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駆けろ! ぷりん部  作者: 三池猫
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第三話「六月一日」 07

 一時間目の休み時間。隼人となま党の四人は下着泥棒が出没した体育館へやってきていた。すると、体育館の周りをウロウロしていた安藤キララが、隼人の姿を見つけて手を振って来た。

「あれ? キララ先輩、どうしたんですか?」

「ちょっと隼人くん、瞠の事知らない? あいつ、一時限目の授業に出てこなかったから何か言ってなかった?」

「やっぱり先輩授業に出ていないんですね」

「やっぱりって、隼人くん何か知っているの?」

「それが……」

 隼人はキララに今までの経緯を語ることにした。盗まれた下着がぷりん部にあったこと。そのことで瞠が容疑者として生徒会に捕まったこと。そして、パンツ連合が真犯人を知っているかも知れないことを。

「うそ。瞠が今回の下着泥棒で生徒会に捕まったの! だからあれほど言ったのに。しかも、それが生徒会の陰謀かもしれないなんて。どこまで生徒会に目を付けられれば気が済むのよアイツ……」

「先輩の日頃の行いは置いておいて、無実の証拠を集めないといけないんですよ」

「それで、事件現場であるココに来たってわけね。でも、後ろの三人が本当に真犯人を知っているの?」

「ああ、この人たちはボクに協力してくれているなま党のみなさんです。ちなみに、この人達は自分の身可愛さに先輩を売った人たちです」

「瞠を売った? ってことはこの徒党がラビリンスを案内した人なの?」

 そう言ってキララがギロリとなま党を睨んだ。睨まれたなま党は脂汗を掻きながら隼人の後ろに縦一列に隠れる。

「所詮、アナタたち徒党の絆ってそんなものよね。まあいいわ。犯人は現場に現れるっていうし、案外、ココを通るヤツが犯人だったりするかも知れない」

「あと、犯人に繋がる証拠とかあればいいんですけど」

「証拠って言っても、もう先生たちが調べた後でしょ。それらしい物があれば見つかっているんじゃない?」

「大丈夫だと思います」

「なんで言い切れるのよ」

「見つからない物をこれから見つけるからです」

 キララは隼人の意味不明な返答を聞いて、禅問答しているみたいで頭が痛くなった。

「会話が成立しないわね」

「まあ、見ててください。っていうか手伝ってください」

「手伝う?」

「ボクの考えが正しければ、この中にミカン箱があるはずですから。それを運び出して欲しいんです」

 そう言って隼人が体育館に並列されている女子更衣室を指さした。

「運ぶってミカン箱を?」

「はい。なま党のみなさんは男性なので女子更衣室に入れませんから」

「まあ、いいけど。ミカン箱なんて本当にあるの?」

「彼らならきっと居るはずです」

 隼人が確信を持って答えると、そのまま女子更衣室へ入る。

「あっ、きっとアレです」

 見上げると、ロッカーの上に一箱だけミカンと書かれた段ボールが置かれてあった。

「本当にあった。あれを運べばいいのね。よっと……結構重いわね。人でも入っているみたい」

「そうです。仮面党の方が入っているので落さないでください」

「えっ! 仮面党って事は人間が入っているの」

 驚いたキララがミカン箱を落してしまう。すると、落されたミカン箱から「ぎゃっ」と声が聞こえたのが更に気持ち悪かった。

「うげぇ、マジで入ってる。……っていうか、これって覗きじゃないの?」

「はい、現行犯ですが今は大事な証人です。殴るのはあとにしてください」

 そう言って、隼人が段ボールを引きずりながら外まで運ぶと、ミカン箱を受け取ったなま党三人が力を合わせて体育館裏へ運んで行く。

 モゾモゾとおぞましく動くミカン箱。彼は知らない。自分が置かれてある状況を。

 重そうにミカン箱を地面に下ろす三人。彼らは一仕事終えたと言わんばかりに「今日の昼飯は美味しいだろうな」と爽やかな汗を拭った。

「まだ、仕事は終わっていませんよ。本題はこれからです」

 そう言うと隼人は軽くミカン箱の側面を叩くと、

「あのー、もしもし、仮面党の方ですか?」

「いかにも、我は仮面党なり」

 シラを切るつもりもなく、ミカン箱の中の人は答えた。

「なによコイツ。覗き見していて偉そうな口振りじゃない」

「失礼な。我は覗きなどしない。単純に潜伏していただけだ。女性の裸になんぞ興味もない」

 キララの発言に反応するように弁明を述べる仮面党だが、彼ら仮面党は女性の裸や下着姿に興味ないことは確かであった。仮面党が欲するのはただひとつ。パンティを被る。ただそれだけなのである。

