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深夜の散歩
「ひな君。これ乗って」そう言って差し出されたのは、車いすだった。
「えっ…」
「夜だからさ」
「うん…」ベッドから起き上がろうとしたが、体に力が入らず、咳き込むだけだった。
「ひな君!?ごめんごめん」そう言ってあーくんは僕の体をスムーズに持ち上げると、車いすに乗せた。
「ありがとう…」
「ううん。行こーか」僕らは深夜の病院の中を散歩した。
真っ暗な待合室も、真っ暗な中庭も、新鮮で楽しかった。
「あーくん。眠くなった」
「良かった。病室戻ろっか」
「ひな君ちょっと待ってね」そう言って僕を持ち上げようとしたあーくんに、僕は
「待って。ベッドにくらい行けるから」と言った。あーくんは心配そうだったが、僕は必死にベッドに這い上がった。
「ハァハァ」この位なのに息が上がってしまった。
「頑張ったな、ひな君」ってあーくんが誉めてくれて、気持ちよく眠りにつけた。