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大空と魔導船

 母様の屋敷の裏手にある運動場のような広場。

 その広場の隣には、魔導船を格納しているドックがあった。


「ルシエルちゃんどう? あれがお母さんの魔導船よ!」


 母様が指さした先には、1つの魔導船があった。

 前世で知っていた船とは少し違っていて、船に飛行機のような主翼があり、船の底が平べったくなっていた。

 その他は前世の船と同じ感じような感じで、船首と甲板があり、縦帆と横帆が2つずつ付いていた。

 魔導船の長さは、40メートルから50メートルほどで、小型フェリーぐらいの大きさに見える。


 ゲームでもカッコいいと思っていたけど、実際に目の前で見るとすごい迫力がある。

 一体どれくらいのお金が掛かったんだろう……

 聞くのが怖いから聞かないけど。


「すごいね……思っていたよりも、ずっとカッコいいよ……」


 この船で空を飛ぶのは気持ちよさそうだな……

 早く乗りたい。


「リーチェちゃんはどう?」


 母様は僕だけでなく、リーチェにも感想を聞く。


「このような立派な魔導船を所持しているとは……さすがはお義母様です」


 リーチェは無難に褒めて、母様をよいしょした。


「うふふ。ありがとう。リーチェちゃん」


 そう言って母様はリーチェを抱きしめる。

 リーチェもされるがままだ。

 なんだかんだで、リーチェと母様は仲良くなれている。

 母様と出会ってから、リーチェが少し明るくなった気がするし……


 ……今思うと、ここまでの旅のメンバーって、おっさんが2人、子供(前世がおっさん)が1人、女の子が1人だったもんな。

 そりゃあ、リーチェもちょっと居辛いというか、気を遣うよね……

 母様が旅のメンバーに加わってくれて良かったよ。


「おーい! ラスティナ嬢、これで全部だぞっ! ふぅ。本当に向こうで暮らす気なんだな……」


 アレスおじさんとバロンが、大量の荷物をドックまで運んできた。

 これは全て母様の荷物だ。

 母様の日用品や衣服、仕事道具、その他の便利な魔道具などなど。


「そうです! 私はルシエルちゃんとリーチェちゃんと一緒に暮ら……」


「はいはい! もうわかったから! ……それで、この荷物は中に運べばいいのか?」


 アレスおじさんはうんざりした顔で、母様の話をぶった切る。

 話を切られた母様は、頬を膨らませて不服そうにする。


「……はい。お願いします。食料は使用人達が頑張って持ってきてくれましたから、その荷物を入れたら準備完了です」


「了解した。バロン、俺達の荷物はもう積み込んでるんだっけか?」


「はい。全て積み終わっています。我々は最小限のものしか持ちませんでしたし、早く終わりましたよ」


 バロンはそう微笑む。

 遠回しに母様の荷物が多いと言っているように聞こえる。


「もう! バロンまで小言はやめてよ。……相変わらずからかうのが好きよね」


「そんな滅相もございません。 私が最後にラスティナ様に小言を申したのは……ラスティナ様が魔導船で屋敷を半壊させたときでしたかな?」


「半壊まではさせてません! 半分の半分くらいです! もうっ! ほら早く行って行って!」


 母様にそう言われたアレスおじさんとバロンは、笑みを浮かべながら荷物を魔導船内へと運び始めた。


「まったく! アレスお義兄さんとバロンは本当に意地悪なんだから……2人はああなっちゃダメよ?」


 母様は僕とリーチェにそう言って一緒に抱きしめる。


 うう……

 2人のいい匂いがしてドキドキしてきた……

 母様からは石鹸の香りが、リーチェからは花の香りがする。


「お義母様! そろそろ行きませんと。おじさま達が待っていますわ」


 僕の隣でリーチェがそう言った。

 いきなり耳元で大きな声を出されたので、びっくりしてリーチェの方を向く。


「あっ」


 僕とリーチェは母様に抱きつかれていて密着している。

 僕達の身長の高さも、ほとんど同じで140cmほど。

 そんな状態で横を振り向くとどうなるか……


「えっ?」


 僕は、リーチェの頬にキスをしてしまったのだった。


 僕たちは数秒固まった後、お互いに顔を真っ赤にする。


「ご、ごめん!」


「あらあら。ルシエルちゃん、責任取らないとね……リーチェちゃんもやり返していいのよ?」


 僕達に二コっと微笑む母様。

 顔を真っ赤にしたままのリーチェは、姿を隠して逃げようとするが、母様ががっちりとホールドしている。

 母様からは逃げられない……!


