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騎士の潜伏

 アレスおじさんが林の中に入ってから、僕とバロンは今後のことについて話していた。


「バロン、シルフェイユ領に入ったけど、母様のところまではあとどれくらいかかるのかな?」


「そうですね……坊ちゃんのお母様、ラスティナ様がいる屋敷には、明後日の昼に到着する見込みですね」


「明後日か……母様に会った後は、魔導船に乗る感じかな?」


 魔導船。

 ゲームの時は、船に乗るとブラックアウトして瞬間移動だったから、どんな感じか楽しみなんだよね……


「そうですね。ラスティナ様の操縦する魔導船に乗せていただくことになると思います」


「え? 母様の操縦する魔導船って?」


「……ラスティナ様は、まだ坊ちゃんに話してなかったんですね」


 バロンはこほんと咳払いをする。


「簡単に説明しますと、今から15年ほど前に、魔導船の操縦と支援魔法は非常に相性が良いということが発覚しました。それから支援魔法の扱いに長けたラスティナ様は、魔導船の操縦士にスカウトされて、坊ちゃんを授かるまで操縦士を続けてこられたのです」


「そうなんだ……」


 全然知らなかった。

 あ、もしかしてシルフェイユ家が成り上がったのって、魔導船が絡んでるのかな?


「今も母様は魔導船の操縦士をやってるのかな?」


「いえ……今はまだ復帰はしていないはずです。復帰したら一番に坊ちゃんを乗せてあげたいとおっしゃっていましたから」


「母様……」


 そういうのを聞くと、泣きそうになるから勘弁してほしい。

 僕も母様に何かしてあげられないだろうか?

 強くなるだけじゃなくて、なにか親孝行できることがないかも考えておこう。


 その後しばらく考えて事をしていると、林の奥にアレスさんが見えた。


「あっ、アレスおじさんだ」


 特に外傷もないので、無事戻ってこれたようだ。


「さっきの声なんだが、あれはコボルトの鳴き声だったようだ。この林の先にコボルトの隠れ家があった」


 おっ。リーチェの誘導が成功したんだな。

 あとでお礼を言っておこう。


「コボルトか……アレスおじさん、どうするの?」


「そうだな……」


 アレスおじさんは、顎に手を当てて思案する。


「ルシエルは祝福の儀を受けてから魔物を倒していなかったな?」


「はい」


 最後に魔物討伐の訓練を受けたのは半年ぐらい前だ。

 その訓練では、ウルフとコボルトを討伐した。

 そこで始めて魔物を殺めて、泣いてしまったことを覚えている。

 今思うと、あれは魔物と戦う訓練ではなく、魔物を殺める訓練だったんだろうな……


「……よし。コボルトを討伐しよう。ルシエルの経験にもなるだろう。ジョブのレベルを上げるには、モンスターと戦うのが一番手っ取り早いしな」


 アレスおじさんは少し悩んだ後そう言った。


「バロン、馬を木に繋いでおいてくれ」


「かしこまりました」


 バロンが馬を木に繋いだ後、僕たちはコボルトの隠れ家へと向かった。


▽▽▽


 僕達は、木々が無造作に生い茂る林を突っ切り、コボルトの隠れ家に通じる洞穴までやってきた。


 山の側面にぽっかりと空いた穴。

 この奥にコボルトの隠れ家があるらしい。


「よし。じゃあ手順を説明するぞ。まず俺が中に入って、撹乱した後に片っ端からコボルトを倒していく。ルシエルはここで出てきたコボルトを倒すんだ。バロンはルシエルの側でサポートだ。問題ないか?」


 バロンが頷いたのを見て僕も頷く。


「じゃあ行ってくる」


 そう言ってアレスおじさんは、槍を片手に洞穴へと入っていった。


 しばらくして、コボルト達の叫び声のようなものが聞こえてきた。

 ……僕にもはっきりと聞こえてきてしまった。


 コボルト達の悲鳴と嘆きの声が、はっきりとした()()()()()()


 僕の頭の中は真っ白になった。


 なんで……コボルトの声が……?


 全身がぞわっとして鳥肌が立つ。

 ここで、僕は自分のスキルを思い出した。


 『言語翻訳Lv10』

 その効果は、あらゆる言語も自動で翻訳することができる。


 今、僕は知った。

 その効果は、独自の言語を使う魔物にも有効だということを……


「っ!」


「坊ちゃん?!」


 気が付いたら僕は走り出していた。


 バロンが慌てて僕を追いかける。


「坊ちゃん! 中は危険です! ここでお待ちください!」


 バロンが僕の腕を掴もうと手を伸ばすが、その腕は僕に触れることはなかった。


「こ、これは? 氷の壁?!」


 バロンの前に出現した氷の壁は、僕とバロンを完全に分断した。


 僕はそのまま奥に向かって走る。


「ぼ、坊ちゃん! お待ちください」


 中に進むにつれて、暗くて先が見えなくなってくる。

 暗くなるにつれて、コボルトの叫びの声が多く聞こえてくる。


「くそっ! 見えなくなってきた……!」


 その声に応えるかのように、道を照らす光が生まれる。


 リーチェか! 助かる!

