表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/54

騎士と竜人と

 槍と盾を手にした俺は、魔導船の甲板後方部へと走っていた。

 ルシエル達は船内で待機、バロンは奇襲のために甲板の物陰に潜む。


 バロンの察知眼によると、魔導船の側面からよじ登ってくる敵は4人らしい。

 バロンの初撃で、2対3としたいところだな……


 俺が甲板後方部に到着すると、そいつらは甲板に足をつけていた。

 敵の数は4人、バロンの情報通りだ。

 4人とも仮面を着けていて、顔を隠している。

 頭の側面に生えている角や素肌から見える鱗を見る限り、全員竜人のようだ。


 俺は敵の得物を頭に入れる。

 自身の身長と同じほどの大きな大剣を背負っている筋肉質の竜人。

 サーベルと短剣を腰にぶら下げた身軽そうな竜人。

 槍を手にした素早い印象の小さい竜人。

 右手に短剣、左手に弓を持ち辺りを警戒している細身の竜人。


 大剣持ち竜人は単純に強そうで、弓を持って警戒している竜人は厄介そうだな……


 竜人は、強靭な肉体と硬い鱗を持っている強敵だ。

 生半可な攻撃では、たいしたダメージを与えることはできない。

 また、高位の竜人となると、竜人の種族専用のスキルを持っていることも考えられる。

 可能であれば、使用される前に仕留めたいところだ……

 チャンスがあるとすれば、1対4という人数差で相手が油断しているこのタイミングぐらいだろう。


 俺は、バロンの奇襲に合わせて全力の一撃を叩きこむつもりでいた。

 そのためにも、奴らの目を俺に引き付けておく必要がある。


「お前ら! 無断で人様の飛空艇に乗り込んで何のつもりだッ?!」


 俺は目立つように大きな声で叫んだ。

 俺の存在に気付いた奴らは、こちらに向かって歩いてくる。

 その足取りと態度は、明らかに油断しているように感じられた。


「ハッハッハッ! おい! ショボい貴族の護衛騎士がなんか吠えてるぜ!」


 槍を持った竜人が、こちらを指さして笑っている。


「きたねぇ声でうるせぇよ……その口を閉じろカス」


 大剣持ち竜人が、槍を持った竜人に大剣を突きつける。


「はいはい。仲間割れしている時ではありませんよ?」


 サーベルを持った竜人が、場をとりなす。

 その竜人は、そのまま俺の方を向く。


「さて、人間の騎士さん。あなたも雇われているだけでしょうし、大人しくしていてくれませんか? そうするなら、あなただけは見逃してあげますよ?」


 投降しろと言ってくるが、そんなのに従う理由がない。

 だが、情報を得るためにもあえて乗ってやる。

 経験上、今みたいに仲裁を担当する奴は、大抵がおしゃべりな奴だからな。


「……いいだろう。俺もここの貴族に雇われているだけだからな。……ここを狙うということは、あの卵が欲しいのか?」


 こいつらが攻める理由があるとすれば、ルシエルが持つあの卵だろう。

 もしくは、珍しいアイテムを持つルシエル自身か、伝説のフェアリープリンセスであるリーチェだ……


「そうですね。我々の狙っているのはあの卵です」


 やはりか……

 でも、外では隠していたはずだ。

 どこで漏れた?


「それと、容姿に優れたあの女達を生け捕りにすることですね」


「ッ?! ……どういうことだ?」


 俺が聞き返すと、槍持ち竜人が前に出て笑い声をあげる。


「そんなのヤルからに決まってんだろ? それで飽きたら奴隷として売るんだよ! 人間のくせして、あの女達は質がよさそうだったからな! 高値で売れるだろうぜ! ハッハッハッ!」


「ゲスが……」


 こいつらは許すわけにはいかない。

 ここで確実に仕留める。

 俺はもう二度と家族を失うわけにはいかないッ!


 俺が槍を握りしめていると、大剣持ち竜人は、再び槍を持ち竜人へと大剣を突きつける。


「うるせぇんだよ……その頭を消し飛ばすぞ?」


 大剣持ち竜人が鋭い殺気を放つ。

 奴らの視線が大剣持ち竜人に集まった瞬間、白銀の線が走った。


「あ……が……」


 サーベル持ち竜人の首が落ちる。

 竜人の首を切り落としたバロンは、そのまま弓持ち竜人へと向かっていく。


 今だッ!

 俺は手に持った槍で、最速の突きを放つ!

 狙いは、この状況についてこれていない槍持ち竜人だ!


