表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文句あるかっ!  作者: 凪沙一人
7/19

銃士の旅立ち

 今までの獣人オークたちと異なり、ヴォルグ隊の兵士は統制がとれていた。

「あらあら、囲まれてしまいましたね。」

 周囲を見渡してエトワールは落ち着き払って言った。

「姉さん、今日は洋菓子職人パティシエールじゃないからね? 」

 姉と比べると妹のリヴィエラの方が緊張していた。

「あんまり硬くなると的に当たらなくてよ? シオンさん、ステラちゃんが起きる前に終わらせるのでしたら、お手伝いいただけるかしら? 」

白き(ヴァイス)乙女フロウラインが仰るのであれば。」

 シオンの返事にエトワールは頷いたが、アルカは驚いていた。

「思い出したっ!エトワールって名前、引っ掛かってたんだ。白き乙女、聖女(セント)エトワールっ! 何でこんな所に?! 」

「だって自分の住んでる街ですもの。」

 エトワールは淡々と当たり前の返事をした。

「雑魚は片付けておくから、アルカはヴォルグを頼んだよ。リヴィエラはアルカの援護と我々の退治漏れをよろしくね。」

 何か一番、面倒臭い事を押し付けられた気もするアルカだったが、一番効率的な事も理解した。アルカがヴォルグに向かって走り出すとリヴィエラも後ろに続いた。その直後に二人の背後で白い閃光が放たれた。背を向けていた二人はいいが、ヴォルグ隊は視界を奪われた。と同時に人間より優れていたが為に、その嗅覚と聴覚にもダメージを受けていた。これではシオンの攻撃魔法を避ける余地はない。

「怖いなぁ。自分の手は汚さない。」

洋菓子職人パティシエールは衛生第一ですもの。」

 聖女は虫一匹殺さないくらいの答えを予想していたシオンは苦笑した。

「世のことわりより女性の方が難しいな。」


 一方、ヴォルグを追ったアルカは少し離れた草原にいた。途中、銃声が聞こえていたので、どうやらリヴィエラは残党と交戦中のようだ。シオンとエトワールも居るので心配は無用だろう。

「さっすが、獣士長。野生の勘て奴? 」

「退避命令を出す間もなかった。抜かったよ。だが一人で追って来たのが運の尽きっ! 貴様の首を取って兵士たちへの手向けにしてやる。」

 アルカもヴォルグも相手の出方を伺っていた。だが、長引かせては応援が来るかもしれないと互いに思っていた。ヴォルグは匂いと音を受けとり易いよう風下へ、アルカは風上へと動いた。そして足元の土を蹴り上げると持っていたお香をぶちまけた。修道女シスターとしては、もったいないと思いつつ、獣士長相手では、そうも言ってられなかった。視覚と嗅覚は奪ったが聴覚は無事だ。それでも回復するまで時間はない。ヴォルグが間を詰めるアルカの足音に聞き耳を立てた瞬間だった。大量の爆竹がヴォルグの足元に投げ込まれた。火薬の臭いと煙と破裂音にヴォルグが躊躇した一瞬をアルカは見逃さなかった。気を纏った膝蹴りが急所を捉えた。

「へへぇ~ん、得意なのは銃だけど、それだけじゃないんだよ。」

「銃…ならば背後から撃てばよいものを… 」

 自慢気なリヴィエラにヴォルグが声をかけた。

「それが弾切れ。」

「まぁ追って来たのが一人ではなかったという事が敗因か。こちらも隊を率いて襲撃を掛けたのだ、卑怯とは言わぬ。だが、これからの戦いは…もっ…と… 」

 そこでヴォルグは事切れた。

「もっとキツくなるのは百も承知。次は獣勇士でも来るかしらね。」

「姐さん、獣勇士って何ですか? 」

「リヴィエラ、その姐さんはやめてね。獣勇士ってのは獣士長の上。意外と魔王軍て組織立ってるのよ。エトワールさんが心配するかは戻りましょ。」


 二人がプラントの家に戻ると、すっかり夕飯の支度が出来ていた。

「二人ともお帰りなさい。早く手を洗ってらっしゃい。」

 アルカとリヴィエラが辺りを見回すとアインの姿だけが無かった。

「アインは? 」

「お疲れれ寝んねれしゅ。」

 アルカの質問にステラが答えた。

「ステラちゃん起きてたんだ? 」

「お昼寝から起っきしたや、アルカとリヴィエラらけ居なかったよ。ろこ行ってたの? 」

 リヴィエラの問いに対するステラの答えにアルカとリヴィエラは顔を見合わせた。本当にシオンとエトワールはステラが起きる前に帰って来たのだ。

「アインの特訓って、あと何日かかるの? 」

「終わっているよ。勇者でなければ後継者にしたいくらいだ。」

 それを聞いたシオンは安堵した。

「世辞を言わぬプラントが言うのだ、大丈夫だな。これでプラントとエトワールさんが来てくれれば安心なんだけどね。」

 それにはプラントは無言で首を横に振った。

「大丈夫、あたしが居るって! 」

「リヴィエラ…お前は弾が切れたら役立たずなんだぞ? 」

「そこは… 」

「そこはフォローしますっ! 」

 言おうとした事を先にアルカに言われてシオンは苦笑した。

「面倒を掛けるが頼む。」

「やったぁっ! 」

 プラントから許しが出て喜んだリヴィエラだったが、ふと首を傾げた。

「何か食事運びのお手伝い、損した気がする…。ま、いっか。」

 勇者の口添えは無かったが、結果オーライで納得したリヴィエラだった。

さて次回、獣士長が倒され、魔王軍も勇者一行対策にそろそろ本腰。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