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VENGEANCE  作者: 七鏡
LAST WALTZ OF VENGEANCE
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王城は今、忙しなく人が動いており、いつものような静けさはない。

その理由はついに次期国王をはじめとした王族の面々が公表されるためだ。およそ一か月後のお披露目の準備は、着々と進行しつつあった。

キースもまた、その準備に追われていたものの、ローゼルテシア事件の件は忘れてはいなかった。

自身が王になった時、この問題を起こした者たちの動向を注意しなければならない。いや、その前にそんな者たちは排除するべきである、とさえ思っていた。

キースは王の子供ではあるが、母は平民。その母も、身分や貴族の争いの果てに死んだ。それ以来、キースは貴族による支配を憎み、国の在り方を変えようとしてきた。国の機構の改革は、完全ではないが果たされた。あとは、この国の上層部に根付く忌々しき過去の遺物たちだけだ。

自身の父親ですら、キースは過去の遺物とみなしていた。父は確かに有能だが、決してこの国を支配する大貴族を御してきたわけではない。表向きは手綱を取っているようにこそ見えるが、実態は違う。

キースはそれを見てきた。

自分は父のようにはなるまい、とキースは思っていた。

お披露目も近くなり、地方貴族などもそろそろ王都へとやってくる。地方の有力者たちが一挙に訪れる。

キースはその時こそ、この国の膿を出し切る好機だと思っていた。

自身を支持する若手の貴族とともに計画も練っていた。表向きは穏便にだが、父から王位を奪うつもりであった。彼と理想を同じくする貴族たちは、いずれもキース自らが声をかけた者たちで信用に値する。

古くからの特権や格式ばかり気にする老害を、一気に排除する。父が果たせなかったことを、キースはやるつもりであった。

いずれは王政そのものの廃止すらキースは考えていた。他国にある議会制、というものが必要だ、と。



王宮のキースの部屋の扉を誰かが叩く。そして、キースが返事をすると、その人物は入ってきた。

その人物を見て、キースは眉をひそめる。飽くまで、その人物には悟らせない程度に。

入ってきたのは、灰色の髪と髭を持つ男性。50代後半の、渋みのある長身の男。若かりし頃は多くの浮名を馳せ、今なおその人気は高い。ヴェストパーレなどと並ぶ名門で、彼自身にも、薄いものの王家の血が混じっている。

