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ずっと憧れていたあの人は、俺よりも年上の存在で。
年に数回しか会えなかったけれど、その時間は夢の時間に思えた。
お互い大きくなり、会える回数は減ったけれど。
でも、変わらず、ずっとずっとずっと。
王子様と言われたって、恋をすればただの人。
王子の俺しか見ていない人にはわからない。
俺だって、恋をしているただの人。
「ずるい。岩城君、次は私の番よ」
「はいはい。わかってるって」
夏休みになった。俺のバイトする喫茶店は、連日若い女の子で賑わいを見せる。俺は客寄せパンダ。誰にも本気にならないふりをして、みんなに平等に愛を振りまく。それでいい。葉那が泣かなければ俺はそれでよかった。涼は直接、葉那を守ろうとしているけど、俺はこうやって愛想を振りまくことで葉那への風当りを弱くしてきたんだ。葉那よりも大切なあの人のために。