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戦う覚悟

 操縦室から出た僕は、インベントリから装備を取り出す。


 『カースウィップ・メドューサ』

 遠距離の敵を攻撃することが可能。

 攻撃対象にランダムな状態異常を付与する。

 攻撃対象が受けている状態異常の数に応じて、被ダメージを増加する。

 装備者は呪いの効果を受ける。


 『幻影鳥(げんえいちょう)羽帽子(はねぼうし)

 幻影を発生させて、相手の命中率を低下させる。

 相手が攻撃を外した場合、一定確率で混乱させる。

 回避率上昇のエンチャント付き。


 『シャドウコート』

 体の半分以上に影がかかっている場合、姿を消して攻撃を回避できる。

 闇魔法を無効化する。

 回避率上昇のエンチャント付き。


 『一角獣(いっかくじゅう)編上靴(あみあげぐつ)

 移動時に加速度、移動速度が上昇する。

 認知した攻撃を緊急回避できるようになる。

 回避率上昇のエンチャント付き。


 『女神の指輪』

 マイナスの状態異常を無効化する。

 回避率上昇のエンチャント付き。


 メイン武器は、カースウィップ・メドューサだ。

 この鞭は、強力な恩恵がある分、呪われた装備となっている。

 呪いに関しては、装飾品で無効化できる。

 防具は、幻影鳥(げんえいちょう)羽帽子(はねぼうし)、シャドウコート、一角獣(いっかくじゅう)編上靴(あみあげぐつ)だ。

 防具は全て回避特化の装備となっている。

 装飾品は、女神の指輪とずっと装備している守護神石のネックレスだ。

 マイナスの状態異常を無効化と受ける全てのダメージを50%カット。

 防具と装飾品は、全て回避特化の装備となっている。


 これらは、僕がゲームで使っていた本気で戦う時の装備だ。


 僕の戦闘スタイルは、回避重視で立ち回って、相手の間合いの外から鞭で攻撃するといった嫌らしい攻めた方だ。

 本当ならテイムモンスターがガンガン攻めて、僕がそれをフォローするって感じになるんだけどね……


 僕は、取り出した装備を急いで装着する。

 時間もないので、今まで着けていたものはそのまま放置だ。


 これなら竜人達とも戦えるはず。

 ……正々堂々とは言えないけど、そんなプライドよりも自分や家族の命の方が大事だ。

 相手がいきなり襲ってきたんだし、知ったこっちゃない。


 人を殺してしまうのは抵抗がある。

 でも、今は怒りで誤魔化す。


 こいつらは、母様とリーチェを辱めて売り飛ばそうとしている。

 僕とアレスおじさんとバロンを殺すつもりだ。

 そんなの絶対に許せない!


 どうせ後悔するなら、大事な人を守れなかった後悔よりも、人を殺してしまった後悔のほうがずっといい。


 戦うことへの気持ちの整理……人を殺す覚悟もできた。

 装備も問題ない! 行くぞ!


 そうして、僕は敵が待ち受ける甲板へと足を踏み入れたのだった。


▽▽▽


 僕は、魔導船内から甲板の中央部へと出た。


 甲板の後方では、アレスおじさんと1人の竜人、バロンと2人の竜人が戦っていた。

 死んでいる竜人が視界に入っても見ないようにする。

 ちゃんと見てしまうと、覚悟が揺らぐ気がしたから……


 敵の援軍はどこに……?


 辺りを見渡すと、甲板の前方から物音と声が聞こえてきた。


「よし! お前らはこの船を制圧しろ! 俺はワイバーンに乗って、障壁を破ってくるぞ!」


「「「「「おう!」」」」」


 どうやら、後方の戦闘は無視して、魔導船内を制圧を優先するつもりのようだ。


 武装した5人の竜人達が、ワイバーンから魔導船へと飛び降りた。

 その後、ワイバーンとその騎手は魔導船から離れようとする。


 行かせないッ!


 鞭術スキルを持っているからか、鞭の使い方や何ができるのかが、次々と頭に浮かんでくる。


 僕からワイバーンまでの距離は、15メートルから20メートルほどだ。

 普通の鞭なら届かないだろう……

 だが、僕の鞭なら届く!


 僕は、右手に持っている鞭、カースウィップ・メドューサを真っすぐと上に振り上げて、前へと一気に振り落とす。

 鞭の先端部分(テール)は、口を閉じた蛇の頭。

 鞭の紐部分(ボディ)が曲がりくねり、蛇の頭を前へ前へと高速で打ち出す。


 ヒュンッ!


