前世のことを思い出す
とある協会の広間。
ここでは十数人の子供たちが集められていた。
「次、ルシエル・クリステーレ」
「は、はい!」
僕は名前を呼んだ神官のもとへと向かう。
「次は君の番だ。今から祝福の儀のやり方を教えるからちゃんと聞いておくんだよ。いいかい?」
「はい!お願いします!」
「まず、この扉の向こうにある女神像の前まで進むんだ。像の前に着いたら目をつぶって祈りなさい。そうすれば女神さまから祝福を授かることができるはずだ。ここまでは大丈夫かい?」
神官の問いに僕は頷く。
「よし。その後は女神様に御礼を言って真っすぐにこの部屋へと戻ってきなさい。それで祝福の儀はおしまいだ。わかったかい?」
「はい!」
「じゃあ行っておいで! 君に女神さまの祝福があらんことを」
そう言って神官が扉を開いた。
ギギギ……と鈍い音を発しながら扉が開く。
「行ってきます!」
僕は扉が開いてできた隙間から、女神像があるという部屋に足を踏み入れた。
真っすぐ前に歩いていると、背後から扉が動く音がする。
ギギギ……バタン。
つい振り返りそうになるも、なんとか女神像の前までたどり着いた。
女神様の像、綺麗だなぁ。
天井の窓からの光で、女神様の像がキラキラしてる。
……おっと、ぼうっと見てる場合じゃない。
確かここで目をつぶって祈るんだったよね?
手を合わせ両膝をついて祈りを捧げる。
女神様! 僕に祝福を授けてください!
お爺様の期待に応えられるような……
母様の力になれるような祝福をお願いします!
『転生の女神リフィアの加護を得る者からの祈りを確認しました。これより転生の女神リフィアへとパスを繋ぎます』
『……もしもし? 聞こえるかしら?』
「えっ?」
どこからか急に声が聞こえてきて、つい顔を上げてしまう。
女神様の像が光っている?
「もしかして、女神様……ですか?」
その声に反応したかのように女神様の像が光りだした。
『そうよ。私はあなた達が言うところの女神様で、転生の女神リフィアなんて呼ばれているわ』
「えっ? 本当に女神さまなんですか?! すごいや!」
『うふふ。元気な男の子ね。でも、大事なお話があるから少しだけ聞いてもらえるかしら?』
「はい! しっかり聞きます!」
はしゃいでいることが声で伝わっているのか、さっきから女神様にクスリと笑われてしまっている。
おさまれ! 僕のドキドキ!
『えーと……あのね? 君みたいな可愛らしい子に言うのは、心苦しいのだけれど……』
女神様はなんだか言いづらそうにしている。
心なしか女神様の像の光も弱々しくなっている気がするし…
そんなに深刻なことなのかな……
もしかして祝福が良くないとか?!
祝福を貰えないなんてことないよね……?
『……は……なの……』
ん? ボソッと女神様の声が聞こえた気がするけど、なんて言っているのかわからなかった。
「女神様ごめんなさい。よく聞こえなかったので、もう一回言ってもらえませんか?」
『……』
少し間が空いて、女神様は言った。
『……君って、実は今年で37歳のおっさんなの……』
「……へっ?」
え? あれっ? 僕ってまだ10歳だよね?
10歳の誕生日も先月やったばっかりだし。
あと、37歳って母様よりも年上になっちゃうよ。
『いきなりそんなことを言われてもよくわからないわよね……とりあえずこの光の球に触ってみてもらえるかしら?』
女神様がそう言うと、女神様の像から青白い光の球が出てきた。
「は、はい……」
混乱していた僕は、言われるがまま光の球へと触れる。
触れた光の球は、僕の体の中へと吸い込まれていき、次の瞬間頭に激痛が走った。
「うっ! い、痛っ! 痛い!」
頭がガンガンする。
硬いものでずっと頭を叩かれているような痛みする。
『ごめんね……すごく痛いと思うけど、もう少しだけ我慢してね』
そ、そんなっ!
僕は耐え切れずに床に倒れてうずくまる。
それからも痛みは引くことがなく、僕は気を失ったのだった。
▽▽▽
「……ん」
目を開くと木の床が見える。
どうやら床の上で寝ていたらしい。
なんか腰も痛いし、また寝落ちしたか?
『おはよう。目は覚めたかしら?』
上のほうから女の人の声が聞こえる。
声のした方を見てみると、天使の翼が生えた女性の像がある。
しかもなんか光っている。
なんで石像が光ってるんだ?
もしかしておばけ?
『違うわよ……これでも一応女神よ』
「えっ? あ、すみません。女神さまでしたか……」
ん? 女神?
なんでこうもあっさり信じてるんだ?
『まだ2つの記憶が安定してないのね。もう少しで安定するはずだから安心して』
「はい……」
よくわからないが、とりあえず頷いておく。
それにしても綺麗な像だな……
俺はまじまじと女神像を見る。
おっとり系美人で優しそうな顔。
髪は肩までのボブカット。
服は確かキトンだっけ?
ギリシャっぽい服を着ているせいか、大きな胸のラインがくっきりしていてエロさを感じてしまう。
そんな女神様が祈りのポーズで佇んでいる。
……もしこんなエロティックな女神様がいるなら、ぜひとも信者になりますわ。
『もうっ! さっきまではあんなに可愛らしかったのに! やっぱり戻さないほうがよかったかしら……?』
「ん? さっきまで?」
そういやさっきも話していたような気がする。
ここで祝福の儀を受けててそれで……
『そう。あなたが起きる前にも、あなたは私と話していたのよ。記憶も安定してきたようだから、あなたの状況について話していくわね』
「あっ、その前にこのままここにいても大丈夫なんでしょうか? 見た目的にも時間的にも……」
他の人から見ると、今の俺は女性の石像に向かって話しかけているやや痛い人のはずだ。
家でフィギュアに話しかけているのとは訳が違う。
……いや、家でフィギュアに話しかけたりはしてないけど。
『ああ、この部屋での時間経過は私が抑えているから心配しなくても大丈夫よ。……あと家でも人形に向かって話すのはやめたほうがいいと思うわ。癖になっちゃうわよ?』
女神様、時を止められるのかよ! すげー!
でも、フィギュアの件だけは忘れてください。
お願いします。何でもしますから。
というか人の考えてることを読まないでください!
『ふふっ。これでも女神だからね。冗談はこれくらいにしておいて、話を進めるわね』