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駆けろ! ぷりん部  作者: 三池猫
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第三話「六月一日」 10

 瞠たちブラジャー派が穴を掘りを始めてから、すでに三時間も過ぎていた。

「二〇分経過した。次の班と交代しろ」

 名人のかけ声で、穴を掘っていた四名が穴を昇って教室へ顔を出す。

「もう昼を回ったぞ。本当にこの下にラビリンスが繋がっているのか?」

 先ほどまで穴を掘っていた男が、汗を流しながら瞠に言った。

「歩幅でココの場所とラビリンスを比較したから間違いないはずだ」

「ぷりん部、お前はそんなことを数えながら誠龍館へ来ていたのか。俺なんかブラジャーのことしか考えていなかったぞ」

「もちろん、頭の片隅ではパンティラインのことを考えていた。だが、マルチタスクの私の脳なら、歩幅とラビリンスの地図を照らし合わせながら煩悩をフル回転させることなど造作もないことだ」

「さすがは、お前たちの師匠が認めた男だな」

 男が瞠に感心していると、見張り役をしていた護ノ宮神威が血相を変えて走って来た。

「やばいっ! 誰か来たぞ。たぶん更生部だ」

「なんだと、昼休みにはまだ時間があるぞ」

 神威の言葉にブラジャー派が慌しく動き出す。すると穴の進行を見守っていた名人の(げき)が飛ぶ。

「お前たち、更生部が入ってこられないようにドアの前にバリケードを作れ。ドアさえ守りきればヤツらも入っては来られない」

「さすがは名人。手が空いているヤツはなんでもいいからドアの前に置け」

 そう言ってブラジャー派が教室にあった段ボールをドアの目の前に積み上げていく。

 カチャリと教室の鍵が開けられる音が聞こえた。

「これだけ積めば更生部も入ってはこられまい」

 そう言ってほくそ笑むブラジャー派とパンツ連合。しかし、彼らは気付いていない。段ボールは空箱だったことを。

 空箱を積み上げただけのバリケードになんの強度もなく。意図もたやすく段ボールが崩れてしまった。

「そっ、そんな。バリケードが突破されるなんて」

「っていうか、外開きのドアの前にバリケード作ってもダメじゃん」

「名人。第1関門突破されました」

「なんだと! 早すぎるぞ」

 騒ぎに気がついた更生部部員が、中の様子と目の前に積み上がった段ボールを見て「お前たち何をしている」と、段ボールを掻き分けながら入ってきた。

 更生部が彼らの悪巧みに気付くのと同時。下から「名人。穴が貫通しました」と、穴を掘っていたブラジャー派の声が聞こえた。

 穴が貫通したという報告に、名人は苦虫を噛みつぶした。

「やっと穴が貫通したというのに……これまでか」

 その言葉を聞いたブラジャー派の数人が、唇を噛みしめ、意を決して名人の前に立つ。

「名人、俺たちの代わりにブラジャーを見てください」

「俺たちの分もブラジャーを目に焼き付けてください。それと出来たら後で何色か教えてくださいね」

 そう言うと数名のブラジャー派が、雄叫びを上げながら迫ってくる更生部部員に飛びかかる。数人がかりで取り押さえられるブラジャー派。その光景を見ていた名人は、声にならない声を上げて叫んだ。

「お前たち、まさか……」

 数人のブラジャー派の決意を目にした他のブラジャー派が、次々と名人の前に立ち、

「早く言ってください。俺たちの体力じゃ長くは持ちません」

「それに、夢中で穴掘りをしたので、俺たちの爪は限界なんです。だから、俺たちの分もブラホック……外してください」

 それは身を呈した感動的な場面であった。しかし、彼らブラジャー派が、これからやろうとしていることはアホの所業であることを忘れてはならない。

「しかし……」

「アナタは俺たちの代表です。アナタがブラジャーを見ないで何を見るんですか。どうか、俺たちの事は気にしないでブラジャーを見に行ってください。衣替え初日のブラジャーは今日しか見られないんですよ」

 それまで黙っていた瞠。彼はブラジャー派の固い絆を無駄にしてはいけないと心を鬼にする。

「行きましょう名人。彼らの意志を無駄にしてはならない」

「名人! 早く。更生部が来ちゃいます」

 穴の下ではラビリンスに降り立った他のブラジャー派が叫んでいる。

「おい、名人ってヤツ。行くのか行かないのかハッキリしろ」

 穴の中で上半身を出していた神威も叫ぶ。

「名人、早く」

 瞠が名人の肩をぐいっと引っ張ると、名人は流れる涙を拭うこともせず頷いた。

「わっ、わかった。行こう」

 名人は更生部部員に押さえ付けられているブラジャー派を忘れまいと目に焼き付けた。涙でにじんでよく見えなかったが、彼らの雄志は名人の心に焼き付いて忘れることはない。

 こうして瞠と神威、名人と小数のブラジャー派はラビリンスへ続く穴に飛び込むことが出来たのだった。

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