剣聖の妹
アルカ:主人公。修道女。僧兵モンクで踊り子。
アイン:神託で勇者になったという少年。
シオン:アインにアルカを訪ねるよう勧めた賢者
ステラ:シオンを「とと様」と呼ぶ、訳あり幼女
アルカの住んでいた町からワセッタまでは山を二つ、川を一つ、草原と森を抜けた先にある。平和な頃であれば大した距離ではないが魔物と戦いながらなので楽ではない。もちろん、魔物を避けて行く事も出来なくはないが、それではアインの修練にも稼ぎにもならない。シオンのお陰で怪我の手当てには困らなかったし、アルカの踊りは何処の町でも盛況で食べ物や宿も不自由する事はなかった。当然アインの魔物退治の稼ぎは貯めて新しい武器代に充てられる事になった。
「アイン、その木刀を貸して貰えるかな?」
「あ、はい。」
アインはシオンに木刀を手渡した。
「ふむ…アルカさん、この重さでいいのかな?」
アルカは顔をしかめながら首を横に振った。
「その重さは慣れたみたいだから少し重いのにして。それから、二人とも‘さん’付けはなしにしてちょうだい。アインもすぐに戻っちゃったし。」
アインは以前に呼び捨てにしてしまった事を後悔していた。
「旅仲間という事でいいか。それで、本命はもう少し重いって事でいいのかな?」
「あぁやりにくい。賢者が博識なのは知ってるけどデリカシーが足りないってか空気読めないっていうか…余計な事言わないでいいから剣をみてやって。あたしよりは詳しいでしょ?」
シオンは気まずそうにアインと武器屋へ向かった。
「とと様ったや、女の人にまたデいカシーないって言わえちゃった。」
どうやらシオンが女性にデリカシーが無いと言われるのは一度や二度ではなさそうだ。アインはといえば何の話か判っていなかった。
「ちょっと、消耗品なんだから安くしてよっ!」
武器屋に入って最初に飛び込んできたのは店員に何かを値切っている少女の声だった。
「嬢ちゃん、無理言っちゃいけないよ。いくらプラントさんの妹でも駄目なもんは駄目だって。」
やり取りを聞いていたシオンが割って入った。
「そこの剣とこのお嬢さんの分、これで足りるだろ?」
「お客さん、冗談言っちゃいけませんぜ。これっぽっちじゃ…」
そこでシオンが一枚の紙を差し出すと店員は紙とシオンの顔を交互に数回見て奥へ駆け込んだ。すると、すぐに奥から店長らしき男が現れた。
「おやおや、誰かと思えば賢者シオン様ではありませんか。今日は何かお求めですかな?」
男は作り笑いを浮かべながらシオンに話しかけてきた。
「そこの剣と、このお嬢さんが買いにきた代物を売って貰おうと思ってね。」
それを聞いた男は剣と箱を取り出した。
「どうぞ、お持ちくださいませ。なぁに、お代は結構ですよ。はいはい、お客様のお帰りだよ。」
シオンとアイン、それに値切っていた少女は追いたてられるように店を出た。
「兄貴、何だってただでくれてやるんです?」
最初に少女の接客をしていた店員が首を傾げていた。
「賢者シオン…奴に逆らって潰された闇ギルドは数知れねぇ。お前らも奴が来たら丁重に追い返せ。」
「シオンさんだっけ?あの武器屋が代金受け取らないなんて、何者?」
自分にはびた一文まけない武器屋が一銭も受け取らない事が少女には信じられない様子だった。
「あいつらの言っていたとおり、賢者シオン。そして彼は勇者アイン。」
それを聞いた少女はいきなりアインに駆け寄った。
「ゆ、勇者って、あの勇者よね?」
少女は興奮してアインに詰め寄った。
「あらあら積極的なお嬢さんだねぇ。どちらさんだい?」
不意なアルカの声に少女は顔を赤らめて飛び退いた。
「そ、そんなじゃないわよっ!あたいはリヴィエラ、双銃士のリヴィエラっ!あんたら勇者一行なんだろ?あたいも連れてってくれないか?」
アルカは説明を求めるようにシオンに視線を移した。
「これから訪ねるワセッタの剣聖プラントの妹さんだ。案内を頼もうと思ってね。」
そう言ってシオンはリヴィエラに剣と一緒に手に入れた箱を差し出した。リヴィエラはそれを複雑な表情で受け取った。
「あたいの町じゃ刀剣ばっかりで銃なんて邪道だとか言われるんだよ。だから弾を手に入れるのにわざわざ隣町まで来たんだ。せっかく弾を手に入れてくれたんだ。案内はするよ。だから、一緒に連れてってくれないか?」
「とりあえず、ワセッタに着いたら考えるよ。」
「ホントだね!」
リヴィエラは嬉しそうに先頭を歩き始めた。
「なんか忙しない娘だねぇ。だいたいシオンは案内なんか無くても、その剣聖とやらの居場所は判るんだろ?」
アルカに言われてシオンは肩を竦めた。
「とと様、ろおしたのれすか?」
「いや、アルカは鋭いな。でも、頼み事するなら手土産があった方がいいかなってね。」
今度はアルカが首を竦めた。
「喰えない男だねぇ。その剣聖とやらにも同行を?その二つ名からすると腕はたつんだろ?」
「一つはノー、一つはイエス。プラントは腕はたつが動かない。」
「じゃ、あんたは治癒魔法に大忙しだな。」
「喰えないのは、お互い様のようだね。見当がついているようだけど、そのとおり、アインに剣技を仕込んでもらう。勇者が我々より先に殺られては…ね。」
一瞬、アルカはシオンを睨みつけたがシオンは気付かなかったように話しを続けた。
「それでも魔王を倒すには全然足りないのは判っている。この続きはプラントを説得してからだな。」
一行はワセッタに足を踏み入れた。
さて次回、剣聖プラントの下、勇者アインの特訓は始まるのか?