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駆けろ! ぷりん部  作者: 三池猫
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第三話「六月一日」 19e

 生徒会フルチン騒動の翌日の朝。

「天にぃ、起きろ」

 誰かが自分を呼んでいる声で金剛寺天乃は目を覚ました。

「あっ、やっと起きた。もう七時まわっているよ。早く準備して」

「あっあれ?」

 金剛寺は目の前に立つ女子が一瞬誰かわからず、目を何度も何度も擦ったり細めたりして寝ぼけた頭をフル回転させた。金剛寺が分からないのも当然だろう。何故なら目の前に居る女子学生は、学校指定のブラウスとスカートを穿いている早乙女隼人だったのだから。

 彼は何が起こっているのか理解出来ずに困惑した。見慣れた自分の部屋。カビ臭いベッドに散らかった机。それは、まさしく自分の部屋だった。

「なんで隼人がここにいるんだ?」

「なんでって、一緒に学校行くために決まっているじゃん。ほら、早く着替えて」

 そう言って隼人が押し入れを開けて中をゴソゴソと漁り始めてしまう。まるで九年前の出来事のようだ。

「なっ、なにしているんだよ」

「なにって、天にぃが盗んだスクール水着を探しているに決まっているでしょ」

「ちょっと待て、私は水着を盗んだことなんかないぞ」

「だって昨日、スクール水着きていたじゃん。あれって盗品でしょ?」

「あれは自分で買ったんだ。スクール水着を愛する者が水着を盗むわけないだろう」

「ボクの水着は盗んだじゃないか」

「それは時効だ」

 ちなみに、窃盗罪の公訴時効は犯行行為が終了してから七年と言われているので、金剛寺の言っていることは間違いではない。

「でも、去年の夏に盗難があったんでしょ? それって天にぃの仕業じゃないの?」

「あれは外部の人間が盗んだんだ。なんだよ、お前は私が盗んだと思っていたのか」

「当たり前でしょ。下着を盗むようなヤツなんだから」

「下着と水着を一緒にするな。下着は盗んでも水着は盗まん」

「はいはい、わかったから早く着替えてよ。いつまでパンツ一丁でいるの?」

 そう言われて金剛寺は自分が下着しか着用していなかったことを思い出した。

「こんな時、健全な女子なら『きゃー、えっち』的なことを言うのがマナーじゃないのか?」

「そんなマナーなんか知らないよ。それに、男の下着なんか見慣れているし」

「隼人、お前は誰の下着を見慣れているんだ!」

「そういう意味じゃないって。もう、いいから着替えろ」

 そう言って隼人が制服を思いっきり金剛寺の顔面に叩きつける。

「はいはい」

 金剛寺がふて腐れながら着替えを始めると、窓の外に見慣れた人物が立っているのに気がついた。

「あれは……」

 それは彼が予期していた人物であった。

「隼人、本当は今日、なにしに来たんだ」

「天にぃが盗んだ水着を回収しに着たんだよ。盗んだなら持ち主に返さないといけないからね。でも、盗んでいないなら今日来る意味なかったかも」

「そうか、なら先に行っててくれないか。私は少し用事がある」

「はぁ? せっかく迎えに来たのに、一人で登校させるつもり?」

「わるい、すぐ追いつくから」

 金剛寺が窓の外を気にしているのが分かったので、隼人も外の道路を見た。

「なんだ約束があったなら先に言ってよ。ちぇ、まあいいか」

 そう言って隼人が残念そうに部屋を出ようとした時、

「なあ、隼人」

 不意に金剛寺が隼人を呼び止めた。

「なに?」

「学校は楽しいか?」

 その問いに対して隼人は親指を立てて「戻ってきてよかったよ」と、答えてみせた。

「そうか」

 金剛寺も満足そうに笑う。

「くれぐれも遅刻しないでよ。会長さん」

 そう言って隼人が階段を下りて行くのを見て金剛寺は静かに「会長か……」と、呟いた。

 何故、彼が消え入りそうな声で呟いたのか。それは自分がこれからどうなるのか知っていたからである。

 金剛寺は素早く制服に着替えると朝食もとらず外へ出ることにした。すると、彼を待っていた男が門から顔を出し、

「今日は随分とお早い登校ですね」

 紫の薔薇が携帯の画面を見ながら金剛寺を待っていた。

「九年ぶりにモーニングコールが起こしに来たからな」

「早乙女隼人さんのことですか。彼……いや、今日は彼女ですね。彼女、この近くに引っ越しているみたいですよ」

「紫の薔薇よ。お前は無駄話をしに来たのか?」

「おっと、いけませんね。ボクの悪い癖が出てしまいました。本題はこちらです」

 紫の薔薇が手招きすると、曲がり角からポヨンポヨンと可愛く歩いてくるパンダが目に入った。

「こちらは懲罰委員会の伽噺昴さんです。世間ではパンダ番長と呼ばれています」

「直接お目にかかるのは初めてですね。先ほどご紹介されました伽噺昴です」

 そう言ってパンダはまるくお辞儀をした。

「懲罰委員会か。随分くるのが遅かったな。てっきり昨日のうちにくると思っていた」

 いつか、懲罰委員会が自分の元へやってくることを予見していた金剛寺。自分が好き勝手に生徒会を動かしていることを見逃すほど、懲罰委員会はあまい組織ではないからだ。だからこそ、懲罰委員会と名乗る者が現れても金剛寺は動じることがなかった。

