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VENGEANCE  作者: 七鏡
LAST WALTZ OF VENGEANCE
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62

キースとアルミラがウェルナー邸にいた時、ロレンスが一通の手紙を持ってくる。

キースはそれを手に取り、送り主の名を見る。だが、そこに名はない。

キースはロレンスを下げると手紙の封を切る。

「・・・・・・・・ヴェルベットからだ」

一通り読んで、キースはそう言い、手紙をアルミラに渡す。心なしか、キースの顔色は悪い。アルミラは手紙を不審に思いながらも受け取ると、それを読み始める。

そして、驚愕に目を見開いた。

「これは・・・・・・・・・・・・」

「なるほどな、確かに、ヴェルベットを始末したいわけだよな、宰相も大公も」

そう言うと、キースは静かにため息をつく。

「今の国王は本物ではないまがい物で、ヴェルベットこそが最も正当な王位継承者ってわけだ。真実が知れたら、この国はどうなるだろうな?考えただけでも恐ろしい」

「ですが、もう歯車は動いてしまっているようですわね」

アルミラは言う。

「ああ、奴らは間違いを犯した。眠れる獅子を下手に起こしてしまったのだから」

そう言い、キースは手紙の内容を思い出す。

この国を、あるべき姿に。それが、彼女の、ヴェルベット・ヴェストパーレの言葉。

彼女はキースやアルミラ、シスノ侯爵、その他の進行のある者に手紙を送っているらしい。

彼女は彼女を育てた人たちがなせなかったことを、やり遂げる気らしい。

彼女はもう、迷わないだろう。真の敵を見つけた彼女。恐るべき復讐者『VENGEANCE』は、一度狙った相手を逃がしはしないことを、キースは知っていた。

手紙で語られた自身の血筋に驚きはしたが、どうせ王政は廃止するつもりだったし、貴族性も好きではない。王族でなかった、と知ると、肩の荷が下りた気もした。

しかし、同時に怒りも感じていた。母を苦しめた原因となった宰相や大公、そして父への怒りを。

キースは静かに拳を握った。

「その様子ですと、協力されるようですわね」

「お前はどうするんだ?」

アルミラにキースが問うと、少女は笑った。

「勿論、友人のお誘いは喜んでうけますとも。わたくしも、今の王国の体制には満足していませんもの」

夫は平民であるから、彼女もそれなりに苦労はしてきた。貴族主義というものが時代錯誤になりつつある今、それを偽りによって守ろうとするなど、彼女の美学に反する。



シメオン・ヴェストパーレもまた、妹とされていた人物から直接手紙をもらっていた。

彼もまた、その内容に驚き呆然とヴェルベットを見ていた。己の父が、これほどまでに理想に燃えた人物とは、彼は知りもしなかった。彼が知っていた父は、王家に忠実な男で、自身のことだけを考える人物であった。そんな父が、若き頃理想に燃えた人物であったとは。そして、真の王家の血筋を守ろうと、命すらかけていたのだと。秘密を、誰に語ることなく、墓まで持っていったのだから。

シメオンはハッとすると、すぐさまヴェルベットの前に膝をつき、首を垂れる。貴族が膝をつくことは、王族に対してのみ。絶対の忠誠と、自身の命を掲げる、という意味がそこにある。

ヴェルベットに向けて、片手を差し出す。頭は垂れたまま。その手が取られた時、初めて誓約は誓約たり得る。

だが、紅い髪の少女は、彼の手は取らなかった。

「顔を上げてください、お兄様」

「しかし・・・・・・・・・・」

「あげなさい」

ヴェルベットは仕方なく命令する。シメオンは顔を上げて、少女の顔を見る。

「私はあなたやほかの人たちにも、忠誠も命も望みはしないのです。私が望むのは一つ、復讐だけなのです。そして、そのための手段として王国の革命を行うだけ。そのような人物に捧げるべき忠誠も犠牲も必要ありません」

