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葉那と一緒に璃子さんは部屋へ行く。いつも璃子さんが泊まる時に使う部屋だ。
「岩城君、よかったですね」
部屋の戸が閉まる音が聞こえると。はるちゃんは俺に耳打ちした。
「え?」
「会いたかったお姉さんに会えて」
皐月と涼が噴き出す。
「……はるちゃん……」
俺は肩を落とすしかなかった。このはるちゃんの察しの良さは犯罪級だと思う。皐月も涼も笑い声が止まらない。
「くそ、こうなったらはるちゃんの好きな人は……」
目を見たらわかるとはるちゃんは言った。じっとはるちゃんの目を見る。はるちゃんは微笑むばかりで何もわからない。
「おい、唯。見過ぎ」
皐月が不機嫌そうな声を上げる。皐月を見れば、本人もよくわかっていないような顔をしていた。仕方ない。俺は見た目からの情報収集を諦める。
「はるちゃんは好きな人いるの?」
「さあ、想像にお任せします」
直接本人に聞いても答えてくれない。
「いるの?」
「どうでしょう?」
「いないの?」
「どっちだと思います?」
どんなに俺が聞いてもはるちゃんは表情を変えない。俺にわかるはずがなかった。
「ずるいぞ。俺、ばっかり」
「岩城君だけじゃないですよ。ほかの人のも知っていますよ」
誰と聞かなくてもそれはわかった。名前を出さなかったのは本人たちを思ってか。結局、この時、俺が分かったのは、皐月ははるちゃんが気になっているということだけだった。皐月自身はまだ、気付いていないようだけれども。