第二話「パンツ連合」 05
「ぷっ、ぷりん党だと?」
神威は後退りした。彼の後方には、隠れていた段ボールが次々と茂みから出現しては神威の退路を塞いでいく。
「なんだ? このリンゴとミカン箱の数は」
『見ツケタ。見ツケタゾ』
どこからともなく声が聞こえてくる。ガタガタと神威の後方にあるミカン箱が揺れたかと思えば、段ボールの底から手足が生えた。現れたのはブリーフ一丁に身を染めた仮面党の面々であった。
「なんだ、このハレンチなヤツらは」
神威が驚いたのも当然。彼が振り返ると、視線の先にミカン箱で顔を隠した男どもが立っていたからだ。首から下はなにも着ておらず、白のブリーフだけが気持ち悪くそよ風にさらされているのがオゾマシイ。
集いしブリーフ集団。その名は仮面党。段ボールに隠れる際は、制服を一切着用しないので、彼らの姿は太陽が照り付ける光でヒドク目立ったことだろう。当然、並木道を歩いていた女子生徒が「きゃああああああああああああ」と、悲鳴を上げたのも頷ける。
そんな阿鼻叫喚の巷と化す傍らで、佐木崖瞠だけが不適な笑みで見つめていた。
ここで説明しなくてはならない。数多ある徒党をまとめ上げた、偉大なるパンツ連合の師匠の後継者が佐木崖瞠なのである。
師匠は右手にプリンを持ち、左手にパンティを握り締めながら、去年まで繰り広げられていた『パンツ連合VSブラジャー派』を終結へ導いた。
そんな偉大なる師匠も卒業の日が近づくにつれ世の体制が気になったらしく、師匠は弟子たち(徒党)に自ら編み出したヘンテコな秘技を教え、世の安定を願った。そして卒業式のとき、師匠は徒党が集まる前で当時無名の佐木崖瞠を後継者に選んだのである。当時、一年生でありながら師匠に認められた瞠。しかし、それに不服を述べ立てた他の徒党が「やってられるか」「師匠の卒業は連合の解散だ」「っていうか佐木崖瞠って誰だよ」と言って立ち上り、乱痴気騒ぎに発展してしまう。
散々、ファミレスで暴れ回り、師匠をもみくちゃにする事こそがパンツ連合流の送別会であり、去りゆく師匠へ捧げる精一杯の愛情表現だったりもした。
そして、ファミレスの店員がマジギレしたのを見計らって、師匠は徒党に最後の言葉を贈った。
『徒党に仇なす者が現れた時、徒党は結束しパンツ連合となる』
最後まで瞠を認めていない徒党も、それだけは約束することにした。
なぜなら、それがパンツ連合の師匠「山田コウタロー」が去り際に残した言葉だったのだからしかたがない。
師匠の卒業を機に分列してしまったパンツ連合だったが、徒党に仇なす敵が現れた時にだけ一致団結して情報を交換しあう。日本野鳥の会に交じってパンチラを探していた邪眼党が敵の位置情報を他の徒党に伝え、仮面党総出で敵を誘き寄せ、師匠の後継者である佐木崖瞠が天誅をくだす。なぜ、最後が瞠なのか? それは徒党の中で唯一、対人専用の秘技を師匠から授かっているからである。その技こそが、先ほど女子柔道部室で放った「地獄突き(ヘルズ・ゲート)」なのだ。
「さあ、パンティを返してもらおう」
そう言って瞠は右手を出した。
「ちょっ、ちょっと待て。俺がいつ下着を盗んだって言うんだ。証拠を見せてみろ」
「証拠だと? キサマ、我々がパンティを見つけられないとでも思っているのか」
煩悩の全てをパンティに捧げている集団であるパンツ連合に探せないパンティなどない。ましてや穿いているパンティを見破ることなど造作もない。
「じゃあ、探してみろよ」
そう言って神威はポケットの中身を瞠に見せる。
「往生際が悪いヤツだ。キサマの穿いているパンティは、キララが愛用しているジャカードのフルバックだろ」
「ふん。それをどうやって証明するんだ」
「ここまできて、まだシラを切るつもりか。それでもキサマは人間か! キサマのパンティ(血)は何色だ!
「そんなもん知るか。さあ、証明させてみろ」
神威は開き直っていた。ズボンさえ脱がなければ、女性用下着を彼らに見られることはないと考えたからだ。
しかし、その浅はかな考えは水泡に帰してしまう。突然、一陣の風が舞い上がり、神威のズボンをずたずたに切り裂いた。なま党幹部が操る風で、カマイタチを作り神威のズボンを切り裂いたのである。
無情にもコマ切れになるズボン。露わになるジャカードのフルバック。見たくもないすね毛。それはまさに、オゾマシイ光景であった。
「ちっ、チクショウ――――――――!」
神威は赤面した顔を両手で隠しながら、そのまま踵を返して並木道を逆走して行った。




