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VENGEANCE  作者: 七鏡
LAST WALTZ OF VENGEANCE
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この手紙を読むものが、誰かは知らぬが、ここには闇に葬り去られたこの国の歴史が記されている。

それでも、知りたいというのならば、このまま読み進めるがいい。

ただし、後悔したとしても、それは私の関与するところではない。


ミアベル・ドラウプニル




最近、国王陛下の様子がおかしい。

あれほど、改革派の若者とともに国の未来を語っていた彼が、すっかりその息をひそめてしまった。

私自身も、改革派に身をおいていおるが、私に対する態度も変わってきているように思える。

心なしか、顔つきや体つきも変わっているように見える。

そんな私を、ジョン・ウォルターがいやらしい目で見てくる。ギデオンやウェルテン、そしてシルヴァンと同期のこの男は、最近いろいろと悪いうわさが絶えない。オルゼン大公ともつながりがある、と私は見ている。

国王にそれを言っても、王は聞き入れてはくださらない。

シルヴァンにそのことを話そうとすると、決まってジョン・ウォルターの邪魔が入る。狡猾なこの男は、私を見張る密偵をつけているようだ。いくら私でも、自身が鍛え上げた最高の密偵たちを完全に巻くことはできない。

彼らは上からの命令には逆らえない。それが、密偵としてこの国に身を奉げた者の定め。

それでも、私は納得ができなかった。陛下の真意も、なにもかもが。


そんな時、事件は起きた。

あの事件で、改革派の若者は、ジョン・ウォルターを除き、ことごとく左遷された。かくいう私も、あの事件で姫様を見つけられず、その責任を取って閑職に回された。

実際には、私は姫様を保護していた。

そして、恐るべき事実を知った。彼女をさらったのは、保守派とジョン・ウォルターだと。

全ては改革派の失墜と、邪魔な王女の排除であった。

王女は語った。なぜ、兄王が心を変えてしまったのか、を。

彼女は聞いてしまったのだ。オルゼン大公と、ジョン・ウォルターの密談を。そのために、王女は誘拐と見せかけて殺されようとしていたのだ。

私の工作で、王女の死体とみられるものが、今頃は保守派の手で見つけられているだろう。私は王女に変装を施し、改革派しか知らない地下道へと行った。そこは、ジョン・ウォルターの知らない場所。

国王は知っているが、彼が来る心配はしなかった。

何故なら、本当の国王はすでに死んでいるのだから。


オルゼン大公とジョン・ウォルターは国王を殺害し、その影武者を作り出した。オルゼン大公の二男で、死亡したとされていた男が影武者となった。もともと血の繋がりもあり、顔も似通っていた。異国の整形術ならば、その顔を変えることも難しくはない。

かくして偽りの王が玉座についた。


アンネローゼ様は、地下で過ごすこととなった。ほとぼりが冷め、人々が王女を忘れるまで。

その間も、事情を知るギデオンや侍女のリンリ-が訪れた。左遷されたギデオンは監視の目をかいくぐりここに来ていた。リンリ-は夫となったウェルテンの言伝を持ってきた。

ウェルテンはシルヴァンとも交流を持ち続けているらしく、王女の生存は改革派の面々の中で知られてはいた。決して、彼女の存在を知られてはならなかった。何故なら、彼女は今や、最後の正統なる王家の後継者。その存在が知られれば、真実を隠そうとする保守派の手で消されるだろう。

決して知られてはならない。私たちは沈黙し、秘密を共有し続けた。




長い月日が経ったある日、シルヴァンが王都に立ち寄った。

彼はどうやら第一王子の教育係となるらしい。王はシルヴァンの罪を赦す、ということらしい。ただ単に、シルヴァンの影響力を恐れた保守派が、彼を監視しやすいように、という名目で呼びつけたことは見え見えだった。

