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VENGEANCE  作者: 七鏡
BIRTH OF VENGEANCE
17/87

15

シャッハは夜、ヴェルベットのいる娼館の前にいた。

あの後、キース・ウェルナー伯爵を訪ねると、ヴェルベットが犯行時に伯爵邸にいたことを証明した。

しかし、シャッハはそれを信じていない。キース自体が得体の知れない人物であり、憲兵隊にも影響力を持つものである、ということはシャッハも知っている。キース・ウェルナーがヴェルベットの協力者ならば、口裏を合わせることもあるだろう。

シャッハは毎週、この時間帯の夜にはヴェルベットがキースとともに屋敷に行くことを掴んでいた。現に今、館の中からキースと赤毛の少女が出てきていた。彼らは外に止めてある馬車に乗ると、キースの屋敷へと向かっていく。

シャッハはそれを見ると、部下に命令して追跡をする。

「さあ、その尻尾を掴んでやるぞ、『VENGEANCE』」

シャッハは意気込んでいう。そして憲兵の一人を屋敷の前に残し去っていく。

今日で終わりにしてやる、という意気込みのシャッハを見て憲兵はため息をつく。連日の捜査でろくに眠っていないし、疲れで倒れそうであった。

そんな時、屋敷から誰かが出てくる。憲兵がそれを見ていると、その人影が憲兵に近づいてくる。

「もし、そこの方」

そんな憲兵に声をかけてきたのは、甘栗色の少女。そばかすだらけで目は髪に隠れている。服装は乞食のように汚れている。何故屋敷から出てきたのかを不審に思いながら、男は少女を見た。

