の部屋に入ってきた。
「大きな声が聞こえたけど……大丈夫? うなされていたの?」
リーチェが僕を優しく抱きしめる。
そのまま僕の背中をさすってくれる。
リーチェにこうされていると気持ちが落ち着いてくる。
ほっとすると、少し余裕ができてきた。
「リーチェ、ありがとう」
コンコンコン。
「お母さんだけど、入るわね?」
今後は母様が入ってきた。
「あら、リーチェちゃんに先をこされちゃったみたいね」
母様は、僕とリーチェの前まで歩いてきて、そのまま2人を抱きしめる。
「ルシエルちゃん、守ってくれてありがとう。リーチェちゃんも守ってくれてありがとう。……あなた達はお母さんの誇りよ」
母様がそう言って僕達をギュッと力を入れて抱きしめた。
「……さてと、じゃあお母さんはもう戻るわね。ルシエルと一緒に寝るのは、ほっぺにチューしていたリーチェちゃんに譲るわ」
母様はそう言って笑う。
僕はリーチェに頬へとキスされたときのことを思い出して、少し恥ずかしくなる。
リーチェも思い出して恥ずかしくなったのか、顔が少し赤くなっている。
「お、お母様! それくらいにしてください!」
「ふふふ。じゃあ、おやすみなさい」
母様は、そう言って僕の部屋から出て行った。
「じゃ、じゃあ、寝る……?」
「え、ええ……」
僕の部屋にはベットが2つある。
そのベットの片方で、僕達は横になって見つめ合う。
「あんまり……見ないでよ……」
リーチェは照れたように言った。
さっきのやり取りのせいで顔が熱い……
「リ、リーチェ、改めて、今日はありがとう」
母様の護衛や僕がティーガーに怯えていたときに後押ししてくれたこと……
僕はリーチェに助けられっぱなしだ。
「いいのよ。私が好きでやってるだけ。あなたは気にせずにやりたいことをやりぬきなさい」
「ねえ、リーチェ……なんで、僕にそうまでしてくれるの?」
僕がそう聞くと、リーチェは困ったような恥ずかしそうな顔でこちらを見る。
「そ、それは……あなたのことが……」
その時、リーチェの抱いていた卵が、突然光り出す。
それは毛布で巻いていても、はっきりとわかるほどだった。
「えっ? 急になに?」
「もしかして、孵化かしら?」
リーチェは毛布をめくり、卵をベットの上に置く。
僕達はベットから離れて様子を見守る。
ピシッ!
卵にひびが入った。
「リーチェ! ひび! ひびが入ったよ!」
「ええ! やっぱり孵化が始まったのよ!」
ピシッ! ピシッ!
更にひびが入った。
もう少しだ……!
僕達は息をのんで孵化を見守る。
だが、殻を破る力が足りていないのか、そのもう少しが乗り越えられない。
「頑張れ!」
「頑張って!」
僕とリーチェは思わず声を出してしまう。
そして、その想いが届いたのか……
ピシッ! パリパリ!
卵の一部の殻が割れ落ちて、その隙間から小さいトカゲが顔を出した。
「おお! リーチェ、出てきたよ!」
「まだよ! ここから外に出るまで見守るのよ!」
「わかった! もう少しだ頑張れ!」
パリパリ!
卵からトカゲが出てきた。
そのトカゲの色は、薄っすらとピンクがかったような銀色。
その他は、そのまんまトカゲって感じがする。
翼も生えていない。
「この子の色、リーチェの髪の色と同じだね」
「そうね。もしかしたら、私の魔力が影響しているのかもしれないわね……」
生まれたばかりのトカゲは、つぶらな瞳で僕達をじっと見ている。
「そうだ。この子の名前どうしようか?」
「え? そうね。どうしようかしら? ……あら? この子の胸のところに星型のあざがあるわね」
僕はそう言われて、トカゲの胸のあたりを見る。
見てみると、確かに星型のあざがあった。
偶然そんな模様に見えるとかではなく、ちゃんとした星型をしたあざだ。
「星か……」
スター、エトワール、ステラ、アステル……
いや、それよりも先に性別を見ないと。
「この子、オスとメスどっちだろう……?」
僕はトカゲを持ち上げてみる。
トカゲは持ち上げられても、特に何も抵抗はせず、全身をぶらーんとしている。
股間の辺りを見てみたが、ついていないようだ。
「この子、メスみたいだね」
「そう。じゃあ、女の子の名前を付けてあげないとね」
「うーん。ステラとアステルのどっちがいいかな? どっちも星に由来する単語なんだけど……」
「……アステルがいいと思うわ。少しだけど、名前の余韻があなたと似ているし」
最後のルだけが似てるってことかな?
でもまあ、名前が決まって良かったよ。
「よし! 君の名前はアステルだ!」
僕はトカゲをより高く持ち上げてみる。
「テイムもしておいたら?」
「そうだね。テイム!」
アステルをテイムの光が包む。
「これからよろしくな! 僕の相棒! これからドラゴン目指して、一緒に頑張ろう!」
これから一緒にドラゴンテイマーの道を歩んでいこう。
絶対にドラゴンにしてやるからな……
こうして、僕はドラゴンテイマーとしての相棒を仲間にすることができた。
僕達の冒険は、まだまだこれからだ!
これにて第一章が完結です。
ここまで見ていただき、ありがとうございます!
今後ともよろしくお願い致します!




