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散々、引き留められ、璃子が葉那の家を出ることになったのは昼食が終わってからだった。葉那と悠と皐月で玄関まで見送る。唯と涼はバイトでいなかった。
「じゃあ、みんな、元気でいるのよ。はるちゃん、葉那を、みんなをよろしくね」
そして、皐月に言った。
「皐月、話したいことがあるの。駅まで送ってくれない?」
「わかった。ちょっと待って」
皐月は璃子に返事を返すと、一度部屋に戻る。そして、スマートフォンと財布を持って出て来た。靴を履き、璃子に続いて外に出る。
並んで歩く道。家が見えなくなってから、璃子はやっと口を開いた。
「ねぇ、あの子。はるちゃんって、なんか生きにくそうよね」
それは皐月も感じていたことだった。
「ああ」
皐月は頷く。
「側で気をつけて見ていてあげてね」
「なんで俺に言うんだ?」
皐月は首を傾げる。
「他の子に言っても良かったの?」
璃子は意地悪く笑った。皐月は考える。どうだろう。悠の側に自分じゃない誰かがいることは。
「……なんかやだ……」
ポツリと呟く皐月に璃子は笑顔を見せる。それは、葉那とよく似ているが、葉那にはない余裕に満ちた笑顔だった
「私ね、あの子も心配なのよ。ちょっと、もろそうで、でも一生懸命それを隠そうとしている。ちょっと、複雑な家庭で育ったのかしら。何か聞いてる?」」
皐月は考える。
「……複雑かはわからいけど、なんか、転校が多いような気がする」
そして、入学初日で転校になりそうだった悠を思い出す。璃子は小さく息を吐く。
「……そう。それで身に着けた処世術かしら。見ていて危なっかしいわ。崩れた時が心配なのよ」
ふと皐月の頭にいつかの悠が浮かび上がる。小さな体で葉那を守ろうとしたときの悠の姿。ドキッと心臓が高鳴るのを感じた。
「……唯は……?」
皐月の呟きに璃子は小さく笑う。
「唯ははるちゃんには皐月がいいって言っていたわよ」
本当にお互いを大切に思っていると璃子は感じる。それが少々羨ましい。自分には入れない空気がある。でも、悠はそこに入れた。
「……俺、那須が好きなのかもしれない……」
ポツリと呟かれた言葉に璃子は満足そうに微笑む。あの時の悠の軽さが、そして、もっと前の悠の強さが皐月の中に居座る。
「その気持ち、大切にね」