独身で四十二近い侯爵は、そこで偶然、髪型も顔も変えた王女と出会った。

顔が変わろうと、二人の愛はいまだに残っていたし、王女は年を取ってもいまだにあの頃の彼女のままであった。

二人は愛し合った。人目につかない場所で会い、長年の思いをぶつけるように。


そして、一人の赤子を授かった。

だが、赤子の存在を知る前に、シルヴァンは再び領地へと戻ってしまった。

赤子は、私と王女、そしてギデオンの手で大切に育てられた。

だが、そんな穏やかな日々は突然終わった。

ある日、保守派の密偵が王女を襲ったのだ。平民に成り代わった王女を、その密偵は王女と見破ったのだ。

王女は襲撃され、傷を負った。私はその密偵を殺し、彼女に駆け寄った。だが、彼女はそのまま息を引き取った。

赤子は残された。アンネローゼ様が死した今、この子をここに置くのは危険だと思った。

アンネローゼ様の希望でここにいたが、保守派は今なお、王女を探しているのだ。

遠い、どこか遠い地で彼女を育て、隠さなければ。

そう思った私だったが、すでに私の力は及ばなくなってきている。私はギデオンを頼った。

彼は愛人との隠し子、としてヴェストパーレで育てようとし、夫人に却下される、というシナリオを作った。そして、自身の古い友人であり、子供のいないローゼルテシア夫妻の養子にした。シスノ侯に彼女を預けようかとも思ったが、彼には妻の存在もないし、王女との恋愛疑惑はいまだに語られていた。あまりにも危険すぎた。

全ては秘密裏に行われた。仮に探られたとしても、赤子が王女と関係することを隠す二重三重の工作を重ねた。

かくして、ヴェルベットと名付けられた少女は、地方領主の娘として育てられることとなった。

何時の日か、母親のように美しい娘となるだろうが、その時、幸せであってほしいと切に願う。

王都にさえ来なければ、彼女が見つかることはないし、ヴェストパーレの隠し子だとすれば、その真紅の髪の説明もつく。王女との因果関係は、探れないはずだ。


どうか、ヴェルベット様には、健やかで、幸せに過ごしていただきたい。




ヴェルベットはその手紙の下に、続きがあるのを見つけた。それはつい最近のもののように見受けられた。



ヴェルベット・シスノ・ローゼルテシア様へ


あなたがこの手紙を読んでいる時、恐らく私は死んでいるでしょう。

あなたは真実を知ったでしょう。あなたの本当の親のことを。

あなたのお母様は、本当にやさしい方でした。死の間際まで、あなたのことを気にかけていました。

本当の父親に会わせられず、十分にそだてることができずに、後悔されておいででした。

彼女はあなたを愛していました。そして、それは私も同じです。

妹のように、アンネローゼ様を愛してきた私にとって、あなたは娘のような存在でした。

こうして再び、あなたと過ごせたことが私にとっては、幸せでした。

ただ、心残りなのは、あなたが真実を知った時、どうするか、ということです。

あなたはお母様と似て優しくもありますが、同時にお父上のように強い意志を持っています。

おそらく、この国の根幹を変えよう、とか、正統なる罰を与える、と使命感に燃えることでしょう。

ですが、忘れないでください。決してあなたは独りではない、ということを。あなたの命は、あなただけのものではないのです。


色々と言い尽くせぬ思いがありますが、あまり長々と書く余裕も時間もありません。もっと、あなたと過ごしたかったです。

短い間ではありましたが、幸せな時間でした。アンネローゼ様や、亡きウェルテンやリンリ-、ギデオンとともに、いつまでもあなたを見守っています。


ミアベル・ドラウプニル




「ミアベルさん・・・・・・・・・・・」

ヴェルベットは涙をこぼす。手紙はまだまだたくさんある。きっと、まだ知るべきことは山ほどあるのだろう。

少女は復讐の炎を燃やす。そして、決意する。この国を変えてみせる、と。それが彼女の復讐。

育ての親や、彼らの仲間、そして母が望んだ世界。それを掴みとることこそが、彼女のすべてを奪った者たちに対する復讐なのだ。


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