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虹色の卵

 名もなき魔王。

 僕が転生する原因となったゲーム、『スカイ・アース・ファンタジア』のラスボスだ。

 アイテムを惜しみなく使い、何度も死に戻りしてようやく倒すことができた最強のボス……

 その名もなき魔王の魔石が、僕の目の前にあった。


 儚げな光を放っている透明で澄み切った魔石。

 3人のおっさん達は、その魔石の異常さに目を見張った。


「こ、これは……このような澄んだ魔石は見たことがありません。見ていると呑み込まれそうになります」


「ふむ。我も何百年と生きてきたが、このような魔石は知らん。……もし、この魔石を持つような魔物がいたのなら、恐らくは宝石竜と同等……いや、それ以上の力を持っていただろうな……」


「……俺も一度だけルビードラゴンを見たが、あれは自然災害のようなものだと感じた。 それ以上の魔物だというのか? この魔石の主は……?」


「娘よ。この魔石の主は、一体なんなのだ……?」


 エウロスさんがリーチェに問う。

 リーチェは口を開こうとしたが、僕の方に振り返る。


 僕が説明しろということか……


「その魔石は、僕が……いや、僕と僕の仲間達(テイムモンスター)が、前世(ゲーム)で倒した魔王のものです。……その魔王の名前はありません。僕達は名もなき魔王と呼んでいました」


「ま、魔王……だと……? それは本当なのか? お主らだけで魔王を倒したというのか?」


 エウロスさんは信じられないという顔で、僕とリーチェを見る。


「宝石竜と同等以上となると、アークデーモンやアークリッチ、エンシェントドラゴンとかだしな……ルシエルの言うことは、あながち間違いじゃないはずだ」


「確かに……もし魔王の魔石なのだとしたら、この異常さには説明がつきますね……」


 一方で、アレスおじさんとバロンは、僕のことを信じてくれている。


「ううむ……この際、魔王かどうかは置いておくといよう。小僧、本当にこの魔石を使う気か?」


 エウロスさんが、勿体無いからやめておけと言いたそうな顔で僕を見る。

 アレスおじさん達も同じだ。

 ただ、リーチェと母様はどっちでもいいみたいだ。


 そう言われてもなぁ。

 どうせこのまま置いておいても、インベントリの枠を圧迫するだけだし……

 それにどうせなら、持ってるものを全て使い尽くしてでも最強のドラゴンを作りたい……!

 僕はロマンに生きる!


