表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文句あるかっ!  作者: 凪沙一人
1/19

少女の憂鬱

 都からは程遠い田舎町の修道院。そこを一人の少年が訪れた。

「すいませ~ん、誰かいらっしゃいますか~?」

 しばらくして一人の修道女が奥から現れた。

「なんか用…ってか傷だらけじゃないか。ちょっと待ってな。」

 そう言うと修道女は奥から薬箱を持ってきた。

「あれ…治癒魔法とかじゃないんですか?」

 修道女は怪訝そうな少年を睨みつけた。

「あんたねぇ…僧侶や修道士の誰もが治癒魔法使える訳じゃないのっ!」

 少年は少し驚いたようにうなずいた。それは彼女が治癒魔法を使えない事よりも、可愛らしい容姿とはギャップを感じた言動にだったが。

「で、何の用?怪我の手当てに来た訳じゃないんだろ?」

 少年は肝心な用事を思い出し、キョロキョロと辺りを見回した。

「すいません、この町に武闘家のアルカさんって、いらっしゃいますか?」

 少年の質問に訝しそうな表情を浮かべた修道女だったが、一つため息を吐いて口を開いた。

「アルカはあたしだ。修道院だけじゃ食べてけないから舞踏家もしてるけどね。」

 アルカは憂鬱そうに薬箱を片付けた。

「お願いですっ!僕、今度勇者に選ばれたんですっ!」

 棚に乗せた薬箱から手を離すと呆れたようにアルカは少年の方に向き直った。

「そりゃ災難だったわね。今の時代、勇者なんてのは魔物たちの狩猟対象でしかないじゃん。誰が好き好んでお供なんかする?だいたい、あたしは踊れても戦力にも回復にも補助にもならないのっ!」

 アルカの剣幕に押されて少年はうなだれて修道院を後にした。

「まったく…何処で聞いて来たんだか。もう勇者のお供なんて懲り懲りだ。僧兵モンクなんて何の役にも立たないんだよ」

 アルカは今にも降りだしそうな空を見上げて、そう呟いた。




「マスター、いつか必ず払うから食事させてもらえませんか?」

 修道院を後にした少年は酒場で懇願してみたがマスターは首を横に振って向こうへ行けと言わんばかりに手を振った。その時、店の扉が開いた。

「いらっしゃ…」

 他の客は逃げ出しマスターは震えていた。扉から入って来たのは猪タイプの獣人オークたちだった。

「待てっ!この町の人に手を出すなっ!」

 今にも折れそうな剣を構えて少年は獣人と対峙した。怯えるでもなく澄んだ瞳はまっすぐ獣人を見据えていた。が、獣人が拳を振り回すと少年は呆気なくぶっ飛ばされてしまった。それでも少年は立ち上がった。

「ついて来いっ!僕は勇者だっ!」

 そう叫んで少年が店を飛び出すと獣人たちは目の色を変えて後を追った。アルカの言っていた通り魔物にとって勇者とは狩猟の対象であり禍根を残さないためにも実力をつける前に消しておきたかった。



 日も暮れて来て雨の中、アルカは酒場へ向かっていた。修道女が酒場の踊り子というのを揶揄する人もいるが生きていく為には仕方ないと割り切っている。足場の悪い中、店の方が騒がしい事に気付いたアルカは胸騒ぎがして走り出した。

「マスターっ!何かあったのっ!?」

 勢いよく店に飛び込むと店内は多少散らかっておりマスターが、やれやれといった感じで片付けていた。

「おぉ、アルカちゃんか。すぐ舞台は片付けるから着替えておいで。」

「何があったのっ!」

 尚も問い続けるアルカにマスターは面倒臭そうに答えた。

「店に獣人オークが来てな。そしたら…」

 マスターが話終える前にアルカは店を飛び出した。

「アルカちゃん、放っておけって…行っちまったか。まだ引きずってたのか…」



 雨の中、泥だらけになりながら少年は立っていた。剣は折れていたが心は折れていない。だが、どう見ても勝てる要素はなさそうだ。なまじ勇者と名乗ったために手を緩めては貰えそうにない。だが名乗っていなければひ弱そうな少年一人を獣人たちは追って来なかっただろう。

「まったく…見てらんないよっ!」

 アルカは少年と獣人の間に割って入った。

「アルカさん…」

 少年は安心したかのように倒れそうになった。アルカはそれを支えるどころか顔面に拳を叩き込もうとして寸前で止めた。少年が踏みとどまったからだ。

「そう、勇者なんてもんは簡単に倒れるもんじゃないよ」

 アルカに言われて少年はもう声も出ないのだろう。それでも力強く頷いた。

「あんた、名前は?」

「ア…アイントラハト…」

 振り絞るように答えたがアルカは眉をひそめた。

「長いっ!アインでいいねっ!」

 一瞬唖然としたが、すぐに頷いた。

「良く見ときなっ!」

 アルカは大きく息を吸い込むと全身に緑色の気を纏った。そして一気に吐き出すと同時に無数の拳と蹴りを獣人に叩き込んでいた。

僧兵モンクアルカの復活か…」

 それはいつの間にか来ていた店のマスターだった。

「マスター、その呼び方は前の時にもやめてって言ったでしょ?」

 それを聞いてマスターは顔を曇らせた。

「前の時…か。看板娘が居なくなると客が減るなぁ…」

「大丈夫、今度こそ勇者と一緒に帰って来るから」

 笑顔で答えるアルカだったがマスターは空腹と疲労で座り込んでいる自称勇者を頼りなさそうに見下ろしていた。

更新ゆるりと進めます。次回は勇者アインと旅立つ事になった修道女アルカですが…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