第三章 傍観者の少年と傍観者の報道屋
<相模埜代>
「なあ、じょうほうやって結局なんなんだよ」
「情報売って稼ぐやつだよ」
「そんな人間が今時はいるんだな」
「ああ、俺もびっくりしたけど……。それにしてもあいつは異常だったな」
ヤヨイは吐き捨てるように言うと、これ以上何も言いたくないというような顔をして、僕の隣を歩いた。
僕はそれを横目で見ながらもあえて聞かない事にする。
―――面倒ごとはごめんだからね
誰でも自分が一番可愛らしいものだろう。面倒な事を進んで聞いたり、知ったりする必要性なんてどこにもない。
無言が多かったが、昨日友達になったばかりの、今日親友になった関係だ。こういう沈黙は当たり前だろう。お互いの事をよく分かっていないのだから。
校門を出ようとした時、ふと、人影が目に映った。
顔を上げると、ニコニコと笑った男性。
その視線は僕ではなく、ヤヨイを捉えていた。
「警察?」
「いきなりなんだよ」
「いや、あの男だよ」
そう言って指を指すと、ヤヨイも気づいたようで不審そうな目を向けた。
そして首を横に振る。
「あれは警察じゃねーな」
「よく断言できるね」
「あいつはそんなよわっちぃもんじゃねーよ」
「……へぇ」
警察でもないならこの隣を歩く殺人鬼に何のようなのだろうか?
少し興味がわいてしまったが、関わると大変な目に会いそうなので、やはり何も言わないでおく。
校門に近づくに連れて、その男にも自然と近づいていた。
そしてそのまま通り過ぎようとした時―――
「……逃げるなんてヤヨイちゃんらしくないじゃないか」
「なっ!?」
ヤヨイの学ランの根っこを、男がしっかりと掴んでいた。
そして挑発するようにヤヨイをちゃん付けで呼ぶ。
沸点が低い彼はそれだけで切れてしまった。
―――よく今まで生きてこれたなぁ
それがこの状況で思った感想だ。
ヤヨイはいつも持っているらしいサバイバルナイフを両手に男を睨みつけるが、男はそんなの気にしないといった風に、ただヤヨイを見つめた。
「逃げるなんて『大罪』らしくないじゃないか!君は誰に抑えられたんだい?『色欲』?『傲慢』?『憤怒』?『怠惰』?『嫉妬』?それとも『暴食』かな」
「……お前はなんなんだ?」
ヤヨイの瞳が揺らいだ。
おいおいおい、ちょっと待ってくれよ。と、僕は心で思う。
どうしてこんな公衆の面で喧嘩とか始めようとしているんだ?
これは小説や漫画じゃないんだから、指導されるか警察行きだ。
それが伝わったのか伝わっていないのか、男は大げさに肩をすくめた。
「別に『大罪』に対してちょっかいをかけようとなんて思わないけど、一つだけ覚えておけよ?」
男は薄っすらと笑った。
「僕の領域に入ってくるな。入ってきたら僕は誰であっても消すぜ?」
そう男は言った後、眠そうにあくびをしながら去っていった。
いや、本当になんなんだよ。昨日と今日と言い、僕の運勢は最悪じゃないか。
ヤヨイはしばらく男の背中を睨みつけた後、周りの視線も考えてすぐに僕の元へと戻ってきた。
いや、戻ってこなくてもいいんだけど。
「結局あの人は何だったんだ?」
そう尋ねると、ヤヨイはまたもやあっさりと答える。
「あれは報道屋だな」
「……なにそれ、僕そんなの知らない」
「あったりめーだろ、お前が知ってたら俺は驚きで宙返り20回できるぞ」
そんなにできるのか。
心の底から驚いた。
ヤヨイの表情はいまだに険しかった。なんだどうした?
「あいつらが動き出したのかよ。……よりによって、この2人が」
「2人?」
「ん?情報屋と報道屋のことだよ。こいつらには関わるなよ、絶対な」
いや、ヤヨイ君。さっき思いっきり顔知られたし関わりたくないのはそうなんですけど、話しかけられて無視することなんてできるわけないだろう。
それを伝えると「お前は可哀想な人間だよな。ドンマイ」と言われた。
こうなったのは半分、こいつのせいですけど?
あと地味に酷い事を言うなこいつ……。
だが、僕は確かに可哀想な人間だった。
そして不運体質でもあったことを自覚させられた。
なにせ、報道屋と情報屋に知られることになった僕は、「殺人鬼」の友達として、認識される事になっていたのだから―――