「はい! 使います!」


 僕がそう言うと、エウロスさんは溜息をつく。


「……そうか、では卵を安置する施設へと案内しよう。その魔石を使うのは勿体無いとは思うが……持ち主である小僧がそうしたいなら使うがよい。……勿体無いとは思うがな」


 2回言われた。

 大事なことだったのだろう。

 エウロスさんは、僕が持つ魔石を名残惜しそうにずっと見ていた。

 施設へと移動している際もずっと……


▽▽▽


 僕達は、卵の安置施設まで移動した。

 安置施設の中は、6畳ほどの白い部屋で、部屋の真ん中に卵を置く土台が設置されていた。

 安置施設に足を踏み入れると、部屋の空気が少し違うことに気が付く。


「小僧、この部屋の違和感に気付いたか? この部屋の中にある魔素を無くしておるのだ」


 魔素とは魔力の源。

 この世界の空気中には魔素が漂っている。

 僕達は空気中に漂っている魔素を吸い込むことで、体内に魔力を生成している。

 もし魔素が取り込めなければ、魔力を回復できずに魔力枯渇の状態に陥ってしまう。

 魔力枯渇に陥って、そのまま放置されてしまうと最悪死に至る場合もある。


「それって危なくないんですか?」


 僕がそう言うと、エウロスさんはふっと笑った。


「何を言っているんだ? 当然だろう」


「ですよね。それを聞いて安心しました」


 安全だからこそ、こうやって運用してるんですよね。

 そんな当たり前のことを聞いてしまうなんて……

 これからは、よく考えてから聞くようにしよう。


「魔素がないと魔力を回復できないのだから、危ないに決まっているだろう。この環境で卵に魔力を注ぎ続けるのだ」


「えっ?」


「では検討を祈る。我らは外の監視室で見守っておくから頑張るのだぞ?」


 そう言ってみんなは安置施設から出て行った。

 この安置施設内にいるのは、僕とリーチェのみ。

 母様は少し心配そうに僕を見ていたが、リーチェが残るのに気づいて、安心した様子で出て行った。


「さて、この卵に魔石を入れて、魔力を込め続けるのよね? 私も手伝うわよ?」


 リーチェはそう言って、卵を台座に置く。

 その後、隣に来たリーチェは、心配そうに僕を見つめる。


「どうしたの? 大丈夫?」


 リーチェの優しさが身に染みるよ……


「大丈夫だ、問題ない。……リーチェ、ちょっと本気で魔力込めてみない? どうせなら、ベストを尽くしたい!」


 僕がそう言うと、リーチェは呆れたような顔をした。


「はぁ……別にいいけど。いつものやつであってるかしら?」


「うん! いつもので!」


 僕がそう言うと、リーチェはすっと表情を変える。


「いくわよ……魔力同期発動ッ!」


 リーチェがスキルを発動する。


 『魔力同期』

 契約者とテイムモンスターの魔力を同期するスキル。

 レベルの高ければ高いほど、お互いの魔力を同期することができ、魔力使用時の摩耗を無くすことができる。

 リーチェの魔力同期のレベルは10。

 つまり、僕の魔力とリーチェの魔力はそのまま合算される。


「んくっ……つ、次!」


 魔力同期を発動したためか、リーチェはびくっと震えた。

 そのまま、次のスキルを発動する。


「ま、魔力炉起動ッ!」


 『魔力炉』

 テイムモンスターの所持魔力を増加させ、魔力の自然回復速度と回復量を向上させるレアスキル。

 魔力の自然回復速度と回復量については、この部屋ではあまり効果はないが、所持魔力の増加の効果は大きい。

 レベル1毎に魔力を30%増加させることができる。

 リーチェの魔力炉のレベルは10なので、300%増加……つまり、リーチェの魔力は4倍となる。

 さらに僕とリーチェの魔力が一緒になっているため、僕の魔力も4倍となる。

 このスキルはかなり強力だが、1日に1度しか使えないという制限もある。

 まさにリーチェの奥の手ともいえるスキルだ。


「んんっ!……はぁ……はぁ、だ、大丈夫よ……魔石を入れて頂戴……」


 そう言って、リーチェは卵に両手を向ける。


 リーチェの顔は赤くなり、息も荒くなっている。

 もともと膨大だったリーチェの魔力が、急に4倍になったんだ。

 きついだろうけど、今は耐えてくれ!


「リーチェいくぞ! 頑張ってくれ!」


 僕の声にリーチェは頷いて返す。

 僕は名もなき魔王の魔石を卵の穴に入れた。


「今だ! リーチェ魔力を!」


「んんーっ!」


 リーチェの魔力が卵に注がれていく。

 高濃度の圧縮された魔力が卵の穴へと吸い込まれる。

 魔力を吸い込めば吸い込むほど、薄い灰色をした卵が徐々に白く変わっていく。


「ま、魔力がもう無くなりそう!」


「よしきた! 任せて!」


 リーチェの声を聞いて、僕はインベントリからアイテムを取り出す。


 『マックスマナポーション』

 魔力を全回復するポーション。


 僕はマックスマナポーションを飲み干す。

 オレンジジュースみたいな味だ。

 マックスマナポーションってこんな味だったんだな……

 その量およそ160ml、スーパーでよく売ってたミニサイズの缶ジュースぐらいだ。


 今のレベルの低い僕の魔力が4倍になったところで、膨大なリーチェの魔力量と比べたら雀の涙だろう。

 だが、リーチェの手がふさがっていても、僕がマナポーションを飲むことで魔力を回復できる!

 魔素が無くて、魔力が回復できなくても関係ない。


 僕はこれから、このマックスマナポーションを飲み続ける。

 リーチェが頑張ってくれてるんだ。

 僕もまだまだ頑張らないとね……

 勝負だ! 名もなき魔王の魔石とミミックリザードの卵!


 ここから、一体何本飲んだのかがわからなくなるほど、僕はひたすらにポーションを飲み続けた。

 ただ、飲んでも飲んでも魔力は吸われ続けるので、そのうち僕は考えるのをやめ、ポーションを飲むだけの存在となった。

 ……それは、魔力を卵の魔力許容限界まで注ぎ終わったと言われるまで続いた。


▽▽▽


 一方、外の監視室では……


「この魔力量は……!? あの娘、何という膨大な魔力だ! 高密度の魔力を一寸の歪みなく放出しているだと?!」


 魔力量と魔力制御に関しては、我ら四竜公よりも確実に優れている。

 この娘は危険だな。

 場合によっては……


「リーチェお嬢様は何かスキルを使っていましたね。それも2つほど」


 アレスの執事が不意に口を開く。

 この執事もなかなか曲者(くせもの)だな……

 それに、こやつの目に何か違和感を感じる。

 魔眼の類か?


 アレスの周りには不可思議なやつが集まってくるようだ。

 これはしばらく気が抜けぬ。


「うわっ! ルシエルどれだけポーションを飲むつもりだ?! 腹がたっぷたぷになるぞ!!」


「ルシエルちゃん大丈夫かしら? ポーション中毒にならないかしら?!」


「ラスティナ様、その場合は私が治しましょう……最悪、坊ちゃんには吐いてもらいましょう」


 ……気が抜けぬ。


 その後、30分ほど経過して、卵が虹色の光を放ち始めおった。


「これは……」


 魔物の卵は、輝きによって潜在的な強さが変わる。

 その強さを測る指標として、卵には等級が設定される。

 輝きを感じられると1等級。

 薄っすらとでも輝いていることがわかるなら2等級。

 全く輝いていないなら3等級。

 あの卵は、間違いなく1等級の基準を超えておる!


「虹色に光ってて綺麗な卵ね……ルシエルちゃんもリーチェちゃんもよく頑張ったわ」


「またとんでもない卵ができたな。魔王の魔石を使ってたら当然かもしれないが……」


「どんな魔物が生まれるのか楽しみですね! 年甲斐もなくワクワクしてきました」


 そんな中、外からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。


「エウロスさん! トイレ! トイレはどこですか?!」


 小僧が監視室へと駆けこんできた。


「……この部屋を出て左にまっすぐ行くと扉がある。そこがトイレだ」


「あ、ありがとうございます!」


 そう言って、小僧は出ていきおった。

 呆れてものが言えぬとはこのことか……


「あー、そのなんだ……ポーションをがぶ飲みしてたから仕方ないよな! いや、男らしいよルシエルは!」


「……」


 あの小僧だけは、別に放っておいてもいいのかもしれぬな。


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