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はるちゃんは葉那に押し切られたのだろう。仕方がないと降りてきた。
「それで、どこに行くんです?夏休みなので、どこも人が多いですよ」
「そうだよね。駅前の大通りを散策して、ショッピングモールに行こうか?お姉ちゃんはどこがいい?」
「今日は葉那に付き合うわ」
璃子さんはため息交じりに言う。
「わかった。唯君はどこかいいところある?」
「そうだなぁ……」
考える。璃子さんが喜びそうなところはどこだろう。璃子さんに似合うような少し大人っぽいところ。
「……そういえば、駅前に新しいコーヒー専門店がある」
遊びの女の子たちと行くにはちょっと敷居の高い雰囲気のお店。きっと、璃子さんならそんなこともないだろう。駅前を散策して疲れた後には丁度いいはずだ。ランチがあるならそこで昼食を取るのもいい。
「そうなんだ。いいお店?」
「入ったことないから、中はわかんけど。外観はいいよ」
「じゃあ、そこにも行こうね」
葉那は本当に楽しそうだった。
「ショッピングモールに行くなら、本屋に寄っていいですか?新しい参考書が欲しくて」
水を差すようだけどと、はるちゃんは言う。確かにショッピングモールの本屋は大きくて、参考書の種類も豊富だ。
「いいわね。葉那もはるちゃんに参考書、見てもらったら?」
「もう、お姉ちゃん」
クスリと笑う璃子さんに葉那は膨れて見せる。
「葉那さん。看護のお勉強をなさるんですよね?」
「あら、葉那。看護師目指すの?」
「まだ、わかんないけど。少し勉強してみようなかって」
それは先日の出来事だった。葉那の顔が曇る。思い出しても辛いことだろう。
「いいと思うわ。葉那にぴったりだと思う」
「大手企業の秘書さんには言われたくないかも」
確かに。璃子さんは誰もが知っている大企業の秘書課で働いていると聞いている。葉那に似て美人でスラリとした璃子さんはよく似合っている仕事だ。誰だって、美人にニコッと微笑まれたらYesと答えてしまうだろう。そして、美人の秘書がいるというだけで、その人は評価されるはずだ。こんな美人が人につくなんて、相当仕事ができるのだろうと。まぁ、俺の勝手な考えだけど。