ヴェルベットはそう言うと、シメオンの前にしゃがみ込む。そして、彼の紅い髪を撫でて言う。

「顔を上げて下さい。私が必要とするのは、私の後についてきてくれる部下ではなく、隣に立ってくれる同志なのです、シメオン」

そう言い、ヴェルベットはシメオンに手を差し伸べる。

「さあ、ともに先人たちが目指した理想、そして、子供たちの未来のために、戦いましょう」

美しき少女の言葉に、思わず聞き入り、シメオンは自然とその手を取った。少女は、静かに、美しく微笑んだ。

ああ、そうなのか、と彼は理解する。父も、きっと同じだったんだ、と。

ただ、彼女に笑っていてほしかったんだ。友とともに、静かに笑える世界にしたかっただけなのだ、と。

今まで、シメオンは古い貴族に取り入るように生きてきた。馬鹿馬鹿しいと思いながらも、それを変える勇気が彼にはなかった。

だが、この人となら、できるかもしれない。シメオンはそう思った。

ヴェストパーレ伯は、静かに涙した。




ヴェルベットはヴェストパーレ邸を出ると、館へ向かう。

彼女は壮絶な戦いへと向かわなければならない。もしかしたら、死ぬかもしれない。館の女性たちを路頭に迷わせることがないように、経営やその他を、信用できるものに与えなければ、と彼女は考えていた。

そして、それを譲り渡す人物は決まっている。

館に来たヴェルベットを、エリスが出迎える。隣には夫のクロウドもいる。

二人を見て、ヴェルベットは言う。

「二人とも、少しいいかしら?」

そう言い、二人を引き連れて、彼女は自身の執務室へと入る。

そして、執務室に入った彼女はエリスに館の所有権利書を取り出し、彼女に渡す。

「ヴェル、どういうこと?」

「そのままの意味よ、エリス」

そう言い、ヴェルベットはほほ笑む。呆然と、エリスは立っていた。

「私には、しなければならないことがある。そしてそれは危険なことなのよ。死ぬかもしれないほどの」

「だったら、どうして!?どうして私なの、ヴェル!」

エリスは泣きそうになりながら言った。

「あなたしか、任せられる人はいない。私のことを一番理解してくれる、あなたにしか」

「私は、ただ、ヴェル、あなたの隣で、あなたを支えて上げられれば、それでいいの!」

そう言い、エリスはヴェルベットの手を取る。

「エリス、あなたは、もう十分につらい目にあってきた。もう幸せになってもいいのよ」

「ヴェルは?私が幸せになっても、ヴェルはどうなるの?ヴェルが死ぬのなんて、私は嫌だよ」

エリスは、強く感情をこめて言った。

「あなたがいない未来なんて、考えられない。あなたがいたから、今の私がいる!」

「エリス・・・・・・・・・・・・」

「お願いよ、ヴェルベット。そんなことを言わないで、一緒に戦おうよ」

エリスは、強い眼差しで紅い髪の少女を見る。

強い意志を持った目だ。自分もこんな目をしているのだろうか、とヴェルベットは思った。

ああ、こんな目をされて、涙さえためて。こんな顔で頼まれたら、断れないじゃないか。

ヴェルベットは隣に立つクロウドを見た。彼は妻の肩に手をやり、ヴェルベットに頷く。

仕方のない人たち、とヴェルベットは息をつく。

「わかったわ、エリス。でも、これは預けておくわ。でも、私は死ぬつもりはないわ」

「ヴェル」

「頼りにしているわよ、私の一番の親友さん」

そう言い、ヴェルベットは親友を抱きしめた。

こんな自分でも、愛してくれる人がいる。

ああ、なんて、幸せなんだろうか、自分は。

(見てくれていますか、ミアベルさん、父様、母様。そして、母さん)

ヴェルベットは、自分を愛し育ててくれた人たちを思い浮かべる。

(私は絶対にこの国を変えてみせる。それが、私の復讐ヴェンジェンス


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