「そのつもりだったのですが、いろいろと後始末がありまして。こう見えて、事務員に黙ってブレーカーを落すのは大変なんですよ」

 そう言ってパンダは恥ずかしそうに頭を掻いた。

「あれは懲罰委員会の仕業だったのか」

「表向きは原因不明ってことになってますけどね」

「それで私はどうなる。停学か? それとも退学か?」

「下着泥棒の件で言っているのなら、どちらも違います。私たち懲罰委員会にはその権限はありません。それに、私たちが隠蔽しましたので、学校側も今回の下着泥棒の真相を正確には認知しておりませんよ」

「隠蔽? あれほど騒がしたのに隠し通せるのか?」

「事前に準備はしていましたからね。それに私たちではなく、こちらにいる昆野さんがやってくれましたので。懲罰委員会の仕事は簡単な情報操作だけです」

「昆野? 紫の薔薇の名前は昆野と言うのか?」

 紫の薔薇を見ると、彼はニッコリと笑ってから頷いた。

「はい。ある時は更生部部長。ある時は誠龍館の館長。ある時は慈善団体・紫の薔薇。しかし、その実体は私たちと同じ懲罰委員会のメンバーなんですよ」

「懲罰委員会ってことは、以前から私はマークされていたわけか」

「そうです。少々やりすぎなところがお見受けしましたので。普通科①を任せてある昆野さんに手伝ってもらったのです」

「なるほどな。それで、それだけを言いにわざわざココへ着たわけじゃないんだろう」

「では、本題に戻りましょう。私たち懲罰委員会は金剛寺天乃さんに罰則を告げに来ました」

 それまで爽やかに話していたパンダが、事務的に話し始める。まるで機械が話ししているみたいに。

「それで、罰則はなにをすればいいんだ。誠龍館に投獄か?」

「それも面白そうですが、私たちは金剛寺さんに奉仕活動を命じます」

「奉仕活動? それってなにをするんだ?」

「全校生徒が楽しく過ごせるスクールライフを提供してください。期限は一年間です。つまり金剛寺さんが卒業するまでですね。これは金剛寺さんが犯した罪に対する贖罪ですので、頑張って成し遂げてください。もし、手を抜くようなことをすれば、我々懲罰委員会はまた来ます。その時は、今回のような恩情は与えませんので悪しからず」

「どうして、こんな私に懲罰委員会は恩情を与えてくれるんだ? お前たちには何のメリットもないはずだが」

「それは天狗さん……いや、山田コウタロー氏が金剛寺さんの同胞だからです。これは懲罰委員会の恩情と言うより、山田コウタロー氏からのプレゼントだと考えてください」

「山田先輩の?」

「そうです。彼は私の恩師でもあるので、その同胞を私は無下に出来ません」

「こんな私でも山田先輩は同胞と呼んでくれるのか」

「当然です。山田コウタロー氏は、そんなに薄情な人ではありませんよ。暖かく、そして楽しい方です」

「そうか、わかった。約束しよう。例え、これが贖罪でなくても、初めっから罰を受け入れるつもりだったからな」

「そうですか。それでは、話は以上なので私はこれで失礼します」

 そう言ってパンダと紫の薔薇は歩いていった。すると、何かを思い出したようにわざとらしく紫の薔薇が立ち止まると、金剛寺の所へ戻ってきて耳元で囁いた。

「これは言わなくていいことですが、アナタを慕っていた暗部。彼らも実はスクール水着が大好きみたいですよ。これを機会に親睦を深めては如何でしょうか?」

「アイツらもスク水が好きだったのか」

 金剛寺は、自分の見る目が無いことを心底落胆した。

「底辺を歩く人間に落ちるところはありません。これからの人生は上り坂になります。頑張って駆け上がってください」

「知ったようなことを言うな」

「今から歩いて行く道が、アナタの薔薇色のスクールライフの始まりです」

 それだけ言って紫の薔薇は歩いて行ってしまった。

「薔薇色のスクールライフか」

 そう言って金剛寺は天を仰いだ。

 時季は梅雨。天を染める雨雲が六月の空を染めていた。

 学生たちは今日も学校へ通う。自分色のスクールライフを求めて――


終わり

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

宜しければ感想など頂ければ幸いです。

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