VENGEANCE IF STORYS 2
「おう、来たかお前ら」
シャッハ・グレイルは彼らが軍学校時代に在籍していたころと全く変わらず、相変わらず不良であった。とはいえ、仕事もできるし時と場所は心得ているため、免責されることはない。
「大変だな、女王陛下の狗も」
「なら、協力してくださいよ、大将」
ジャックが苦笑いしながら言う。シメオン、キース、ジャックと顔を眺めてシャッハは笑う。
「まったく、あの時の悪がきどもが優秀になりやがって」
昔を思い出すようにシャッハは言うと、真剣な目になる。酒で酔っていた、という態度から素面に戻る。
なんだかんだ言っても、彼は優秀な憲兵で軍人なのだ。
「相手は『VENGEANCE』と呼ばれる殺人鬼。男か女かは不明。最初の事件はある子爵邸での虐殺。現場には首のない数体の惨殺体とその名が残されていた」
シャッハは机から書類を取り出し、シメオンに投げた。一連の捜査資料であった。
どの事件でも目撃者、生存者はなし。手掛かりは皆無だ。
「さすがに相手がわからないんじゃあ、お手上げだ。ついでに、長年の平和ボケで憲兵も骨がない奴ばかりでな・・・・・・・・・・」
そう言うシャッハだが、彼も戦争を体験している世代ではない。王国内の野盗狩りくらいしか経験はしていない。
しかしながら、その腕は確かだ。数年前、まだ女王となる前の王女を狙った弓使いを一人で相手し、捕まえたのだから。
そのことをシャッハはあまり語ろうとはしなかったが。
「まあ、そんなこんなで、協力はしたいが、はっきり言ってやれることは少ないと思う」
そう言い、彼はかつての教え子を見る。
「まあ、これが解決したら、飲みに行くか」
キースはまだ仕事があると言い、二人を見送ると慌ただしく去っていった。
「あいつも大変だな」
「未来の憲兵隊長様だもんなぁ」
二人はそう言う。現在の憲兵隊長や、副隊長のシャッハからの信頼もあるキースは目下、最有力候補である。
思いつきで作られた補佐官などよりはよっぽどいい。
「さて、どうしますかね」
ジャックはそう言ってシメオンを見る。シメオンは渡された書類を見る。
「被害者に共通点はないか、ってさがしているんだろう?」
ジャックが問うと、シメオンは頷く。だが、その様子を見ると、共通点らしいものは見いだせないようだ。
「お手上げだな」
「・・・・・・・・・・・癪だが、あいつの手も借りよう」
そう言ったシメオンに、ジャックは苦い顔をする。
「彼女に?いやだなー」
「そうも言ってられん。こうしている間にも、女王は俺たちの仕事をためているのだから」
恐らく嬉々として。そのためなら、もう一人の女暴君に頭を下げるのも致し方ない。
「アルミラ嬢、か」
女王の学友にして、腐れ縁の一人。アルミラ・ブルクステンのいるであろう場所に二人は向かっていく。
アルミラ・ブルクステン。
王立アカデミーでの女王の学友にして最大のライバル。それが彼女だ。
公爵令嬢であり、様々な分野の知識を持ち合わせており、いつも女王と競っていた。
知のアルミラ、武のヴェルベット、と呼ばれ、王立アカデミー始まって初の女性主席次席となった。
ちなみに、ぎりぎりでアルミラは女王に敗けた。学力面では張り合えたのだが、馬術や武術などで点をおとしたらしい。いつぞや泣き言のように言っていたのを、二人は思い出す。
軍学校出身の二人には王立アカデミーでの二人の生活は知らないが、すさまじいものであったという。
そんなブルクステン公爵令嬢は、今やこの王都の酒場、娼館のほとんどを支配する裏社会のボスである。
女王による改革で一掃された裏社会を牛耳る者たちの変わり、として据えられたのだが、案の定、彼女は裏社会をうまく支配してしまった。
女王はそれを聞くとただ笑ったという。
シメオンとジャックは、彼女に協力を要請することとした。裏社会のボスに協力してもらえば、どうにかなると思いたかった。
アルミラの機嫌を損ねないように、と考えた彼は一人の人物を連れてきていた。
「悪いな、フィル」
物静かそうな男性にジャックが言うと、彼はほほ笑む。
「別にいいよ、今日は特に用事もなかったしね」
フィルは軍学校時代の友人だが好きで軍学校に来たわけではなく、歴史を学びたいから入ったのだという。本来ならアカデミーがよかったのだが、金銭面で断念し、安い軍学校に進んだ。
軍学校時代、彼とアルミラの間に何かあったらしく、アルミラは彼に猛アプローチをかけていた。
しかし、鈍感なフィルは気づかない。
彼女に協力してもらうには、彼は必要不可欠だった。
「それで、アルミラさんのところに何しに行くんだい?」
フィルはそう言い、シメオンを見る。寡黙な青年は何も言わずに歩き出す。ジャックは苦笑いをする。
フィルは特に気にせずに彼らの後に続く。
「よう、アルミラ」