彼の名はシスノ侯爵。侯爵位を持つものの、役職や地位にもつかず、地方で半隠遁状態の変わり者。

若かりし頃は、ともに国王たちとともに戦場にも立ったというが、今ではその面影はない。

年に数回見ればいい方で、国王生誕祭のときも王都には来ていなかった。

シスノ侯爵はキースの教師、と言える人物である。幼少時はまだ王都に在住しており、その際に面倒を見てもらった。

政治、社会、国家。あらゆるものを彼から教わった。

しかしながら、キースは彼が苦手であった。どこか、不思議な何かを、この男性は持っていたのだ。

「キース。久しぶりだね」

「ええ、シスノ侯。お久しぶりでございます」

キースがそう返すと、シスノ侯は渋い笑みを浮かべる。

「それにしても、珍しいですね。こういう場には来ないものと思っていましたが」

「うむ、まあな。今年は特別だからな」

シスノ侯はそう言い、キースの部屋のソファーに座る。

キースは彼の背中を探るように見る。

もしかしたら、彼もローゼルテシアの件の裏にいる勢力の一人かもしれない、と考えながら。

あり得ない、とは言えない。今でこそ、隠遁しているが、若かりし頃の彼は広い交友を持ち、強い力を持っていたのだから。

シスノ侯がここに来たのは、単にお披露目のためだけではないはずだ、とキースは確信していた。

そんなキースの目を気にもせず、シスノ侯は堂々とソファーに座っていた。




ミアベルの自宅は、その主亡き後はヴェルベットが管理していた。

とはいえ、せいぜいほこりを払うくらいで、家の状態は主の死後とほとんど変わってはいなかった。

ミアベルにも知られたくないこともあるだろう、と彼女の遺した書類などは手を付けていなかったが、そう言うわけにもいかなくなった。

ヴェルベットはミアベルの部屋など、家の中をくまなく探した。だが、ヴェルベット、もしくはアンネローゼに関する手掛かりは見つからなかった。

ミアベルの寝室に入る。探していない場所は、ここだけである。だが、見た感じでは特に何もなさそうであった。

少女は師の寝ていた布団をどかす。隠し扉がないか、などとくまなく探していたからだ。

仮にも密偵であったミアベルだ。そのようなものがあってもおかしくはない。

そうして布団を退けると、その下の床を見る。床には、奇妙な切れ目があった。

ヴェルベットは切れ目に沿ってなぞっていく。

切れ目があらわになり、取っ手が現れる。見つけた、地下に続く道だ。ヴェルベットはその取っ手を持ち上げる。暗い地下への道が、そこにはあった。

ヴェルベットは寝室に吊るしてあったランプを掴むと、地下へと降りて行った。


地下通路は広かった。とても家を使った後に造られたとは考えられない。恐らくこれは戦争当時に造られたものなのだろう。

長い間放置されていたのだろう。ネズミや蝙蝠が駆け回る音がした。

後ろの通路は、瓦礫で塞がっている。ここから先には行けないようだ。だとすれば、行くべき道は前方のみ。

ヴェルベットはランプの明かりを頼りに、深淵へと歩いていく。

この先に、何かがあるかもしれない。そう思いながら、少女は独り、闇の中を進んでいく。



どれほどの時間歩いているのか、ヴェルベットにはわからない。

暗闇にずっといるため、時間の感覚もわからなくなっていた。また、この闇の道は、永遠に続くかのように長かった。終わりの見えない地下通路。

だが、戻るわけにはいかなかった。知らなければいけない、彼女は彼女自身の出生と真実を。

この国に潜む、真に彼女が復讐すべき根源を。

そんな彼女の気持ちに応えるかのように、明かりが見えてきた。地下に明かりがあるはずがない。

ヴェルベットはナイフを構える。前方に、敵がいるかもしれない。そう考えたためだ。

ヴェルベットは警戒しながらも、明りの方向へと歩いていった。



光を抜けた先にあったのは、太陽の光が差し込む、洞窟であった。

どこからか流れてくる水が、神秘的な光を放っている。洞窟は神秘的な光を湛える鉱物に囲まれていた。

ヴェルベットはこのような場所を知らない。少なくとも、王都の中にこんな場所はない。

ここがどこかはわからないが、何かがある、そう確信していた。

ランプの明かりを消す。明りなしでも、洞窟の中は明るい。太陽の光を、鉱物が反射し、洞窟全体を照らしているからだ。

しばらく、その不思議な洞窟を歩いていると、ヴェルベットは足を止めた。

洞窟の中に、小さな木製の建物があった。その中へと、ヴェルベットは向かっていく。


小屋の中には、大きな机と椅子、そして生活用品だったであろうものがあった。

誰かが昔、ここに住んでいたのだろう。

机の上に置かれていたのは、一通の封筒。ヴェルベットはそれを見る。

それだけ、周りのものとは違い、真新しかった。

ヴェルベットはその封筒を見る。封筒の裏には文字が書かれていた。

ヴェルベットはそれを読み上げる。

「『いつかここを訪れるであろう、真実を求めし者に』」

封筒の裏には、ミアベルから譲り受けたナイフと同じ、バラの紋様が押されていた。ヴェルベットは、静かにその封筒を開ける。それが彼女の求める「真実」かはわからないが、彼女はそれを見ずにはいられなかった。

中にあったのは数枚の紙。それらは封筒ほど真新しくはない。文字も所々かすんでいた。

だが、ヴェルベットはそれのうち、少なくとも数枚はミアベルの筆跡だとわかった。

後の数枚の筆跡は、誰のものかはわからない。

ヴェルベットはとりあえず、ミアベルの遺したであろう手紙を読み始めた。

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