「何か恵んでいただけませんか?今さっき、あちらで何か恵んでもらおうとは言っていたら、ばれてしまって・・・・・・・」

「俺は憲兵で仕事中だ、捕まりたくなければあっちにいけ」

苛立っていう憲兵。憲兵が手を払う。その憲兵の手が少女に当たり、少女は倒れる。

「あ、すまない」

憲兵がそう言い、少女を立たせる。その時、何かの香りがする。その瞬間、少女の顔が憲兵の前にあった。驚く憲兵に、強い眼光を向ける少女。そして少女は言った。

「あなたは何も見なかった。屋敷からは誰も出なかった。そうね?」

「俺は何も見ていない。誰も出ていない・・・・・・」

男が虚ろに繰り返すと、女は妖艶に笑った。

「そうよ、よくできました」

そう言うと、少女は歩き出す。憲兵は虚ろに館を見ていた。

「まったく、小細工も面倒なのに」

そう言って瓶を取り出す少女。

「貴重な薬をこんなことで使うなんてね。まあいいわ。シャッハさん、あなたは偽りの私を見張っていて頂戴。ほかでもないあなたが私のアリバイ作りに協力するのよ」

姿を変えたヴェルベットは笑いながら呟いた。

「さあ、復讐の時間よ」




シャッハは夜通し見張り続けていたが、部下も彼も屋敷から出る人影を見ていない。事件は起きなかったのか、そう思ったシャッハのもとに憲兵が駆けつける。

「シャッハさん!」

「どうした?」

「殺人です、『VENGEANCE』が・・・・・・・・!」

「何?」

シャッハは驚き屋敷を見る。ヴェルベットはここにいるというのに、なぜ、という思いがシャッハの中を走る。

「模倣犯か、それとも、俺の勘違いだとでも?」

シャッハは屋敷の前に行くと、その門をたたく。

「シャッハさん!?」

憲兵が驚きシャッハを止めようとする。

「あれは本当にヴェルベットだったか、あれは違う誰かなのではないか?確かめなければ・・・・・・・」

「しかし、相手は伯爵ですよ!違った時、あなたは職を・・・・・・・・・」

「黙れ!ウェルナー伯爵、ここを・・・・・・・・」

「あら、シャッハ様」

シャッハが門を叩いていると、そこから彼の目的の人物が現れる。ヴェルベット、その人が。

「何か、事件でも?それとも私を疑って見張りを?」

「・・・・・・・・・」

沈黙するシャッハ。そんなシャッハを目に、ヴェルベットと家主のキースが会話をする。

「それでは、キース様。また次の休日に」

「ああ、楽しみにしているよ、ヴェルベット」

キースが隣の侍女に目くばせをする。

「店まで馬車で送れせるよ、それでは」

「ごきげんよう、キース様」

少女は優雅に歩いて目の前に止められた馬車に乗る。乗る直前、少女はキースを振り返るとニコリと笑う。

「ごきげんよう、シャッハ様」

少女はそう言うと、馬車と共に去っていった。

シャッハはどうしようもない思いを抑え、殺人の知らせを持ってきた憲兵に状況の報告を命令した。



「見事ですね、ヴェルベットさん」

「あなたもね、エリス」

馬車の中で紅い髪の少女は、馬車の中にいたエリスと会話をする。

「どうやって屋敷の中へ?」

「ふふ、どうやってかしらね?」

「教えてくれてもいいじゃないですか」

膨れるエリスを見てヴェルベットが笑う。

「別に隠し扉よ」

「え?」

「あの屋敷には隠し扉と、そこから通ずる道があるのよ。さすが貴族様、といったところね」

ヴェルベットが言う。しかし、キースがなぜ、そのような屋敷に住んでいるのかわからない。

(やはり、キースは王族・・・・・・?)

王族ならばあのようなものがあっても驚きはしない。ただの貴族がなぜ、隠し扉など必要とするだろう?

「なら、私もその道を通って先に帰っていても・・・・・・・」

「あの道、結構複雑でね。ついでに罠とかもあるのよ」

ヴェルベットはそう言うと針を取り出す。

「毒矢とか針が仕込まれていてね、まったく用心深いにもほどがあるわ」

青い顔をするエリス。

「よく、無事に来れましたね・・・・・・」

「まあ、キースから聞いていたからね」

ヴェルベットはそう言うが、聞いていたとしてもエリスは途中で死んでいるであろう。そんな道であった。

「さて、と。これで残りは二人ね」

ヴェルベットは言う。

「キャシーさんを泣かせた、犯人たちですか?」

「ええ、そうよ」

「憲兵の人たちの疑い、晴れましたかね?」

「さあ、でもあのシャッハ・グレイルだけはたとえ一人でも私を追い続けるでしょうね」

ヴェルベットは朝日に照らされる街並みを見て言った。




シャッハはそれを見て、それが模倣犯の仕業ではなく、確実に『VENGEANCE』本人の犯行だと本能で分かった。

「死因、聞くかい?」

ロダン医師がシャッハに尋ねる。シャッハは死体を見ながら首を振る。

「大体わかる。止めは首を落とされて、か」

「だろうな」

首のない姿態を見て二人は言う。手足は椅子に縛られている。拷問の跡が悲惨である。切り落とされた首は絶望に顔を染めていた。その虚ろな目は壁に描かれた『VENGEANCE』の文字を見ていた。

「その顔だと、犯人と当てをつけてた人間は違ったようだな」

ロダンは若い憲兵の肩を叩いて言う。

「少し休んでみてはどうだ、シャッハ。疲れておるだろう、落ち着いてみれば、何かわかるかもしれんぞ」

「そうですね、ロダン医師」

シャッハはそう言うと、壁に描かれた血文字を睨む。

「そうですね・・・・・・」

(どうやって、あの娘は犯行を行ったのか)

シャッハはなおも少女への疑いを胸に抱きながら、現場を後にする。



キャシーは孤児院を出て街を歩いていた。さすがに食料を買わねばならないし、外の空気も吸いたかった。そんな彼女は質素な服装で街を歩いていた。人通りも多いここなら、安心できる。ここなら、一人ではない。

そんなキャシーの腕を誰かが掴み、口を押える。

「!!?」

叫ぼうとする少女の喉にナイフを当てる二人組の男。

「来てもらうぜ、神父様の娘さんよお」

「!!」

この二人が、神父様を殺した一味だ、とキャシーはわかった。二人はひどく怯えていた。

「お前がいれば、『VENGEANCE』も俺らに手を下せねえ・・・・・・・復讐の女神か、神父の亡霊かは知らんが、俺たちは死にはしねえ」

「あんたがいれば、奴も俺らを殺せないに違いない!」

二人組はそう言い、キャシーを暗がりに連れ込むと、その意識を刈り取る。

(助けて、神様・・・・・・・・)

キャシーの脳裏に、二人の親友の姿が映る。

(ヴェル、エリス・・・・・・・・)

キャシーの意識が途切れる。



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