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ランチ代はやっぱり璃子さんが払った。自分が一番年上で、収入も多いからと。璃子さんと葉那が並んで歩く後ろを俺とはるちゃんは少し離れて歩く。
「岩城君、きちんと言って気持ちにケリをつけてくださいね」
はるちゃんは言った。
「私、このままだと岩城君が後悔すると思うんです。だから、後悔しないようにしてください」
泣くときには胸を貸しますとはるちゃんは微笑む。
「はるちゃん、男らしいね。やっぱ、俺と付き合わない?」
「御冗談を」
この言葉を陰で誰かが聞いているなんて思いもしなかった。
「岩城君、やっぱりその女の方がいいの?」
不意に後ろから声をかけられた。
「あんたもあんたよ。近づかないでって言ったじゃない」
「それはお断りしたはずですが?」
はるちゃんは呆れている。
「岩城君は私たちの王子様なの。誰にも本気にならないって」
「それ、岩城君が言ったんです?」
はるちゃんは怖い顔をしていた。
「自分の理想の王子様が欲しいのでしたら、二次元で恋をしてください。あなたは岩城君の何を見てそう言っているんですか?」
「……」
「岩城君は岩城君です。普通に恋をする人ですよ。あなたの理想のお人形ではありません」
はるちゃんはそれだけ言うと、きびすを返す。
「待って、はるちゃん」
俺ははるちゃんを追いかけた。後ろからすすり泣く声が聞こえる。でも、俺は振り返らなかった。
「はるちゃん、かっこいいね」
はるちゃんの隣に並んで俺は言う。はるちゃんは絶対に俺たち自身を見てくれる。とても、気持ちがいいと思った。
「早く次の本気の恋を見つけてくださいね」
この時俺は、皐月には悪いけど、はるちゃんのことを好きになれたらいいと思った。友情ではなく愛情として。