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夏の日差しは熱い。当たり前だけど。その日差しを避けてか、駅前の大通りは思っていたよりかは人が少なかった。俺たちはふらふら歩き、そして、気になるお店があれば立ち寄るということを繰り返していた。
「ねぇ、はるちゃん。これ、はるちゃんに似合うと思わない?」
俺たちは今、レディースショップに来ていた。葉那の手に持つそれは、日頃、はるちゃんが着ている可愛らしいものよりも落ち着いたデザインのワンピースだった。
「それもいいけど、こんな感じでイメチェンするのもいいんじゃないかしら?」
璃子さんはパンツスタイルのスポーティーなデザインの上下を持っている。はるちゃんはすっかり着せ替え人形と化していた。言われるままに着替え、そして、二人に見せる。俺はすっかりの蚊帳の外だけど、ちゃっかり、そのはるちゃんを写メっていた。後で、皐月に自慢してやろうと思いながら。
「うん。これもいいわね」
「はるちゃん、なんでも似合うわぁ」
これも買いねと言う二人にはるちゃんは困った顔を見せる。
「私、そんなにお金持ってきてないですよ」
きっと、まじめなはるちゃんのことだ。参考書用のお金と、プラスお昼ご飯用しか持って来ていないのだろう。
「いいのいいの。今日は私からのプレゼントってことで」
「でも、こんなにいただけません」
本当に困った顔をしている。
「でも、似合っているのに買わないのはもったいないじゃない。次、来た時にあるかわかんないんだよ」
「その時はその時ですよ。第一、璃子さんにここまでしてもらう理由がありません」
「葉那の友達って理由じゃダメなの?」
「限度があります」
戸惑うはるちゃんを璃子さんは理解できないようだ。きっと、正しいのははるちゃんなんだろうけど、俺は璃子さんの味方をしてあげたかった。
「はるちゃん。璃子さんの普通がこれだからさ。そこ、わかってあげて」
璃子さんにとって葉那は特別だった。年の離れた妹のようで、どうしても守りたい存在。葉那が喜ぶためなら、何を投げ打ってでもそれをやろうとする。この買い物も葉那はとても嬉しそうだった。
「……では、これだけですよ。これ以上は受け付けません」
それでなくても、籠いっぱいに服が入っている。
「えー。小物も見たかったのに」
はるちゃんの妥協案に葉那は不満げだ。
「小物も買うなら、服を減らしてください」
はるちゃんもこれ以上妥協するつもりはないみたいだ。
「じゃあ、また今度ね」
渋々納得する葉那に璃子さんは少しだけ寂しそうな、困ったような顔をした。
「はい。唯、これを持って」
お会計を済ませると、璃子さんはショッピングバックを俺に渡す。
「え、俺が持つの?」
「当たり前でしょ。何のための男手なのよ」
さも当たり前と言う風に璃子さんは言う。
「私が持ちますよ」
「駄目よ。こういうのは男に持たせるの」
それを受け取ろうとしたはるちゃんに璃子さんは言う。俺は苦笑するしかなかった。