 突き出された槍は、風を切り、うねりを上げるように槍持ち竜人の胸へと向かう。

 槍持ち竜人は、こちらに気付くが、このタイミングではもう遅い。


「チッ!」


 この攻撃に大剣持ち竜人が反応していた。


 大剣持ち竜人の立ち位置は、俺と槍持ち竜人の延長線上だ。

 たとえ反応できたとしても、俺の攻撃を防ぐことはできないだろう。

 これで2対2だ!


 ……だが、俺の予想は裏切られた。


 確かに、槍持ち竜人の体は貫かれた。

 しかし、貫いたのは俺の槍ではない。


「ガハッ!」


 槍持ち竜人は、腹部を大剣に貫かれていた。

 大剣持ちは、そのまま大剣を頭上へと振り上げる。

 それにより、槍持ち竜人は後方へと飛んでいく。

 少し間が空いて、槍持ち竜人の槍が甲板に突き刺さる。


「後ろでポーションでも使ってろカス。それにしても……ッ!」


 大剣持ち竜人は、そのまま大剣を振り下ろす。


 ガギィィィンッ!!


 俺が突き出した槍と振り下ろされた大剣のぶつかり合う音が響く。


「クッ!」


 俺の手に重い一撃が伝わってくる。


 なんていう一撃だ……ッ!

 こいつ……ただの竜人じゃない。

 種族専用のスキル持ちか?!


「……味方を売るカスだと思えば、なかなかいい攻撃するじゃあねぇか! お前、俺達を嵌めたな?」


 大剣持ち竜人は鼻で笑う。

 俺はバックステップして距離を取った。


「俺の一撃を受け止める奴なんざそういねぇ! おもしれぇぞ! 楽しませてくれよ?!」


 そう言って、大剣持ち竜人は俺に切りかかってくる。

 俺は、それを盾で受け流して槍で反撃する。

 いつもの俺の戦闘パターンだ。

 この攻め方で、バロンが駆けつけるまで耐える。

 俺は持久戦に持ち込むつもりだ。


 ……しかし、俺の槍はあっさりと大剣持ち竜人の左腕を貫いてしまった。


「なっ?!」


 あまりにも不自然だ。

 向こうから刺さりに行ったようにも見えた。

 槍を引き抜こうとするが、槍は刺さったまま抜けない。


 ……しまった! これは罠だ!


「右半身ががら空きだぞ?」


 俺の右半身は、槍と共に前に突き出たままだ。

 奴はその伸びきった右腕を大剣を振るう。


 今から身を引いても、盾を出しても間に合わないッ!

 右腕を持っていかれるッ!


 そんな中、俺の脳内にあるやり取りが浮かんだ……


「俺がしごかれる必要はあったんだろうか……?」


「やったぞルシエル! レベル60になってパラディンになってる! 聖盾ってスキルも覚えているぞ!」


「ええっ?! 嘘でしょ? 冗談だったのに……!」


 俺は、無意識のうちにスキルを発動した。


「聖盾ッ!」


 その瞬間、盾から強烈な光が放たれた。


「グッ……ガァッ!」


 大剣持ち竜人は、不意の閃光(せんこう)に目をくらませてひるんだが、大剣を振り切る。


 この一瞬さえあればッ!

 俺は槍を手放して、右半身を引く。


 ブォォォンッ!


 ついさっきまで俺の腕にあったところへと、大剣の重い一撃が振るわれる。

 魔導船へと強烈な一撃が叩き込まれた。

 甲板の木が砕ける轟音とともに木片が宙に飛び散る。

 大剣持ち竜人が、全力で大剣を振り切った後、わずかな隙ができた。


 その隙は逃さないッ!


 俺は、右半身を引いた分、左半身を前に出す。

 左手に持つは、聖盾の効果を得た盾。

 その盾を全力で突き出す。


「ガハッ!」


 盾で殴打された大剣持ち竜人は、大剣を落として後方へとぶっ飛んでいく。

 その軌道は魔導船の外。

 手を伸ばしても魔導船には触れられない距離だ。

 これでこの竜人は、空へと放り出されるだろう。


 ……だが、またしても俺の期待は裏切られる。


 奴は、左腕に刺さった俺の槍を引き抜き、魔導船の甲板の柵へと突き刺すことで、魔導船の外に放り出されることを防いだのだ。


「なんて奴だ! タフすぎるだろ……ッ!」


 まだ戦闘は終わっていないってことか……

 バロンの方を見ると、バロンは残りの2人の竜人と戦っていた。


 ……奴がバロンの方に向かわないようにしなければならない。


 俺は、槍持ち竜人の槍を拾って、奴のもとへと駆ける。


 あと、その途中で奴が落とした大剣は、ちゃんと魔導船の外へと放り投げておいた。

 抜かりはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