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VENGEANCE  作者: 七鏡
MYTHS OF VENGEANCE
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SCARLET AVENGER 2

男は自身の右手をさする。その右手にはあるべきはずの指が欠けていた。親指と人差し指。

それはこの王都の裏世界で生きていた男が初めて味わった屈辱であった。

それをもたらした相手の名は『VENGEANCE』。

復讐の女神は、彼の指と誇りを奪った。仲間の命を犠牲に何とか男は生き残った。

男は復讐者に復讐を誓った。彼の大事なビジネスをつぶし、彼の築き上げた地位を奪ったあの忌々しい女に。

男は『VENGEANCE』に怨みを抱く者たちを集め、彼女をおびき寄せようと計画していた。



ヴェルベットはいつものように闇を駆けていた。彼女はいつものような真紅のドレスには身を包まずに、黒い、まるで物語の暗殺者のような服装に身を包んでいた。

こうやっているのは『VENGEANCE』を狙うならず者たちの中に紛れるためだ。

顔まで漆黒の布で隠しており、体つきも女性とは見えないように工夫していた。

彼女の纏う異様な雰囲気だけで、ならず者たちはこの謎の人物も復讐者に怨みを抱いているのだ、と誤解していた。彼女としては好都合であった。

案内された先にいたのは、褐色の肌の大男だった。その顔は、いつか見たことがあった。

いつか人身売買の組織をつぶしたことがあった。その際に「泳がせた」男の一人であった。より多くの犯罪者を釣り上げるために撒いた餌。それは見事に役割を果たしてくれていた。

復讐者がまさか紛れ込み、そして笑っているなどとは思いもせずに、男の演説は続く。

ヴェルベットは動かない。今ここで動けば、逃げる者もいるだろう。確実に根絶やしにしなければならない。

ヴェルベットが見る限り、ここにいるのは札付きの悪ばかりだ。全員が殺人の嫌疑がかかっているようなものばかり。巧妙に逃げ隠れする者たちが、こうして出てきてくれたのだ。

少女は黒衣の下で道具を触る。今夜持ってきたものは、服も含めてすべて亡き師の遺したもの。

今夜は多くのものを相手にすることになる。ナイフと毒だけでは対応しきれない。

少女の内心など知らずに、男たちは隠すことなく復讐者への怨みを叫んでいた。



男は『VENGEANCE』が現れた、という報を聞くと、ならず者を引き連れて出て言った。

ヴェルベットもまた、闇にまぎれ男たちの後に続く。

彼らが見ている『VENGEANCE』はエリスの変装したもの。万が一のことも考えてファイロを護衛につけているし、彼女に接触する前にヴェルベットはならず者を殲滅する気であった。

