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唯が部屋戻ると、悠はポツリと呟いた。
「……岩城君、かわいそうですね……」
「え?」
皐月は聞き返す。悠は困った様に笑い、そして、言った。
「璃子さん、岩城君を見ていないですから」
視界に入っていないのとは違う。それは、唯を異性として見ていないということ。
「璃子さん、多分、恋人がいます。そんな雰囲気ありました」
悠の視線は泳ぐ。あまり言いたくなかった様だ。だが、一人で抱えていたくもなかったのだろう。
「あれだけでよくそこまでわかるな。恋人がいるなんて、俺たち知らないぞ」
璃子が唯を意識していないことは、皐月や涼も感じていた。葉那と同じような、年の離れた弟に接するようだと思う。
「璃子さん、気持ちに余裕がありましたから。仕事も、プライベートも充実して満たされている雰囲気です。恋人がいると思ったのはカンなんですけど……」
悠が思うのだから間違いないだろうと皐月は思う。なにせ、会って二日目に涼に言い寄られ、そして、思い人がいることを見抜いた悠だから。
みんなで朝食を食べる。その後、皐月と涼はバイトへ行き、はるちゃんは部屋で課題をすると籠っていた。俺は璃子さんと葉那とリビングで過ごす。今日がバイトの休みの日でよかった。だって、せっかく璃子さんがいるんだから。離れているなんてもったいない。
「お姉ちゃん、せっかくだから遊びに行こうよ」
葉那が甘えた声を上げる。璃子さんは苦笑した。
「葉那、はるちゃんを見習って少しは勉強したら?」
「お姉ちゃんが帰ってからやるもん。お姉ちゃんがいるのにもったいないじゃん」
「俺も行きたい」
すかさず俺も言う。せっかくの休みだ。有効活用しないとな。璃子さんは仕方がないとため息をついた。
「はるちゃんはどうするか、聞いてきて」