魔王軍の再編
どうにかシオンたちをまいたティグレは何とか魔王の居城へと戻っていた。
「よく、おめおめと帰って来れたものだな? 」
黒光りする一本角を撫でながらカブトムシ頭の甲虫王ビートルが呆れ顔で言った。
「獣勇士が敗北したほどの相手だ。仕方あるまい。」
トカゲ頭の火蜥蜴王サラマンダーは獣士長に同情的な言葉とは裏腹に嫌味っぽく舌舐め擦りをしていた。そんな獣勇士たちが急にあらたまって左右に整列した。
「勇者どもに、これ程手こずるとはな。例の物は回収出来たのか? 」
そう言いながら魔王が玉座に着いた。すると魔王の前に恭しく黄金の鬣、漆黒の角、純白の羽毛が運び込まれて来た。
「獣勇士などと煽てていたが、勇者どころか、その従者にすら歯が立たないとはな。そこで軍を再編する事にした。」
そう言うと魔王の放った暗雲が角と羽毛を包み込んだ。そして、暗雲の中から足音と共に漆黒の角が現れた。
「ブルコーン? いや… 。」
ビートルが最初に見たのはブルコーンの角。だが、現れた姿は褐色の翼が生えていた。
「ビークの羽毛は白かったが翼は茶色かったからな。これからはブルホークと名乗るがよい。」
獣勇士たちもブルホークに圧倒されて後退った。
「さて、次は獣士長ティグレ。ファングの後釜に据えるには力不足。新しい力をやろう。」
魔王が息を吹くと暗雲はファングの鬣ごとティグレを包み込んだ。そして中からは黄金の鬣と体毛の獣人が現れた。
「獅子と猛虎のみごとな融合。ライガーと名乗るがよい。」
こうして魔王は、その後も数体の獣勇士や獣士長を合成していった。
「使えそうなのは、こんなものか。」
ブルホーク、ライガーの他に5体の合成獣士が誕生した。
「小隊など率いても無駄なだけ、戦力を削ぐにもならない事はよく分かった。勇者一行を敵と認め、貴様ら7人全力で奴らを潰せ。子供一人とて逃すな。」
アルカたちは道の分岐点に来ていた。
「で、シオン。どっちに向かうんだ? 」
アルカの問いにシオンは腕組みをして辺りを見回した。
「まだ、奴らは来てないようだね。ベタな話しだが魔王を倒すには7つの武具が要る。うち3つはリヴィエラの兄姉が持っているんだが… 」
「えっ?! そんな話し聞いてないよ? てか、だったら連れて来ないとダメじゃん! 」
あたふたとするリヴィエラをアルカが押さえた。そして、シオンは話しを続けた。
「すでに手にある武具を狙わせない事、あの町を狙わせない事。我々が獣士隊や獣勇士たちを倒せば、奴らの標的は自然と我々に向くからね。問題はここからだ。恐らく奴らは軍を再編して攻めてくるだろう。残る4つの武具について、安全性を考慮して全員で取りに行くか、別れて一刻も早く手に入れて集結するか、だ。皆の意見は? 」
「あたしは早いに越した事はないと思うよ。」
「僕もです。奴らが協力して一人に向かって来るってのはなさそうですし。」
アルカの意見にアインも同意した。意義を唱えたかったリヴィエラも仕方なく同意した。獣勇士ビークを倒したとはいえ、複数で来られたら自信がなかったからだ。アルカ、アイン、リヴィエラはシオンから地図を受け取り、目的地へと向かった。シオンもステラを連れて歩き出した。
「ご報告します。勇者一行がバラバラに行動を始めましたっ! 」
兵士は慌てて入って来たが、魔王には予想通りの行動だった。
「いよいよ、わしを倒すつもりか。奴らに武器を見つけさせてはならぬっ! 散会して討ち取るのだっ! 」
魔王の命令に一斉に合成獣士が立ち上がった。
「俺は拳法女を殺らせてもらうっ! この金色の鬣にかけて倒すっ! 」
ライガーというよりはファングの私怨であろう。ブルホークも同様の理由でアインに向かう事にした。頭はブルコーンのものであるためか、リヴィエラを気にする様子はなかった。
「では我々は拳銃娘の相手をするか。」
カブトムシとクワガタの角を持つスカラベスが言えば、アルマジロのような鱗甲とモグラの頭と爪を持つグノーメが黙って頷いた。トカゲ頭にコウモリのような皮翼を持つリザドスはシオンを狙う事にした。熊とゴリラの力を併せ持つベリラはライガーと共に行く事にした。最後に人型の妖気の塊グライストがアインに向かう事で全員が承諾をした。無論、早く倒せば他の獲物に手を出して構わないという条件で。
さて次回は不安を抱えながらも魔王と戦うための銃を探しに出たリヴィエラ編




