修道女の贖罪
「えっと、この辺りに祠があるハズなんだけどねぇ。」
アルカはシオンから貰った地図の指し示す辺りを見回すが祠らしき物が見当たらない。
「小娘ぇ、探し物はこれか? 」
そこにはブルホークとライガーが祠を手に並び立っていた。
「おやおや、壊せないからって、祠まるごと持ち出すとはねぇ。でも、あたしに渡したくないなら、先に魔王んとこに持って行きゃぁいいものを。」
「う、うるさいっ! ここで貴様を始末すればいい事だっ! 」
ブルホークは空高く舞い上がると一直線にアルカに襲いかかった。左右に張り出した巨大な角は避けるのが精一杯だ。なおかつ、地上を疾駆するライガーの爪牙も避けねばならない。一対一ならば苦もないが地上と上空からの波状攻撃は反撃の暇もない。そこに一発の銃声が轟いた。
「アルカっ! 牛鳥野郎は任せてっ! 」
リヴィエラが連射すると無数の光弾がブルホークを射ぬいた。
「シャノアールの仇、討たせてもらうからねっ! 」
リヴィエラの言葉にライガーがニヤリと笑った。
「あの裏切り猫め、くたばったか。」
そのやり取りにアルカの足が止まった。
「リヴィエラ、シャノアールって… 」
「そう、前の勇者が飼ってた黒猫さん。あたいを庇って殺された。前の勇者がアルカを庇ったようにね…。」
「そうか、飼い主に似てくだらん死に方だ。せっかく魔王様が獣民に加えてくださったというのに前の勇者に義理立てして逃げ出したあげく、武具探しを手伝った。あいつを見張っていれば必ず、また武具探しを手伝うと踏んだが…貴様の手にその銃があるという事は、しくじったか。」
「くだらなくなんかないっ! 」
それはアルカとリヴィエラの口から同時に発せられた。
「フン、貴様等は我々を仇と呼ぶが、貴様等とて我々の同胞の仇。いわば、お互い様だ。これは魔王軍と勇者一行の戦争なんだよ。」
「戦争? 内戦でもなければ国家間でもない。敢えて言うなら魔王軍という侵略者に対するレジスタンス。魔王軍対反乱者ってとこ。とても戦争なんてスケールじゃないわね。」
「武具を手にした以上、一騎当千。充分、反乱軍と呼ぶに値する。二人が武具を手にしていれば俺も危ういが、一人だけなら何とかなる。」
「あら、ごめんなさい。武具、もう一つあるのよ。」
「姉貴ぃ?!」
リヴィエラの声の先にはエトワールが座っていた。
「アルカさん、この大きな猫さんは足止めしておくから、祠の中身、取ってらっしゃい。」
「お願いしますっ! 」
自分が手をこまねいているしかなかった合成獣士を撃ち落としたリヴィエラの銃を見ても武具の威力は絶大だ。ここはエトワールの言葉に甘えるのが正解だろう。
「この黄金獣王ライガー様を猫呼ばわりとはな。この実力が猫かどうか見せてやろう。」
「すみませんが、私がお相手したらアルカさんの出番がなくなってしまいます。そう死に急がずお待ちなさい。」
エトワールは落ち着いた柔らかな口調だったが、ライガーは威圧されていた。
「お待たせっ! 」
アルカの予想以上に早い戻りにライガーは少し驚いた。
「父が封印したとはいえ、さすがに元々自分の武具。取り出しが早いわね。」
「姉貴… 全部知ってたの? 」
リヴィエラの言葉にエトワールは黙って頷いた。
「武具持ち相手に三対一とはな。このライガーの命運もここまでか… 。」
「安心しなよ。一対一で相手してあげる。」
「舐めてるのか? 」
「あたしは前の勇者一行の唯一人の生き残りだよ。あんたなんかに躓いちゃいらんないんだよ。」
そう言うとライガーの視界からアルカが消えた。
「え? 」
声をあげたのはリヴィエラだった。
「あら、あのアルカさんの動きが追えないなんて、リヴィエラもまだまだね。」
エトワールの言葉からアルカは消えたのではなく、目にも留まらぬ速度で動いている事はリヴィエラも理解した。理解しても見えないものは見えなかった。
「今までアルカさんは気のコントロールをしながら戦っていたの。アルカさんの武具は気の流れを生み気を意識しなくていいのよ。リヴィエラの武具が光弾の武具なら、アルカさんのは神速の武具。合成獣士じゃ相手にならないわね。」
エトワールの言うとおり、ライガーは手も足もでなかった。
「やっと巡ってきたチャンスなんだ。今度こそ魔王を倒すんだよ。」
「仇討ちか? 勇者が死んだのは貴様の所為だ。これは戦争だと言ったハズだ。生き残った方が正義なんだよっ! 」
アルカは足を止め、ようやくライガーもアルカの姿を捉える事が出来た。
「これはあたしの贖罪。今度はあたしが命懸けでアインを守る。そして今度こそ魔王を倒すっ!」
再びライガーの眼前からアルカの姿が消えたかと思うと、ライガーは膝から崩れるように倒れた。
「どっちが正しいか…あの世から見せて貰…。」
アルカは大きく息を吐いた。
「さぁ、アインとこ行くよっ! 」
本当はリヴィエラにはアルカに聞きたい事があった。だが、今は後回しにする事にした。
次回はアイン編にして集合編




