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夕食の後片付けをしていた時のことだった。今日の片付け当番は俺と皐月。この生活にもなれたもので手早く洗って、拭いて、片付けていく。
『ピンポーン』
不釣り合いなチャイムが鳴ったのはそんな時のことだった。パタパタと葉那が玄関に駆けていく。そして、嬉しそうな悲鳴が上がった。
「二日ほど、休みが取れたから来ちゃった」
「璃子お姉ちゃん、来るなら連絡してくれたら良かったのに」
「ふふ、葉那を驚かそうと思ってね」
リビングに入って行く二人の会話が聞こえる。急いで片付けを終わらせて俺たちはリビングに向かった。
「はるちゃん、こっちがさっき話したお姉ちゃん。で、お姉ちゃん、こっちがはるちゃんね」
「初めまして。那須悠です」
「葉那の従姉妹の神谷璃子です。葉那から色々はなしは聞いているわ。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。夕ご飯は食べられますか?」
「食べて来たから大丈夫。明日楽しみにしているわね。葉那、お茶を入れてくれる?ケーキを買ってきたからみんなで食べよう」
璃子さんは白い箱を差し出す。それは有名なケーキ屋のもので、葉那は大喜びでそれを受け取った。葉那を手伝いに涼も続く。
真っ白いクリームの乗ったケーキ。HAPPY BIRTHDAYの書かれたプレート。
「お姉ちゃん、これって……」
「少し早いけどお誕生日おめでとう、葉那」
璃子さんは葉那に小さな包みを渡す。
「ありがとう。開けてもいい?」
「ええ。どうぞ」
璃子さんが頷くと、葉那は喜んでそれを開いた。
「……きれい……」
出てきたのはネックレス。大人っぽいデザインだった。
「葉那も高校生になったんだからこういうのも持っていないとね。貸して、つけてあげる」
璃子さんは葉那からそれを受け取ると、葉那につける。
「うん。よく似合ってる」
璃子さんは自分の見立てがよかったことに満足そうに葉那を眺め頷く。
「指輪にしようかとも思ったんだけどね。やっぱり指輪は好きな人からもらうのがいいでしょ」
「そんな、好きな人なんて……」
笑顔を見せる璃子さんに葉那は真っ赤になって俯く。涼の顔も赤い。見ていて初々しいけど、まだ、二人は付き合っていない。いい加減じれったい。
「璃子さん、俺にはないの?」
「唯、あんたの誕生日ははだ先でしょ」
璃子さんはため息交じりに苦笑する。嬉しい。俺の誕生日、ちゃんと覚えてくれていたんだ。
「皐月は送ったの使ってる?」
「あんないいもの、使う機会がないって」
すぐに俺の喜びは打ち砕かれた。璃子さんが覚えているのって、俺のだけじゃないんだ。
「皐月は何をもらったんだ?」
ちょっと嫉妬交じりに俺は聞く。
「シルバーのボールペン。高級なやつ」
「あんたたちも高校生になったんだから、持ち物はきちんとしたものを持ちなさいよ」
それが、似合うような人間になりなさいと璃子さんは言う。璃子さんがとっても大人に見えた。実際に璃子さんは俺たちよりも7歳年上なんだけれども。