「完全に開き直っているわねコイツ」

「まあまあ、話が長引くのでキララさんは黙っていてください」

 キララとミカン箱の間に割って入ってきた隼人が口元に人差し指を当てて言った。それを見たキララは、口を尖らせながらも「わかったわよ」と不服そうに納得する。

「ひとつお尋ねしますが、何時くらいから更衣室に潜んでいたんですか?」

「無論。女子が朝練にくる前からだ」

「それって、今まであそこに居たって事? いま一時限目の休み時間よ」

 キララが訊くと、

「無論だ。我ほどの修験者ならば、半日は同じ体勢でいることなど造作もない」

「それって授業サボってすることなの?」

「失敬な。サボってなどおらん。同胞に代返をお願いしている」

「いや、それってサボっているのと同じだから」

「なんと! 言われてみればそうだ。今度から返事をした後で抜け出すことにしよう」

 物わかりが早いのも徒党の良いところでもある。

「そこで、一時限目をサボっていた仮面党さんにお訊きしますが、女子が朝練に来たあと、更衣室に不審な人物が出入りしませんでしたか?」

「居たっ! あのけしからんヤツ。我が被ろうと楽しみにしていたパンティを被る前に全部独り占めしおった。今度相まみえたら、どのパンティがよかったか聞き出さなければ」

 真剣に答える仮面党を見て隼人は、ミカン箱の男が犯人を知っていると確信した。

「ビンゴですね。その男性は下着を持って何処かに行ったんですよね」

「そのとおりだ。思い出しただけでも腹立たしい。一枚くらい残しておけば、一時限目を潰すことも無かったモノを……」

 どうやら、ここにいる仮面党は朝パンツを被れなかったので、一時限目の体育を狙って潜んでいたらしい。しかし、彼の一時間は無駄になってしまう。何故なら一時限目の体育はグランドに集合だったので、体育館を利用した女子生徒は居なかったのである。

「それで、その人の顔は見ましたか?」

「無論、見た。だが、知らんヤツだった」

「知らない人だったんですか? そうなると面通しで休み時間が終わっちゃうなぁ。二時限目の休み時間内には犯人を見つけたかったんですけど」

「しょうがないわよ。でも、犯人は生徒会の誰かって事はわかっているんだから、生徒会名簿をコイツに見せれば大丈夫なんじゃない?」

「それもそうですね。職員室に行って生徒会役員の顔写真が載っている資料を借りましょう」

「それにはおよばん」

「なんでよ?」

「なぜなら、我が見たウツケ者は生徒会のヤツではなかったからだ」

「えっ、生徒会の人じゃない。それは本当ですか」

「武士に二言はない」

「なんかムカツクわねコイツ」

 ふてぶてしい態度に業を煮やしたキララが思いっ切りミカン箱を踏み潰す。すると中から「ぎゃっ、踏まないで」と武士が悲鳴を上げたのが聞こえた。

「キララ先輩。痛め付けるのは終わったらです」

 隼人が何度もミカン箱を踏み付けるキララを羽交い締めにして抑えていると、ボコボコになった段ボールの中から「えっ? このあと、ボク痛め付けられるの?」と、先ほどとは違う声色で聞いてきたので「それは仮面党さんの頑張りしだいです」と教えてあげた。

「なっ、なにが知りたい。っていうか、ココは何処だ。絶対更衣室じゃないだろう」

「体育館裏です」

「たっ、体育館っ! それって決闘とか愛の告白がされる場所として定番のあの体育館裏?」

「その体育館裏です。ボクたちは下着を盗んだ犯人を探しているんです」

「そっ、そうだったのか。だが、先ほど述べたとおり我の言葉は間違いない。我は生徒会の面々を知っている。何度も邪魔されたので嫌でも覚えてしまった。断言しよう。ヤツは生徒会の者ではなかった」

「ちょっと待って、コイツの言っていることが正しかったら、なんで生徒会が瞠を連れて行ったのよ。これって、自作自演だったんでしょ?」

「わかりません。もしかしたら、誰かが生徒会の人の性にしようとしているのかも。それか、初めから生徒会とは関係がない人が犯人なのかもしれません」

「でも、ここに証人(仮面党)が居るんだから、瞠が無実だって証明できるよね」

「いえ、生徒会は証拠を持っているみたいなので、なま党さんと仮面党さんだけでは門前払いになるかも知れません。そもそも自分で女子更衣室に隠れていたと証言するかどうか……」

 そう言って隼人がミカン箱を見る。

「どうしよう。このままだと、本当に瞠でてこられないじゃない」

 慌てるキララを見て、隼人は彼女を元気付けるため、

「とりあえず、仮面党さんが見た人物を探しましょう。もしかしたら近くに居るかも知れません」

「隼人くん、この学校に何人の生徒がいると思っているのよ。私たちの学科だけなら何とかなるかも知れないけど、別の学科の生徒が犯人だったらどうするの? そうなったらとてもじゃないけど今日中に犯人なんて見つけられないわよ」

「困りましたねぇ」

「貴君、ちょっと待ちたまえ。我は更衣室にて使命がある。同行はごめんこうむる」

「キララ先輩。この人フルボッコにしていいそうです」

「りょうかい。イライラしていたから気兼ねなく殴れそうね」

 そう言ってキララが指の骨をボキボキ鳴らし始めた。

「致し方ない。人が困っているのならこの仮面党、一肌脱ごうではないか」

「はじめからそうしろ」

 そう言ってキララがミカン箱の横っ腹を蹴り上げると、段ボールの中から「ぎゃっ、蹴らないで」と可哀想な声が聞こえた。

「とにかく、考えても仕方ありませんよ。二時限目の休み時間は生徒会のメンバーから調べましょう」

「それで、この学科じゃなかったらどうするのよ」

「もしそうなったら、ボクが責任を持って先輩を助けます」

 隼人が言葉に出さずともキララには分かってしまった。隼人なら瞠を助けるためにエゲツない手段をも選ばないことを――

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