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第一章 日常は消え去る

<相模埜代>


どうして僕は喫茶店にいるんだ。

少年は心の中で毒づいた。

目の前でおいしそうにケーキを頬張っている殺人鬼を横目に、少年は静かに考えていた。

というかケーキをサバイバルナイフで食べる必要はあるのだろうか?普通にフォークで食べればいいのに…。

心の底からそう思ったが声には出さない。

それにしても違和感がすごかった。あんなに大きいサバイバルナイフをよく器用に扱えるものだ。さすが殺人鬼というわけなのだろう。

少年はそう結論付けたあと、目の前の殺人鬼について思い出していた。

相模埜代(さがみのしろ)は自殺志願者だった。

死にたくても、死ねない少年はいつからか誰かに殺してもらおうと考えていた。

でも、そう簡単に自分を殺してくれる人間はいない。不運な事に、彼が通っていおる中学校ではそのような行動を起こす生徒はいなかったのだ。

いじめもなく、誰もが幸せに過ごせるとても良い中学校だったのか。

だからこそ少年は思った。誰かに殺して欲しいと。

理由はただ一つ。死んだあとには何が待っているのかを知りたかったからだ。

死後の世界と言うのに興味を持ってしまったのだ。

だからこそ、誰かに殺して欲しかったのだが誰も殺してくれない。

そんな時に知ったのが、殺人鬼『強欲』だった。

無差別殺人鬼といわれており、目撃者もいない。どんな人物なのかも分からない。

それが殺人鬼『強欲』だった。

ならば殺してもらいたい。心の底からそう願った。

だから深夜に公園を散歩してみたり、一人で人気のない場所へと足を運んだりしていたのだが、一向に殺人鬼は少年を見つけてくれない。殺してくれなかった。

だがその努力の成果が実ってか、今日殺人気が姿を表した。

しかし、少年はどこまでも不幸だった。

ようやく念願の殺人鬼にあえたと思った矢先に、殺人鬼は楽しそうに言ったのだ。

「見逃してやる代わりに甘いものを奢れ」

「……は?」

これが殺人鬼との初めての会話だった。

そして現在に至る。

殺して欲しかったのに結局殺してもらえなかった。

少年は静かに溜息をつく。しかし、予想外だったのは――――

「……君って中学生?」

「あ?ああ、中3だよ」

僕と同じく中学生だったということだった。しかも同じ学年。

想像からして大人だろうと思っていたのに、まさか同い年の少年が人を何人も殺していただなんて思ってもいなかった。

ケーキを食べ終えた殺人鬼は嬉しそうに笑う。

逆に僕は無表情だった。

「俺はヤヨイっつーもんだ。趣味は人殺しだ」

「僕は相模埜代。趣味は死に方の研究さ」




<西條つらら>


女は静かにパソコンを眺めていた。時々何かを書き留めるがそれ以外はひたすらパソコンにへばりついていた。

女の名は西條(さいじょう)つらら。情報屋だ。

ニュースでは今話題の殺人鬼が名をはせている。だが、つららはそんなことどうでもいいとでも言うかのように、そのニュースを無視して続きのニュースを読んだ。

つららが探していたのは一人の男だった。

連絡を取ろうと思えば簡単に取れる相手なのだが、自分から電話しようだなんて思ったことはない。想像しただけで吐き気やめまい、頭痛を引き起こしてしまう。

そうやって情報屋としての意地を見せるために男について調べるが、めぼしい情報は見つからない。

だが、傍から見ればその男について一番知っているのは西條つららだといってもいいだろう。でもつららはそれだけでは満足しなかった。

これは同属嫌悪なのかもしれない。

情報屋と報道屋という、似たような職業をしているせいでこんなにもお互いを嫌っているかもしれない。そう考えていた事もあった。

だが、それは明かに違った。

なにせ、その職業を始める前から、つららと男はお互いを嫌っていたのだから。

そしてつららはその男に一度も勝ったことがない。じゃんけんでも勝てた事がなかった。

逆に男は負けたことがなかった。じゃんけんにでも負けたことがなかった。

異常と異常が合わさった時、生まれるのは嫌悪だ。

だからいつまでも西條つららは彼を嫌み、嫌う。

一度つららはパソコンの電源を切った。長時間使用してしまっていたため、目が痛くなったのだ。

眼鏡をいつも着用しているのだが、眼鏡は寝室にあるためここから動かなければならない。

それは面倒だ。

西條つららは極度のめんどくさがりやなのだ。

だが眼鏡が無かったらまた目が痛くなる。それはそれで面倒なので渋々取りにいき、着用した。

そして今度はパソコンではなく携帯を操作する。

ふと、目の前に先ほどの殺人鬼の記事が目に映った。

興味がなかったが、何度も何度も現れると少しだけ興味がわいてくる。

