獣士の襲撃
「兄さん、ただいま~」
ワセッタに着いた一行はリヴィエラの案内でプラントの家に赴いた。
「リヴィエラっ!また隣町か?父さんや母さんが生きていたら嘆くぞ。」
リヴィエラは悪びれる様子もなく舌を出してウィンクして後ろを指差した。どうやら、この兄妹にとっては日常茶飯事のようだ。
「相変わらずだな、プラント。」
「シオンか。何の用だ?」
素っ気ない態度のプラントの横にシオンは腰を下ろした。
「お前の剣技を彼に授けては貰えぬか?」
シオンの言葉にプラントはアインに視線を向けた。
「素材としては良さそうだな。彼は?」
「アイン…勇者だ。」
勇者と聞いてプラントは顔色を曇らせた。
「かつて勇者は世界の希望だった。だが、今では魔王軍の標的となった厄介者。実力をつける前に葬られていく。それを承知で…」
「それを承知で彼は勇者だと名乗りを挙げた。彼の勇気と龍気は本物だ。」
プラントは立ち上がると腕組みをして考え込んだ。
「賢者シオンが言うのだ、嘘はあるまい。だが、まだ若すぎないか?」
「人間の一生なんて魔王には一瞬だ。一人では倒せない魔王を倒すには必要な戦力が揃うその一瞬を逃すと、次は何年、何十年、数千年後かもしれない。それは我々人間がこの先苦しむ月日でもあるんだ。彼は…アインは腕は未熟だが覚悟は出来ているよ。」
プラントは組んだ腕をほどくとアインに歩み寄った。
「気の使い方は彼女から学んだと見た。」
アルカは軽く頷いた。だが、アインにはなぜアインがアルカから気の使い方を学んだ事が判ってものか不思議だった。
「気の流れが似ているのが一つ、それ以前に君たちの中で気を纏えそうなのが彼女しかいない。私からは純然たる剣術を指南する。ついてこれるか?」
「はいっ!」
即答したアインの真っ直ぐな瞳はプラントを納得させるのに充分だった。
「お話しは終わりましたか?」
そう言いながら一人の女性が入ってきた。
「エトワールか。丁度いい、シオンとお嬢さんたちにお茶を。」
「お兄様たちは?」
エトワールの問いにプラントは手を振った。
「私たちは直ぐに修行堂にこもる。食事はリヴィエラにでも運ばせてくれ。」
「あたいはお手伝い…」
プラントに反論したリヴィエラの横でシオンは囁いた。
「勇者と接点は増やしておいた方が、後で味方してくれるかもしれませんよ。」
「お手伝いしますします。食事運びでも掃除でも何でもやります!」
訝しげな表情を浮かべながらもプラントはアインと修行堂に向かった。
「シオン、また適当な事を…。」
眉をひそめるアルカだったがシオンは気にもとめていなかった。
「適当ではないよ。彼は身の回りの世話をしてくれた人の願いを断ったり出来ないでしょう。我々としてもアルカもアインも接近戦主体ですからね、双銃士というのは魅力的な戦力です。」
このシオンの判断は打算的とも現実的とも思えた。
「さて、招かれざる客のお出ましのようですね。」
シオンが立ち上がるとアルカも立ち上がった。
「あたいも行くっ!」
リヴィエラも立ち上がった。同じ危険な気配を感じ取っていた。
「リヴィエラにはまだ早い…とか言ってる場合じゃないわね。お兄様とアイン君は修行堂だし、オートンも不在。私も出るとしましょう。」
そう言ってエトワールも立ち上がった。ステラはうたた寝をしている。
「起きるまでに片付けるとしましょうか。」
「そうだね。」
シオンとアルカが飛び出した。エトワールも姿を消していた。
「えっ?!あたいだけ置いてきぼり?」
リヴィエラも慌てて飛び出した。外で待ち構えていたのは狼頭の獣人たちだった。その群れのリーダーらしき一匹が前に出た。
「貴様等だな、我々の獣民を殺めた勇者一行というのは?とぼけても無駄だ。我々の鼻はごまかせんぞ。」
「しゃ、しゃべった?!」
リヴィエラだけが驚いていた。
「言葉が解るって事は獣士長クラスか。貴様等が町や村を襲うから正当防衛ってやつだっ!」
アルカが反論した。無論、通用するはずもないが。
「我々は人間を襲っているのではない。狩りをしているのだ。人間が食用に鳥や獣を狩るように、我々も食用に人間を狩っている。だから壊滅を町や村なんて聞いた事がないだろう?食料不足にならんようにしているからだ。」
「あたいたちは家畜じゃないっ!あんた等の食い物にされるのはゴメンだよっ!」
今度はリヴィエラが反論した。
「お前等が家畜と呼ぶ動物たちも人間の食い物にされるのはゴメンなんだよ。」
「なっ…」
なおも反論しようとするリヴィエラの肩にエトワールが手をかけた。
「無駄よ。家畜も野生の獣も彼等にとっては仲間。仲間ならざる者、それが人間なの。」
「何それ?人間が悪者みたいじゃないっ!」
二人の会話を遮るようにシオンが前に出た。
「この戦い、食物連鎖の頂点を決めようって訳じゃない。これは勇者が世界中の人類を守るための戦い。そんな戦いを挑む者が現れるのは人間くらいなものさ。」
「所詮、獣人と人間は相容れぬもの。話しは平行線のようだな。我は獣士長ヴォルグ。この名を胸に刻んで散るがいいっ!」
さて次回は勇者不在の勇者一行vs.獣士長ヴォルグ率いる獣士隊の戦い。




