表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駆けろ! ぷりん部  作者: 三池猫
19/33

第三話「六月一日」 05

 隼人は急いでラビリンスへ続く地下旧校舎を駆けていた。胸騒ぎがどんどん膨れてくるのを感じながらようやく隼人がぷりん部へ足を踏み入れると、誰も居なくなったぷりん部を見渡して叫んだ。

「先輩!」

 大声で呼ぶも返答は返ってこない。床には複数の足跡が残されており、争った形跡が物言わぬ状況を説明しているように思えた。

「先輩、部室に居るって言っていたのに……何処に行ったんだろう。それにこの足跡は?」

 そう言って隼人はもう一度瞠に電話を掛けてみる。すると、聞き覚えのある着信音が部室内から聞こえてくるのに気付いた。

 音は部室の片隅で鳴っていた。隼人が瞠の携帯を探していると、いつも閉まっているロッカーの扉が開いていることに気付き嫌な予感がした。

 耳元に携帯を当てながら恐る恐る近づくと、山になった大量の下着が積まれてある。

「なんで、ここに下着が?」

 その一番上に自分の下着があることを見つけた隼人。自分のボクサーパンツだと知ると、先ほど更衣室で盗まれた下着だと即座にリンクする。

「どうして部室にボクのボクサーパンツが?」

 唖然としている隼人が我に返り、瞠の携帯を眼で探し始めると、廃材の隙間から鳴っているのを発見した。

「これ、先輩の携帯だ。やっぱりここにいたんだ」

 持ち主不在の携帯と無数の足跡。誰に説明されることなく、この場で何かが起こったことを物語っている。

「先輩を探さないと」

 踵を返した時、視界の片隅でぷるぷると震えている三人組が目に入った。先ほどまで気がつかなかったが、彼らは身を寄せ合い身体を暖めるように集まっている。

「もしかすると、なま党の皆さんですか?」

 見覚えがあるのも当然である。先日も領土戦でベストポジションを賭けて戦った三人組だったのだから。

「ここでなにがあったか知ってますか? 教えてください」

 隼人が三人に詰め寄るとなま党は震えながら、

「俺たちは悪くない。無理矢理、言うこと聞けって脅されて……しかたがなく」

 なま党は呂律が回らないのを必死に直しながら首を横に振って答えた。

「脅されたって誰にですか? 他の徒党の人ですか」

 初め隼人は他の党が関係していると考えていた。しかし、パンティに情熱を燃やすパンツ連合の徒党がこんな荒事みたいなことをするのかと疑問にも感じていた。

「違う、俺たちじゃない。あいつら……執行部が……」

「執行部? それって生徒会のですか。生徒会が何をしたんですか」

「俺たちに道案内させたんだよ。怖い剣幕で『ぷりん部の部室は何処だ』って、並木道から俺たちを引きずってここまで」

「案内させたって……それじゃ、先輩は生徒会が連れて行ったんですか?」

「そうだよ。だってしかたがなかったんだ。言わないと親に隠してある赤点の答案のありかを言うぞって」

「お前はいいよ。赤点なら怒られるだけだから。俺なんてエロ本のありかを言うって言うんだぞ。そんなこと親にばれたら白い目で見られちまう。自分の家で肩身が狭い思いなんかしたくねぇよ」

 そう言ってなま党の三人はぶるぶると震えた。もう一人のなま党は歯をガタガタ鳴らしながら喋ることさえ出来なかった。余程、口に出来ない秘密があるのだろう。

「なんで生徒会が先輩を? それってあそこにある下着と関係があるんですか」

「しらねぇよ。なんか現行犯だって言って連れて行っちまった」

「現行犯って……下着の? 先輩が下着を盗むはずがないのに。早く連れ戻さないと」

 憤った隼人が部室を飛び出そうと走った時、視線の先、出入り口を塞ぐように立っている人影に気付く。人影というかパンダの格好をした人物であった。

「ああ……遅かったみたいですね」

 そう言うとパンダの着ぐるみは困ったように周りを見渡し、大きくて円いパンダの頭部から溜息を吐いた。。

「いや、私も何とかしようとしたのですが、入れ違いになってしまったようで」

「あっ、あの……失礼ですが、どなたですか? ボク、急いでいるのでパンツ連合の方なら話はあとにして欲しいのですが」

「あっ、申し遅れました。私は伽噺昴(かばなしすばる)と申します」

「かばなしすばる?」

「はい。こう見えて懲罰委員会をしております」

 そう言うとパンダは丁寧にお辞儀をした。懲罰委員会とは、全校生徒及び八徒会全てを監視し、委員会既定に背いた者を問答無用で懲らしめている組織である。この学校で唯一、生徒会に罰を与える権限を持つ者達のことを言う。その懲罰委員会の委員長こそが、隼人の目の前に居るパンダだったのである。しかし、隼人はその事実を知らない。この場合、瞠が説明してくれるのだが、彼が捕まってしまった上、再登場のパンダの説明を律儀に語る者などこの場には居なかったからである。