シメオンとジャックはフィルを隠しながらそこに入っていく。そこはアルミラの屋敷。ただし、本来の彼女の家ではない。女王が親友のために作った、裏社会でのアルミラのための屋敷だ。
その奥深く、昏い部屋にアルミラは寝そべっている。扇情的な姿で寝そべる少女。だが、シメオンもジャックも、彼女に性的な欲求も衝動も憶えない。何故なら彼女は女ではなく化け物だ、というのが二人の見識であったからだ。
「実は協力してほしいことがあってな」
そう言い、シメオンは書類を出そうとする。
「ああ、出さないで、特例状でしょう?」
アルミラはそう言い、シメオンとジャックを見る。
「あなたたちも大変ね、ヴェルにこき使われて」
「なら協力しろ」
「厭よ、あんたたちで解決なさいな」
そう言い、少女は協力を拒む。少女は自身の益につながらない限り動かない。下手に脅すのは還って逆効果だということを二人は嫌というほど知っている。
「だから連れてきてやったぞ」
そう言い、シメオンが後ろにいたフィルをアルミラに見せつける。
その瞬間、アルミラの顔が沸騰し、先ほどまであらわにしていた肌をシーツで隠す。
意中の男を相手にすれば、さしものこの女でもこうなるのか、とシメオンは無表情の下で嗤った。
アルミラは口をパクパクさせている。シメオンは口元に笑みを浮かべて言った。
「さあ、どうする?」
その後、アルミラの下にフィルを残し、二人は下手人の捜索に専念する。
アルミラの集めた情報は多岐にわたった。それらは一見事件と何ら関係ないように思えたが、よく考えてみると、つじつまが合った。
夜街をさまよう黒衣の男の噂は、殺人鬼の犯行の前後に見られている。それが下手人の可能性が高い。
憲兵がこの情報を掴んでいないのは、スラムの貧民たちに口を割らせるだけの力がないからだ。
口の堅い彼らの口を割るのは簡単だ。金と食糧。それだけだ。憲兵は至極真っ当な連中ばかりだから、賄賂などは好まないものばかりで、よってそういう行為も好まない。
「で、そいつはいつも決まったルートを徘徊するらしい」
「それで徘徊しているのは、犯行の下見ってことなのかな?」
「だろうな」
シメオンは言って、ジャックを見る。
「人目につかない場所で獲物を探す。それが奴の手口なんだろうな」
最初の犯行以外はすべてスラム街や路地だ。
「ということは、最初の犯行には意味があった・・・・・・・・・・?」
ジャックはそう言い、最初の犯行のあった子爵の名を思い出す。
「確か、ジェファス子爵、だったね」
「ああ」
「それで、そのことについては?」
そう言い、アルミラの渡した情報の束を見るジャック。シメオンはそれを渡す。
「書いてはいないが、子爵子息が先月、婚約を解消している」
「へえ、相手は?」
「マリア・レーン。だが、子爵子息が彼女のことをどうやら飽かしてしまったらしく、な」
「ふぅん、じゃ、犯人は彼女かその親類?」
「それはないだろう。親類と言っても、父親は滅多に王都に帰れないし、彼女自身も虚弱体質で運動もろくにできん」
「じゃあ、どういうことさ」
「動機は不明、ってことさ」
シメオンが言うと、ジャックは肩を落とす。
「意味ないじゃん」
「まあいいさ。その黒衣の人物を捕まえれば済むんだからな」
そう言い、シメオンは腰の剣を引き抜く。
それはヴェストパーレ家に伝わる名剣『ラヴィ―ニア』。ヴェストパーレに嫁いできた王妹のために時の王バルバロッサが、餞別として作らせたらしい。以来、ヴェストパーレ当主に受け継がれる名剣だ。
それを見て、ジャックは笑う。彼の得物は剣ではない。剣や槍など、一通りは扱えるが、彼が得意とするのはナイフ投げ。
狙った獲物は百発百中、とさえ言われていた。シメオンに敗けるまでは。
それでも彼を負かせる者はそうそういない。よって、その実力の高さがよくわかる。
「!来たな」
わざわざ夜の街、それも冬が近くなり冷え込んでいるところを張り込んでいた甲斐があった、と二人は思う。
黒いフードの人物が歩いている。見るからに怪しいそれを、シメオンとジャックは見る。
ふと、そのマントの下に何かが見えた。それは剣であった。
フードの人物が見る先には、浮浪者が一人いた。
フードが浮浪者に向かっていく。
やるつもりだ、と思い、二人が駆けだす。
シメオンは剣を構え、ジャックが援護のナイフを投げる。
フードの人物はジャックのナイフを避ける。
「嘘ぉ!?」
その間にシメオンが近づき、剣を振る。だが、それはフードの人物の鞘で止められる。
「ちょ、ちょっと、シメオン、ジャック!私よ!」
「!この声・・・・・・・・・・」
「まさか」
シメオンとジャックは自身の得物を下ろす。フードの人物はゆっくりとそのフードを取る。
その下から長く美しい紅い髪が現れる。
その人物は彼らの上司にして、この国の若き女王陛下。
ヴェルベット・ラヴィアン2世だった。