 僕が放ったその蛇は真っすぐと伸びていき、奴らが気付く間もなく、ワイバーンへと炸裂した。


 バチンッ!!


「ガアァァァッ!」


 Lv10の鞭術スキルと呪われた最凶の鞭が合わさった一撃だ。

 それは、たとえ子供は放った一撃だとしても、重い一撃となる。

 ワイバーンに付与された状態異常は、混乱のようだ。


「な、なんだ! ワイバーン! おちつけッ!」


 ワイバーンに振り回される騎手。

 騎手は、空中に振り落とされないようにしがみつく。

 他の竜人達も何事かと、ワイバーンへと目を向ける。


 今がチャンスだッ!


 僕は半身になって、右腕を真横にピンと伸ばすように鞭を振るう。

 手首のスナップを効かせて、敵に向かって蛇の頭を打ち出す。

 タオルでペチンペチンと遊んでいたような感じだが、この鞭はタオルとかそんなチャチなものじゃない。


 バチンッ!!


「ギャアッ!」


 狙った竜人の顔に炸裂する。

 竜人は頭を押さえてうずくまった。

 これにより、他の竜人達に僕の存在が気付かれてしまう。


「おい! あそこだ! あのガキが攻撃してるぞ!」


「ひも?……もしかして鞭か? そんなので戦うってのか?!」


「ガキのくせしてなめやがってッ! ぶっ殺してやる!」


 僕はそんな敵の言葉を無視して、鞭での攻撃を続ける。

 頭の上で回転させるように鞭を振るう。


 ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!


 その勢いのまま、竜人達へと連続して攻撃を加える。


 バチンッ! バチンッ!!


 躱そうとしても、鞭の広い攻撃範囲はそう簡単に躱せない。

 剣で防ごうとしても、剣に巻き付いて体のどこかに当たる。


 こっちとしては、鞭が触れるだけで良いのだ。

 それだけで、相手は状態異常が積み重なっていく。


 バチンッ!


「グッ……ガァァァァ!」


「やめろ! おい! 俺は味方だ! う、うわぁぁぁッ!」


 今回は狂化が付いたようだ。

 狂化となった竜人は、周りの生物へと無差別に襲い掛かる。


「くそ! 一体どうなってやがる!」


「とりあえず、その狂ってるやつを攻撃し、ギャッ!」


 ヒュンッ! バチンッ!


 混乱している間にも、僕は立っている竜人達に攻撃を加えていく。


 麻痺、毒、盲目、混乱、睡眠、火傷、凍傷、束縛、気絶……

 鞭に触れた竜人達の状態異常は積み重なっていく。

 やがて、竜人達は倒れて痙攣する。


 僕以外に立つものがいなくなるまで、僕は敵を攻撃し続けた。

 魔導船外にいたワイバーンと騎手は、地面へと墜落していった。


「ふぅ……」


 この竜人達は、鞭との戦闘経験がなかったのか、案外苦戦せずに倒せた。

 それだけ、鞭術Lv10と僕の装備が優秀だってことか……

 運よく仲間割れを誘発できたっていうのも大きいな。


 僕は倒れている5人の竜人を見渡す。

 カースウィップ・メドューサの状態異常は、30分間継続する。

 この倒れている奴らは、放っておいてもいいだろう。


 そう思ったとき、アレスおじさんが、父様の死を嘆いていた光景が頭をよぎる。

 これは、1年前の魔物の氾濫(スタンピード)の思い出だ。


「……家族を守れなかった後悔……か」


 ……ここで見逃すことによって、魔導船内に入られるかもしれない。

 ここでちゃんと……殺しておこう……

 考えられるリスクは、きっちりと潰しておく。


 僕は、落ちている剣を拾って、倒れている竜人へと近寄る。


 人を殺したということから逃げないよう、殺す相手からは目をそらさないようにする。

 倒れている竜人達の首をめがけて、僕は一気に剣を突き刺す。

 剣から伝わってくる人を殺すという感触……

 何とも言えない不快感に呑まれそうになったが、僕は全員を殺しきった。


 この戦いが終わるまでは、泣き言は言わない。

 まだまだ敵は残っているんだ。


 少し深呼吸した後、僕はアレスおじさんとバロンのもとへと向かった。


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