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VENGEANCE  作者: 七鏡
BLOOD OF VESTPHALE
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ラースの死体は翌朝、スラム街で発見された。死体の身元の特定は困難を極めた。『VENGEANCE』という血文字が死体のそばに描いてあった。

シャッハはそれを見てため息をつく。また派手にやったな、と。

憲兵隊の調査で何とか被害者の身元は割れた。そして、貴族のラースの死が公表された。

その際、異例の国王の声明があり、ラースが第二王子であったことが公表された。

これにより、王都では一週間の喪に服するように、という命令が発せられた。そうは言うものの、一般市民はあまりそれに従う傾向はなく、もっぱら貴族がその命令に従った。

もっとも、貴族であり、ラース殺害の犯人であるヴェルベットは喪に服すことなどない。

そんな彼女はキースの屋敷にいた。

キースは結局、弟の死体を運び出し、ヴェルベットの身の潔白の証明のためのアリバイ工作をした。

ヴェルベットをまだ逮捕させるわけにはいかなかった。王族殺しという重罪を犯した彼女はまだ、利用価値があった。

だがいずれは、とキースは考えていた。王都に巣食う膿をすべて出した時、『VENGEANCE』は必要なくなる。その時は。


キースはすべてを終えた後、ヴェルベットに尋ねた。なぜ、ラースを殺さなければならなかったか、と。

ヴェルベットはそれを聞いた瞬間、あの時の冷酷な瞳で彼を見て言った。

「あなたも知っているはずよね、ローゼリス領のことは」

「・・・・・・・ああ」

キースは真顔で答える。いつものような薄い笑いはその顔にはない。ヴェルベットを見る。

「ローゼリス領の領主および領民が死亡した事件だったな。それと君とラースがどう関係する?」

「私がそのローゼリス領の生き残りで、ラースがその事件の犯人だった、これなら納得でしょう?」

「!?」

キースは驚いた。あの事件の生存者はいない。それが彼の調べた結果だったはずだ。そしてなにより、彼女の言動は衝撃的だった。弟があの事件にかかわっていた、というのだから。

「私のかつての名はヴェルベット・ローゼルテシア。領主の娘よ」

「・・・・・・・・・」

キースは黙って彼女の顔を見る。ヴェルベットは冷酷な瞳でキースを見た。

「私は復讐を果たすために戻ってきたのよ。ヴェルベットという人間は死に、『VENGEANCE』が誕生した。そして私は復讐する。『VENGEANCE』を生み出させた八人の男たちと、その雇い主に」

ヴェルベットの壮絶なまでの憎しみと決意。それはキースにはあまりにも重すぎた。

沈黙するキースを見て、ヴェルベットは言う。

「キース、あなたは私を利用するつもりでしょうけど、出来るかしら?」

少女は妖艶に笑う。キースは気圧された。自身の方が遥かに上であると考えていた少女によって。

異様だ。この少女は人の手に負えるものではない。

「ふん、どうやら、あなたとの協力体制もここまでのようね」

ヴェルベットはキースの顔を見ると、そう言い屋敷を出ようとする。キースは彼女に向かって言う。

「私は君のしてきたことを知っているんだぞ!」

だから、従え、とでもいう風に言ったキースをヴェルベットは冷めた目で見た。

「キース、あなたも所詮、その程度、ということね」

そう言ってヴェルベットは去っていった。

キースは思い知る。あの女はどこまでも孤高な薔薇なのだ、と。手折られてもなお、咲き誇る深紅の薔薇。それがどうして自分に首を垂れるだろうか。

キースは無力に立ち尽くす。そんな彼とは対照的にヴェルベットは優雅に歩いていた。

「母上、私は・・・・・・・・・・・」

天に向かって呟いたキース。ヴェルベットは彼の方へはついに振り返らなかった。



館に戻ったヴェルベットを出迎えたのはエリスとリースであった。

リースは館の女性たちに可愛がられており、特にエリスの世話になっていることが多い。エリスは妹アルマとかかわることがなかった反動もあってか、この少女を殊更可愛がった。リースも館の女性陣に懐いており、エリスのことを最も信頼しているらしい。

ヴェルベットは笑って彼女たちを見た。

「ただいま、エリス、リース」

「お帰りなさい」

そう言ってヴェルベットを館の中へと迎え入れるエリスたち。

主であるヴェストパーレ家の女傑は自身の家へと入っていく。

「そう言えば、ヴェルベットさん」

エリスが懐から一通の手紙を取り出す。それをヴェルベットに手渡す。

「なにかしら?」

「ヴェルベットさん宛です」

その手紙を見るヴェルベット。丁寧な封筒に包まれている。事務的な手紙ではないらしい。ヴェルベットはいぶかしげに見ると、その場で手紙の封を開け、読み出す。

そして不可解、というべき感情を表情に表す。そしてエリスにその手紙を渡す。

エリスとリースが覗きこみ、手紙を読む。そして、何とも言えない表情を浮かべた。

それはヴェルベットに対するいわゆる愛の告白であったのだ。

ヴェルベットはため息をついた。貴族であるからには、こういうことは想定できたことだ。

目立つということは、こういうことなのだ。まして、ヴェルベットという可憐な花を手に入れようとする者はいるであろう。

ヴェルベットはその手紙の主の名を見る。

「・・・・・・・・どうするかしらね」

ヴェルベットは珍しく困惑していた。エリスは微妙な顔を浮かべてヴェルベットを見た。

「どうします?」

「はぁ、仕方ない。これも貴族の役目かしら。会うわ」

そう言い、ヴェルベットは自室へと向かう。

シメオンとの約束もあり、いずれは結婚をし、子供も産まなければならない。いずれは来ることなのだ。

ヴェルベットは復讐を終えるまではその気はないのだが、無視するわけにもいかない。

憂鬱な面持ちでヴェルベットは歩いていく。




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