「うふふ。リーチェちゃん、からかってごめんなさいね。……でもほっぺたをビンタするぐらいは、やり返してもいいのよ?」


 母様がなにやら物騒なことを言った。


「えっ?! 母様なにを! ひでぶっ!!」


 瞬間、僕の左頬に衝撃が走る。

 僕はそのまま吹っ飛ばされて、地面を何回か転がって停止する。

 気を失う前にチラッと見えたのは、慌ててこちらに駆け寄ってくるリーチェの姿だった……


▽▽▽


 目を開くと、僕は空を見上げていた。

 後頭部には枕のようなものがあるようだ。

 僕は、枕を頭の下に動かそうと手を伸ばす。


「ひゃうっ!」


 後頭部にあったものに手が触れると、上から驚いたような声が聞こえてきた。

 リーチェの顔が、僕の視界に入る。

 伸ばした手が触れたものは、枕ではなかったみたいだ。


「あっ。えっと、おはようリーチェ……」


「……おはよう」


「おっ! やっと起きたかルシエル! ほら、こっちに来て見てみろよ!」


 僕達の声に気付いたのか、アレスおじさんの大きい声が聞こえてくる。


「ほら。おじさまが呼んでいるから、そろそろ起きなさい」


「うん。リーチェ、膝枕ありがとね!」


 かなり名残惜しいが、僕は体を起こす。

 僕は、今行くよとアレスおじさんに叫ぼうとした。

 ……が、声が出なかった。


 視界を覆い尽くす青い空。

 その空に沢山の雲が、太陽の光を浴びて輝く。

 そんな綺麗な雲が、僕の視界に入っては消えていく……


 僕は今、この空の中を突き進んでいた。

 正面からの風が、僕の全身を撫でる。


 空ってこんなに綺麗だったんだな……

 空は青い、雲は白い。

 ただそれだけなのに、僕はそれに感動して声が出なかったのだ。


「おーい! ルシエル! こっちだ!」


 後ろの方からアレスおじさんの声が聞こえる。

 魔導船の後方にアレスおじさんが見えた。

 どうやら僕が今いる場所は、甲板の前方部分のようだ。


 僕は甲板の後方部分へと続く階段を上がる。


「やっときたかルシエル! はははっ! 相変わらず、出発の時に締まらないやつだな!」


 アレスおじさんは、笑いながら僕の背中を叩く。


「ほら、俺達が住んでいたアリステラ大陸が見下ろせるぞ!」


 僕はそう言われて、甲板の柵に近付く。


「うわぁ……僕たちの住んでた大陸って、本当に浮いてたんだ……」


 僕達が住んでいたアリステラ大陸。

 その大陸は、空に浮かんでいた。

 この光景を見て、前世で有名だった天空の城ラ○ュタが、僕の頭の中をよぎった。


 ゲームの世界では、全ての大地が空に浮かんでいるってことを聞いてはいた。

 でも、まさか本当に浮かんでいるとは思わなかった……


 確か、ゲームだと……

 プレイヤーは冒険者となって、果てしない大空に浮かぶ未知なる大地を冒険するんだ。


 この空のどこかにも、人知れず眠っている大陸が沢山ありそうだ。

 それこそ、本当に天空の城とかがあったりするかもしれない……


 僕達が目指している竜王国ドラグヘイムも、ダンジョンあり、冒険者あり、ドラゴンありのところだし、今からワクワクが止まらないぞ!


 ああ、女神様。

 この世界に転生させてくれてありがとうございます。

 僕は今、猛烈に異世界を感じてます!


 僕の異世界生活は、まだまだこれからだ!

 ニヤニヤしていた僕は、アレスおじさんに心配されながらも、これからの出来事に期待を膨らませるのだった。


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