きまぐれにその記事を開いた。

そして、西條つららは驚いた表情をしたあと、すぐに笑みを浮かべた。

「……これって殺し屋一族じゃないか」

すぐに4台のパソコンに電源を入れ、ネットへつなげる。

そして西條つららは情報網の網の中へと、入り進めていったのだった。





<相模埜代>


「へぇー!お前って死にたいんだな」

「死にたいよ。でも自殺なんて怖くて出来やしないんだ」

そう言って肩をすくめる僕に、ヤヨイと名乗った殺人鬼は「ハハハハハっ!!」と楽しそうに笑った。

そんなに面白いとは思わなかったけど……。

「自殺が怖いのになんで死にてーと思ったんだ?俺にはさっぱりわからねぇ」

「それは大人の事情だよ」

「子供の癖に?」

「子供の癖に」

「……あっそ。で、俺に殺されてーんだな?」

「よくわかったね」

「てめーみたいな奴の目を見てたらわかるんだよ。」

そんな会話をしながらたどり着いたのは、昼間なら観光客で溢れているはずの清水寺だった。今は深夜なので人気がない。というか入っていいのやら……。

「あぁ、別に心配しなくていいぜ?人がいたら解らせばいいだけだからな」

「ばらす?」

意味がわからず聞き返す。いや、ばらすと言うのはきっとバラバラにするという意味なんだろうけど、今までコイツが殺してきた人間はバラバラとは言い難かった。

どちらかというと、グチャグチャだったのだ。

ちなみにこの情報は個人でやっているラジオから入手した情報である。

パーソナリティは誰だっけなぁ……。

そんなどうでもいいことに思考がいっていることを知らないヤヨイは、律儀に答えてくれた。

「あー、なんつーかよぉ、俺は人を殺してるんだ」

「うん、それは知ってる」

「でも実際のことを言っちゃうと、俺は人を殺したという認識はないわけ」

「……病気?」

それとも無意識にやっちゃうというやつなのだろうか?いやそれも病気か。

だがヤヨイはそれをあっさりと否定した。

「ちげーよ。俺は人間の仕組みを知りたいんだ」

「は?」

「だから、俺は人間を解体してどういう仕組みで生きているのかを知りたかっただけなんだよ」

悪気がなさそうにかるーく答えるヤヨイ。

それを聞いて僕は完全に固まってしまった。

つまりヤヨイは、人を殺している自覚はない。なぜなら解体して仕組みを知ろうとしているだけなのだから。そしてそれを解体する事によってそれは死んでしまう。

それだけの話だと言うのだ。

改めて思う。こいつは恐ろしいと。

ヤヨイはいきなり振り返る。思わず体がビクリと震えてしまった。

「おいおい、そんなに怯える事はねーだろ?一緒にケーキを食べた仲じゃねーか」

「……生憎なことに僕はケーキを食べていないんだよね」

「あれ?結局お前食べてないんだ。損したぞお前」

「僕のお金なんだから損も何もないよ。そもそも甘いものは苦手なんだ」

その僕の答えに、「お前、人生を90%損してるぞ!?」と叫ばれた。

いや、それは個人によって違うから。

「それにしても……本当に君は僕の事を殺さないんだね」

「ん?あー、だってお前は殺したし?」

「はぁ?」

「だからよ、お前とにたよーな奴に、お前よりも先に会ったんだ。で、ばらした」

「……だいぶ君の殺し方が分かってきたよ」

「そうかいそうかい。ようやく俺のことを理解してくれたんだな」

そう言って何故か僕のポケットから僕の携帯をとるヤヨイ。

何をするつもりなんだと思っていたら、何故かメアドを交換されていた。

意味わからん。理解なんてできてねーよ。

「よしっ!これで俺と友達な!!」

「……君って馬鹿なんだね。正真正銘の馬鹿なんだね」

「殺されてーのか!?あぁ!?馬鹿馬鹿言うんじゃねー!」

「だから殺されたいって言ってるじゃないか」

「あ、そっか」

本当に馬鹿だった。

というか、このまま通報されるという考えはこいつにないのだろうか?

……一週間後には捕まってそうだな。

そんな心配をしながらも携帯を返してもらう。

そして哀れむような目で見てやった。

「君は一週間後に警察に捕まって報道されてるだろうね」

「俺は誰にも掴まんねーよ」

「捕まってるだろうね。しょうがないから面会には行ってあげるよ」

「真顔で言うなよ」

そんな会話をしながら自然に別れた。

殺人鬼と友達なんて初めてだが、いつかは殺してもらえるかもしれない。

そう考える事にそよう。

だが、僕の予想通り彼は捕まる事になる。

しかし、一週間後ではなくこの1時間後にだ。

そして警察に捕まったのではない。

――――史上最悪の情報屋によって彼は捕まえられたのだった。

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