 そこで僕はリーチェに懇願する。


「リーチェ! いるんでしょ?! アレスおじさんを止めてコボルトを守って! 姿を見せても良いから! 僕にできることならなんでもするからお願い!」


 僕は走りながらリーチェへと叫ぶ!


『あなたがそう望むなら』


 リーチェの声が聞こえた。


 宙に浮かぶ光に沿ってしばらく走ると、火の明かりが見えてくる。


 もうそろそろだ……!


▽▽▽


 ルシエルとバロンが外で待っている間、アレスはコボルトの隠れ家に侵入して、身を潜めつつ奥に進んでいた。


 すれ違うコボルトは殺さずに皆気絶させている。

 コボルトは匂いに敏感なため、血の匂いで騒がれないようにしたい。

 これらの気絶したコボルトは、ここから出るときに一掃する予定だ。


 こうして回りくどいことをしているのには訳がある。

 単純に討ち漏らしを無くすためというのもあるが、もしコボルトが人を攫っていた場合、その人を人質にされたり、下手に刺激して殺される可能性があるからだ。

 なので、人が捕らえられていないかを確認するまでは、気付かれないようにしなければならない。


 そうしているうちに大きな建造物に辿り着く。

 この建物が最後だ。

 ここまでの建造物を調べたが、人が捕まっている様子はなかった。


 その建物の中には、先ほどまでのコボルトとは違って、良い装備を付けたコボルトが何体かいた。

 おそらくコボルトの精鋭部隊だろう。


 そして、そのコボルト達を殴ったり、叫んだりしている大きなコボルトが1体いた。

 おそらくあれが親玉だ。


 ここで親玉を仕留めれば、その混乱に生じて動きやすくなる。

 そう考えたアレスは、初手で親玉の暗殺を試みる。


 瞬間、アレスは建物の中をトップスピードで駆け抜けて、親玉の首に槍を突き立てる。


 周りのコボルト達はアレスに気付くも、何一つ動けずにいた。

 アレスの槍が親玉の首を貫いてから、ようやく状況を把握して動き出すことができた。


「グオォォォッ!!」


 親玉の断末魔の叫びが建物内に響く。

 叫びとともに、精鋭のコボルト達はアレスを囲む。


 その他のコボルト達も声を上げて外に逃げる。

 恐らく、救援を呼ぶか逃走するかのどちらかだろう。


 アレスの背後は壁、正面には8体の精鋭コボルト達。

 精鋭コボルト達は、じりじりとアレスに近付いて距離を詰める。


 アレスは殺気を放ってコボルト達を睨む。

 コボルト達はアレスの放つ鋭い殺気に怯み、それ以上アレスへは近付けずにいた。

 その隙を見逃さず、アレスが一番近くのコボルトに槍を突き出す。


 ……しかし、突如アレスに向かって突風が吹き荒れる。


「クッ!」


 アレスは武器を引き、バックステップで距離を取る。


 コボルト達は風を影響を受けてない。

 この様子を察するに、どこかにコボルトの魔術師が潜んでいる可能性がある。


「始めまして。おじさま」


 建物内に凛とした女の子のような声が響く。

 アレスは声のした方へと顔を向ける。

 その場所はアレスとコボルトの間の空中。


 顔を上げたアレスは驚愕した。

 宙に女の子が現れて、浮いたままこちらを見ていたからだ。


 整った顔立ちをした少女。

 こちらを見透かすような澄み切った赤い瞳。

 太陽の光のように微かに赤い銀髪。

 淡く光った空色の羽。

 そんな少女が、薄緑色のドレスに身を包んでいる。


 美しい。まずアレスはそう思った。

 そして、それ以上に恐ろしいと感じてしまった。


 アレスは槍を構えて警戒する。


 恐らく、父上よりも強い……

 そう感じてしまうほど、この少女からは底の知れない何かを感じる。


 恐らく戦えば無事では済まないだろう。

 幸いにも会話はできるようだし、可能であればここは戦闘を回避したい。


 でも、この少女はそう簡単には逃がしてはくれないような気がするな……

 アレスは、目の前の少女と向き合いつつも、この場をうまく切り抜ける方法を考えるのであった。


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