映研部メンバーの妹ポジション
「昨日、先輩すごかったねー。」
真菜実と実希はまた部室に来ていた。『先輩』というのは当然、梨木先輩のことだ。
「うん。それも突然だったから、びっくりしちゃった。」
本当に驚いた。だって、むしろ私が「あー!かわいーなー!もーっ。」ってなってたくらいなのに、好意を抱いてるのはこっちだったのに、まさか、その人にあんなこと言われちゃうなんて思わないもん。
でも、嬉しくてしょうがなかった。ずっと一方的に好きでいるままなんだろうなって思ってたから。たとえ好きの種類が違っていたとしても好意を抱かれているのは間違いないわけで、他の人よりも少し特別な気がして、それだけですごくすごく嬉しかった。
「今度映像を制作することがあったら『真菜特集映像』ってのにしたらいいんじゃない?」
「ちょっ、もー、やめてよー!そんなの恥ずかしいもん。」
「いいじゃんいいじゃんっ。梨木先輩、絶対大喜びするよー。」
「やだってばぁ。」
「ほんと、もったいないやつだよね。あんたはっ。」
「うるさいなぁ、もー。もったいなくてけっこうですよーっだ。あ、お茶飲もーっと。」
「ふふっ、2人とも仲いいねー。」
んぐっ!?突然声をかけられて噴き出しそうになった。
「ん?おー、沙紀じゃん!おはよーっ。」
「おはよ。」
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、あ、あぶなーっ。」
「あんたは1人で何やってんのよ。」
「だってびっくりしたんだむぐぅっ。」
これは別に言葉がおかしくなったわけではない。
「真菜実、ちゃんと口拭きなよ。」
沙紀がハンカチで真菜実の口元をいきなり拭ったのだ。
「ん、むぁっ、んん。」
「はい、おしまい。」
「ん、ありがと沙紀。」
「どういたしまして。ふふっ、真菜実はかわいーね。」
「なっ、なんだよぅ、いきなりもうっ。」
「そうそう!あんた可愛いんだから、口からよだれ垂らしたりしてないでもーちょっと女の子らしくしなさいよねっ。」
「う、うるさいなぁっ!余計なお世話ですーっ。それに、よだれじゃなくてお茶だもん!!」
「ハンカチだって、どうせ真菜のことだから持ってないんでしょ?沙紀に感謝しなよー。」
「ぐっ、うぅー!沙紀にはありがとって言ったもんー!!」
「はいはい。ハンカチは図星だったのね。」
「こんにゃろぉーっ。そんで沙紀はなんで頭なでてるんだよぉーっ。」
「ふふふっ、真菜実の目がなでてって言ってるよ。」
「真菜は映研メンバーの妹だからね。うりゃーっ。」
沙紀も映研部の1人だ。苗字は永谷。美人で背が高くて大人っぽくてやることもテキパキこなすので、“デキル女”っていう言葉がピッタリである。長いサラサラの黒髪がよりいっそう大人っぽくしている。最近はこの3人でいることが多いのだが、実希も沙紀も大人っぽいので、ただでさえ幼い顔立ちの真菜実がより幼く見えてしまう。
「うーっ、実希までなでるなーっ!もー、そんな目してないし、いつから妹になったんだよっ。しかも実希は誕生日私の方が先じゃん。」
「関係ないの。真菜はアタシたちの妹っ。」
「なんだよそれー。」
「ふてくされてる真菜実もかわいいよ。」
「もーっ!!!」
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「はぁーっ。2人で散々私をいじり倒しといておいてけぼりかよー。」
2人とも次の授業があるのでしばらく戻ってこない。連続の空きコマで暇になってしまった真菜実は、ソファの背もたれの方に顔を向けて寝転がっている。
「うぅ、寂しい…。」
「私がいても?」
「うぇっ!?わ!わぁぁっ!あ、あのっ、おお、おはようございますっ!!」
「おはよっ。」
心臓が止まるかと思った…!今までの人生でこんな速度で飛び起きたことがあっただろうか…。
「梨木先輩、いつの間に入ってきてたんですかっ!!」
「さっき藤井さんたちと会ったんだけどね、『寂しがってるだろうから相手してやってください』って言われたんだ。それで、せっかくだから驚かそうと思ってそーっと入ってきたの。」
「せっかくだからってなんですか!っていうかもう!またあの2人は私のこと子ども扱いするー!」
「でもほんとに寂しかったんでしょ?」
「べ、別に寂しくなんかなかったですよ!!」
「さっき『寂しい』って言ってたよね?」
「うっ、そ、それは…。」
「ふふっ、私が来たからもう寂しくないよー。」
「んっ…!」
―――もうっ、先輩まで私の頭なでるっ!
…ほんとは、『先輩まで頭なでないでくださいよー』とか『だから寂しくないですよ!』とか言いたかったのに、先輩に触れられているのが嬉しくて、やめてほしくなくて、ドキドキして、何も言えずにただただじっとしていた。