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百人殺しのサラマンド  作者: なりた
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 ブラハム国とパルティア国は、地中海を挟み南北に位置していた。

 南のブラハムは温暖な気候と肥沃な土壌、鉱物資源にも恵まれていた。ただし地中海のはるか先にある北東の超大国からは遠いため、文明的には他国より遅れ、良くいえば独特の文化圏を築き上げていた。

 対するパルティアは地中海に突き出た半島に根を下ろし、土地は痩せ、鉱物資源も目立ったものはなく、畜産と羊毛製品が主な産業だった。しかし地政学的には東西文化の中継地であり、さらに東西に伸びる地中海では南方の国々とも近く、交易で国が成り立っていた。

 天候がよければブラハムの港からパルティア半島がはっきり見えるほどに、両国は位置的に近い。近いが故に交易が盛んであり、近いが故に古より争いも多かった。

 両国は国境を接しているわけでないため、領土のためというより、交易のこじれが争いのもとになっていた。ブラハムはパルティアに銀を売り、大国の最先端の物品を買っていたが、パルティアはたびたび売るのをしぶってより多くの銀を要求し、ブラハム王を苛立たせていた。

 小さないざこざは絶えなかった両国だったが、五年前、ついに大規模な海戦が起こった。パルティアは新型の二段櫂船を投入し、船速でブラハムを圧倒するものの、ブラハムは逆に小回りの効く小型船で、統制のとれた緻密な戦術で相手を翻弄した。そして接舷してしまえば歩兵の武力では、死を恐れないブラハム兵が勝っていた。

 戦は結局引き分けで終わるも、このとき守りが手薄になったブラハムの港町に三艘のパルティア船が侵入し、そこで略奪を行った。抵抗する町人は無惨に殺され、女子供は捕えられた。パルティア兵はそこから進軍することもなく、奪った金品と女子供を積めるだけ積むと本国へ帰投したという。

 直後にブラハム国が猛烈に抗議したが、パルティア国は海賊によるものとして軍の関与を認めなかった。

 それから五年が経ち、ブラハム王はパルティアに囚われた同胞を解放、奪還する目的で討伐軍の派遣を決定する。これにサラマンドも義勇兵として志願したのである。

 前回の海戦で軍船の性能が大きく劣ることを思い知ったブラハム軍は、今回は海戦は挑まず、船で兵と物資をパルティア北東部の沿岸に運び、そこから陸路で王都を目指すこととした。陸戦では絶対に負けない自信があったからだ。

 だが――。ブラハムにとっては国力を回復させる五年だったが、パルティアにとってはそうではなかった。

 北東の超大国アガルフルスから最新の武具を購入し、それらを活かす戦術を確立していた。

 開戦当初は勢いの良かったブラハム軍だが、次第に攻めあぐね、長期戦になれば武具の質の差もより顕著になっていった。

 予定よりも進軍が遅れに遅れ、兵站の維持がままならなくなると、ブラハム軍は敗走を余儀なくされ、ついには壊走となる。

 殿(しんがり)として孤軍奮闘したサラマンドもついに剣折れ、他の生き残った兵士同様捕虜として捕えられた。

 連れ去られたブラハム人を解放するどころか、ブラハム軍はパルティアに圧倒的な戦力差を見せつけられて、ここに歴史的大敗北を喫したのだった――。


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