男たちは罠にかけたと思っているであろうが、罠にかかったのは自分たちだとは思いもしないであろう。


坂に差し掛かり、男たちは走って降る。そんな中、先頭を行く男たちが数人倒れる。後ろに続いていた褐色の大男が慌てて止まり、倒れた男たちを見る。

「なんだ、こいつは」

男たちの足は足首から切断されていた。そしてよく見ると、暗闇の中に光る何かがあった。それはピアノ線であった。血に塗れたそれ。

「なんだこれは」

「おい」

男たちが蒼い顔をしていう。自分たちが罠にかかったのではないか、という不安が伝染する。

褐色の男はそんな仲間に大声で言った。

「これはあれの仕業じゃあねえ。ただの偶然だ。俺たちはあいつを殺す。殺されるわけがねえ!行くぞ」

そう言い、負傷した仲間を置いて男たちは走り出す。

ヴェルベットは男たちが去ると、負傷した男たちに止めを刺す。男たちは悲鳴すら上げる間もなく、少女に首の骨を折られ、息絶えた。

後ろで起こる惨劇など気にもかけずに男たちは走る。復讐に取りつかれ、走る男たちの後ろで復讐者は笑う。

「復讐するは我にあり、ってね」

そう言うと、ヴェルベットはまた駆けだす。

彼女の張った罠は、これからだ。



褐色の大男は呆然としていた。男以外に立っているのは、ほか数人。それ以外はすべて、罠によって負傷するか死んでいた。

復讐者の張った罠によって、ならず者は見事に倒れていった。

突如落ちてきた鉄板で首を飛ばされたものや、矢に貫かれて絶命したものなど、知っているはずの王都の暗黒街は死の世界に変わっていた。

ここは男たちの支配する街ではなく、『VENGEANCE』の支配する狩場なのだと、男たちはついに理解した。

だが、それは遅すぎた。逃げ出そうとしたものは、罠で死に、姿の見えない死神に殺されていた。

どこからか飛んでくるナイフ。それが逃げ出すものの命を確実に奪った。

見たこともない投擲武器が額に突き刺さる。男たちは必死に姿の見えない敵を探すが、一人また一人と命を落としていった。

漆黒の中で、男は立ち尽くす。ついに残るは彼一人となっていた。

呆気なく、仲間たちは死んだ。これもすべて、忌々しいあの女の生だ、と男は心の中で罵った。

男は叫んだ。

「姿を見せろ、『VENGEANCE』!!」

そんな男の言葉に姿を見せるわけがない、と思ったのだが、復讐者はその姿を現した。

ヴェルベットはいつの間に着替えたのか、いつものように真紅のドレスに身を包んでそこに立っていた。

冷徹な瞳が、男を射抜かんとする。男は左手の袖から何かを出す。

「へへ、おい、女。これを見たことはあるか?」

それは銀色の小さな物体。この国ではまだ知られていない異国の武器。鉄の弾を出し、火薬を使用する遠い異国の地で造られたもの。

その弾はボウガンの矢よりも強く、鉄さえも貫くという。

異国ではそれは『銃』と呼ばれていた。

「お前を殺すために、苦労して手に入れたんだ」

そして、男は女復讐者を睨む。

「疼いて仕方ねえ、おれの右手が」

欠けた指をヴェルベットに見せて男は言った。

「さあ、今日こそ殺してやるぜ!」

銃声が響く。弾が射出される。

ヴェルベットはその武器を知らなかった。とっさに、その身を反らす。彼女の顔に、知らぬ間に傷と痛みが襲いくる。ヴェルベットは避けたものの、それは偶然であった。

彼女は銃の恐ろしさを実感した。この武器は、恐らく自身を一発で殺すことができる、と。

少女は素早く、小さなナイフを数本袖から取り出すと、二発目を装填しようとする男に向けて放つ。

銃はいまだに改良の余地のある武器で一発しか装填されておらず、二発目以降は装填に時間がかかる。ましてや男には右手の指がなく、悪戦苦闘していた。

男としては一撃で仕留めるつもりだったが、復讐の女神は異常な運動能力でそれを回避してしまった。

焦る男の右腕に、ナイフが突き刺さる。痛みに悲鳴を上げる男に、ヴェルベットは肉薄する。

弾の装填が終わり、男は近づいてきた女の眉間に銃を当てて、引き金を引こうとした。

その瞬間、男の手首は宙を舞い、銃声が響く。

信じられない、といった顔で自身の左手を見る男。そこに手はなく、ただ血が噴き出ているだけであった。

「そんな武器で、この私を殺せると思って?」

そう言い、深紅の髪の少女は褐色のその首にナイフの刃を当てる。

男が命乞いをしようとした瞬間、ナイフの刃は男の首を斬り落とした。信じられない、という顔で男の首は地に落ちた。

近くに転がった銀色の銃を、ヴェルベットは見るとそれを持ち上げ、近くにあった溶鉱炉の中へと放り込む。

そして、血まみれの惨状に自身の名を書き残すと、優雅に去っていった。


こうして『VENGEANCE』の手によって、王都からまた一つ悪が潰えた。

復讐の女神の伝説がまた一つ加わった。

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