表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラフォードライバー、夜の街で恋を知る「アラフォードライバー、もう一度恋を選ぶ」  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

第1話「静かな朝の続き」

朝の光が、やけに白く見えた。


カーテンの隙間から差し込むそれが、部屋の中を静かに切り取っている。


藤村要は、しばらくそのまま動かなかった。


目は覚めている。


でも、起き上がる理由がすぐに見つからない。


「……」


ゆっくり息を吐く。


頭の中は、不思議なくらい静かだった。


あの夜までのざわつきが、嘘みたいに引いている。


ようこの距離。


れいかの声。


なおみの温度。


全部、思い出せる。


なのに――


今は、身体の奥に沈んでいる。


(……こんなもんか)


小さく思う。


何かが終わったあとの朝は、もっと重いものだと思っていた。


でも実際は、拍子抜けするくらい普通だった。


ただ一つ違うのは――


“何も選ばないまま”の自分ではない、という感覚だけ。


要はゆっくりと身体を起こす。


シーツがわずかに擦れる。


その音が、やけに大きく感じる。


部屋は静かだ。


誰もいない。


当たり前のことなのに、少しだけ意識する。


(……一人か)


前と同じはずの言葉が、少しだけ違う意味を持つ。


立ち上がる。


足裏に冷たい床の感触。


その現実感が、やけにはっきりしている。


洗面所に向かう。


鏡の前に立つ。


自分の顔を見る。


少しだけ疲れている。


でも――


どこか、抜けたような顔をしていた。


「……」


蛇口をひねる。


水の音。


顔を洗う。


冷たさが、思ったより強い。


(ちゃんと、戻ってきて)


ふと、ようこの声が浮かぶ。


指先に残るような感覚まで、思い出せる。


触れていたときの距離。


あの近さ。


一瞬、呼吸が浅くなる。


「……」


顔を上げる。


水滴が落ちる。


鏡の中の自分は、さっきより少しだけ現実的だった。


(……行かへんのやな)


店のことを思う。


いつもなら、仕事帰りに寄っていた場所。


でも――


今日は、行かない。


そう決めている。


決めたはずだ。


タオルで顔を拭く。


その動きが、少しだけゆっくりになる。


頭の中に、別の声が浮かぶ。


「藤村さんは、話しやすいです」


れいかの声。


静かで、逃げ場を作らない言い方。


あの距離。


触れていないのに、近かった空気。


胸の奥に、じわっと残る。


(……)


スマホが震える。


現実に引き戻される。


画面を見る。


仕事の連絡。


短く返す。


それだけ。


また、静かになる。


「……行くか」


小さく呟く。


誰に聞かせるわけでもない。


ただ、動くための言葉。


服を着る。


いつもの作業着。


慣れた動き。


でも――


どこか丁寧になっている。


靴を履く。


玄関のドアを開ける。


朝の空気。


少し冷たい。


外に出る。


深く息を吸う。


胸の奥が、少しだけ広がる。


(……悪くないな)


ぽつりと思う。


何も始まっていない。


でも、何も終わっていない。


ただ――


自分で選んで立っている感覚だけがある。


それが、今までとは違っていた。


車に乗る。


エンジンをかける。


いつもの音。


いつもの振動。


でも――


今日は、寄り道をしない。


そのまま、まっすぐ走る。


朝の光の中へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