「生徒会が私的に権力を使っていると情報がありましたので調べていたのですが、まさかこんな強引な手を使うとは思ってもいませんでした」

「情報? 伽噺さんはなにかご存じなんですか?」

「大量の下着を運んでいる人たちをお見受けしましたので、後を付けていました。ですが、地下に入った瞬間見失ってしまいまして、いままでこの迷宮のような所を彷徨っていたんです。ここは道が入り組んでおりましたので、少し大変でした」

「下着を運んでいる者って事は、もしかして生徒会の人が自作自演で先輩を連れて行ったって事ですか?」

「運んでいた人が生徒会の方か存じ上げませんが、先ほどのそちらの御三方の話を聞くと、連れて行くタイミングが不自然ですね」

 そう言ってパンダは表情を変えずに重そうに頭を振って見せる。

「なら、なおさら急いで先輩を連れ戻さないと」

 再度、隼人が飛び出そうとするが、パンダは出入口を動こうとせず、静かに立ちはだかった。

「お待ちなさい。あちらさんも証拠があっての事です。手ぶらでは門前払いを食わされますよ」

「それじゃ、どうすればいいんですか? 黙って見てろと言うんですか」

「こういう時のために我々懲罰委員会は存在しています。ですが、急な展開でしたので我々もまだ準備が出来ていません。そこでご相談なのですが、私たちの事を手伝って頂けませんか?」

「手伝うってなにをです?」

「生徒会会長の金剛寺天乃を追い詰めてください。手段は問いません」

「金剛寺天乃!」

「おや? ご存じという顔ですね」

「はい、似たような名前の人を知っています。でも、手伝うってなにをすれば」

「そうですねぇ、まずは証人を集めることから始めましょうか。アナタの先輩が無罪である証人です。あと、それを裏付ける証拠も」

「証拠と言われても」

「ふふふ……居るではありませんか。あそこに」

 そう言って伽噺は、、パンダの左腕を持ち上げ隼人の後ろで震えているなま党を指さしした。

「アナタは存じ上げていないかも知れませんが、パンツ連合の皆様は複雑な情報をお持ちなんですよ。彼らに聞けば自ずと証人は見つかるはずです」

「複雑な情報?」

「はい。時間がありません、急ぎましょう。といっても我々は学生なので受業はしっかり受けなければなりませんけど」

「そんな、先輩が大変な時に悠長に授業なんて受けてられませんよ」

「いいえ、正しいことをするのですから授業は受けなければなりません。その上で完膚無きまでに証拠を突きつけてあげるのです。ぐぅの根も出ないほどに」

「わっ、わかりました。とりあえずボクは授業に戻ります」

「それでいいのです。行動は休み時間に行ってください。なぁに、心配はいりません。連れて行かれた先輩も取って食われることはないのですから」

 そう言って伽噺は隼人の後ろにいる三人を覗き見て、

「アナタがた徒党も全面的にこの方に協力してくださいね」

「なんで俺たちがやらないといけないんだ。生徒会に盾突いたら俺の赤点がバレちゃうじゃないか」

「ダメです。これは懲罰委員会命令です」

 伽噺の『懲罰委員会』という言葉に反応して三人がより一層身体を震わせた。

「おい! あのパンダって、もしかして懲罰委員会のパンダ番長じゃないのか?」

「パンダ番長って言ったら、師匠が在籍していた組織の頭じゃないか。どうするんだよ、話が飛躍して理解が出来ねぇよ」

「ここは従わないとヤバイよな。あの組織にはパンダ番長の他にケンカ好きの女番長や牛みたいな大男が居るって話だぞ。言うこと聞かなかったら生徒会より恐ろしいことになる」

「噂によると、去年のパンツ連合VSブラジャー派の戦いで秘密裏に動いていたって話だし……」

 三人は顔を見合わせて同時に頷いた。

「わっ、わかったよ。俺たちパンツ連合は全面的にぷりん党に協力するよ。他の党員にも知らせておく」

「くれぐれも我々懲罰委員会の名前は出さないでくださいね。我々が動いているとなると色々面倒なことが起こってしまいますので」

 そう言うとパンダこと伽噺昴はぷりん部を後にした。

 残された隼人がなま党に懲罰委員会の事を聞こうとした時、

 キーンコーンカーンコーンと、一時限目を知らせる鐘が鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