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VENGEANCE  作者: 七鏡
BIRTH OF VENGEANCE
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8

ヴェルベットはキースの屋敷の寝台に横たわる少女の横に腰掛ける。亜麻色の髪を撫でる。キースから彼女の実家には話が行っているらしい。昨日まで親族が付き添っていたらしい。

彼女は愛されているのだな、と思うとふと笑みが零れた。

「ん」

少女が起きたようだ。ヴェルベットは彼女を見る。

「おはよう」

「あ、あなたは」

「ごめんなさいね、あなたにけがを負わせてしまったわ」

ヴェルベットの謝罪に、少女は首を振る。

「いえ、助けていただいて・・・・・・それにこんな治療も」

少女は恐縮する。

「あの、代金は」

「ああ、いいのよ。ここの家主が全額受け持つから」

少女はそう言う。その家主には代償としてさらに一か月の休日の自由を奪われたが。

「それと、あなたを襲った男だけど、死んだようよ」

「え」

少女は驚く。

「巷で言われている『VENGEANCE』が裁いた、っていう噂よ」

そして紅い髪の少女はほほ笑む。

「だから安心しなさい、あなたを襲うものはもういないわ」

「そうですか」

少女は少し安堵する。

「あの、すいません。あなたのお名前は?」

「ヴェルベットよ」

「ヴェルベットさん」

少女がその胸に顔をうずめる。

「怖かったわ、死ぬんじゃないかと」

事実、少女の傷は大きいもので、下手をすれば命にもかかわった。

「辛かったでしょうね」

ヴェルベットが髪を撫で、少女に囁きかける。


少女は泣きやむと、ヴェルベットを見る。

「そう言えば、私、名前言ってなかったですね」

そう言って少女はヴェルベットに礼をする。

「マリア・レーンです。ヴェルベットさん」

「マリア、いい名前ね」

貴族らしく優雅なマリア。笑って彼女を見るヴェルベット。

「あの、ヴェルベットさんは一体何の仕事をしているんですか?」

マリアが聞く。

「なんか、貴族らしいけど・・・・・・・」

「私は娼婦よ」

ヴェルベットが言うと、マリアは驚く。

「え」

「びっくりした?」

ヴェルベットが問うと、マリアは素直に頷く。

「まあ、いろいろ事情があってね」

そう言ってヴェルベットは口に人差し指を立て笑う。

「これ以上は内緒、よ」

「なんかかっこいいですね、大人の女性って感じがして」

マリアがそう言うと、ヴェルベットは笑う。

「私、まだ十六なんだけどね」

「え、私と二歳しか違わないんですか」

マリアはまたもや驚く。

そんな風にマリアはヴェルベットと語り合った。夕日が落ちるまで、ずっと。


「そろそろ、帰りましょうか」

ヴェルベットはそう言い、腰を上げる。

「あ、あの」

「何かしら」

マリアが声をかけると、ヴェルベットが振り返る。

「また、来てくれますか?」

マリアが恥ずかしそうに言う。

「私、同年代の女の子と話したことなくって。だから、今日はすごく楽しかったんです。だから・・・・・・」

「ふふ、可愛いわね、マリア」

そう言ってヴェルベットは同姓でさえも見惚れる笑みを浮かべた。

「私たち、もう友達よ。そうしょっちゅうは来れないけど、また来るわ。次に会うときには、もっと元気になっていることを願っているわ」

そう言ってヴェルベットは去っていく。その背を見て、マリアは呟いた。

「素敵だなあ」



キースに挨拶の一つでもしようと思ったが、彼の姿はなかった。仕方なくヴェルベットはこの屋敷の執事のロレンスに言葉をかけた。

「すみません、ロレンスさん。これで失礼します」

「ああ、ヴェルベット様」

初老の紳士がヴェルベットを見る。

「すみません、何度もお邪魔をして」

「いえ、ヴェルベット様は主人の大事なお客人ですから」

ロレンスが穏やかに笑って言った。

「それにあの娘も喜ぶでしょう」

「そう言っていただけると嬉しいわ」

「それでは、またお越しください。使用人ともども、いつでも歓迎いたします」

「ええ、ありがとう。ロレンス」

そう言って紅い髪の少女は屋敷を出て行った。


「キース様、ヴェルベット様はお帰りになりましたよ」

屋敷の隠し部屋で、ロレンスは主人に報告する。

「卿は休日ではないのにいきなり来るとはな。おかげで着替える暇もなかった」

キースが愚痴を言うと、ロレンスは笑う。

「優しい方ですからね、暇を惜しんで見舞いに来ていたのですよ」

「確かに、女性に対しては女神のような女だからな」

キースが言うと、ロレンスは笑う。

「あなたでも、落とせない女性はいるのですね」

「うるさいな、ロレンス」

「で、例のローゼリス領の事件について、何かお分かりに?」

「いいや、まったく」

キースが首を振る。

「ヴェストパーレが何を目的にあそこを領地にしたかわからないし、奴が関与したかも不明。まったく、親父も僕に面倒を・・・・・・・ついでに、僕とシメオンが反りあわないこと知ってるだろうに」

「我慢なさってください、キース様」

ロレンスが言う。

「次期国王なのですから、その経験を積むためだと思って」

「はあ、厄介な身分に生まれたよなあ」

そう言って第一王子はため息をつく。

「そう言えば、そろそろ国王陛下の生誕祭ですね。誰とパーティーに参加するのですか?」

「ああ、そう言えば、そうだな」

キースが忘れていたと呟く。

「飽くまで、一貴族のキースとして参加するつもりだからなあ、どうするか」

そうは言うが、相手はもう決めていたキースであった。そんな主人の顔を見て、だいたい理解するロレンス。

「確かに容姿は釣り合っていますが、周りがうるさくなりますよ、キース様」

「言わせておけばいい」

「ご本人が、承諾されますかね?」

「させるさ」

キースが自信を持って断言する。

「なにせ、彼女、僕には借りが多いからね。断ろうにもできないさ」

主人の言に呆れるロレンス。キースはそれをよそに、どう彼女に言ってやろうかと笑っていた。



ヴェルベットは驚き、間の抜けた顔をする。それを見てキースは物珍しげに思った。

「君のそんな顔をするんだね」

「・・・・・・・そりゃ驚くわよ。一緒に国王の生誕記念パーティーに出ろなんて言われれば」

ヴェルベットが非難のまなざしで見る。

「一介の娼婦を連れていく、普通?」

「僕は普通じゃないからね」

キースがいつもの調子で言う。

「普段、会えないような貴族も見れるよ」

次々と有名な貴族の名を連ねるキース。ある名で、ヴェルベットの瞳が細められた。

(ヴェストパーレ・・・・・・・!)

彼女の故郷の現領主。それを聞き、ヴェルベットの気持ちは変わる。

「いいわ、気が変わった。参加してあげるわ」

「そうか、それは助かった」

そう言うことはキースの想定内であった。

(あれから手掛かりはなにも掴めていない、けれど)

ヴェルベットはその両手に力を込める。目の前のキースには気づかれぬように。

(今度こそ、尻尾を掴んでやるわ)

憎しみの瞳を浮かべる少女を、キースは眺めていた。その顔はどこか楽しげであった。

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