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第4話「杯の底に映る戦」


レイナス王国王都ブレド――


ギルド本部併設の酒場は、夜になっても活気に満ちていた。


依頼帰りの冒険者たちが成果を語り合い、武勇伝と愚痴が入り混じる空間。その奥の席で、二人の男が向かい合っていた。


ホークスの同僚でランクXの男、レオンはジョッキを傾けながら言う。

「で? わざわざ呼び出したってことは、ただの昔話じゃないんだろ」


ホークスは静かに酒を飲み、少しだけ間を置いてから口を開いた。

「近々、アルクに一騎打ちを申し込む」


レオンの手が止まる。

「……は?」


「ギルドマスター直々の指令だ」

数秒の沈黙、レオンが口を開く。

「理由は?」


ホークスは視線を酒に落としたまま答える。

「ギルドの名声とランクXを世間にお披露目するための宣伝らしい」 


レオンが声を荒げる。

「はあ!?宣伝?あのアルク相手に?正気か!?」


ホークスは小さく息を吐いた。

「俺も正直、乗り気じゃない」


レオンが目を細める

「……珍しいな」


ホークスはゆっくりと言葉を選んだ。

「昔、魔界で共闘したことがあるだろ」

「ああ……あの戦争か」

「短い間だったが、背中を預けた」


酒を一口飲む。

「少なくとも俺は、あいつを戦友だと思ってる」


レオンは黙って聞いている。

「だからな」

ホークスは苦く笑った。

「見世物みたいな理由で刃を向けるのは、あまり気分がいいものじゃない」


レオンはしばらく考え、そして言う。

「……だが、受けるんだな」


ホークスは決心した顔で答える

「ああ」

迷いはあるが、決意もある。

「ギルドの決定だ。それに――」

一瞬、視線が鋭くなる。

「やるなら、本気でやる」


レオンはゆっくりと頷いた。

「なら、勝つ気で行くぞ」

自然と、戦術の話へ移る。


■ ホークスの分析

「まず一つ」

ホークスが指を立てる。

「近々、アルクの攻撃を受け止められる武器を調達する予定がある」


「へぇ」

レオンはホークスの分析を聞き相槌を打つ。


「だが、受けられても撃ち合いは無理だ」


「当然だな」

レオンは即答する。

「武器が壊れなくても、お前の身体が壊れる」


ホークスは頷く。

「二つ目。俺の攻撃魔法では決定打を与えられない」


「それは違う」

レオンの声が低くなる。

「決定打にするな。崩しに使え」


ホークスは視線を上げる。

「アルクは真正面からの殴り合いが好きだ。だが体勢は崩せる。ほんの一瞬でいい。その隙に刃を通せ」 


三つ目。

「身体能力では勝る所がない。危ない橋を渡る必要がある」


「勝る必要はない」

レオンはテーブルを指で叩く。

「差を“受け付けない立ち回り”を作れ。直線で戦うな。角度を作れ。死角を増やせ」


そして最後。

「勝負の重点は分身だ」

ホークスが告げると、レオンは強く頷いた。


「その通り。分身がこの一騎打ちの肝だ」

レオンは身を乗り出し、力説する。

「分身で崩しのパターンを増やせ。攻撃魔法を混ぜろ。決定打じゃない、“状況操作”だ」


「状況操作……」

ホークスはレオンの話を聞いて場面を想像する。


レオンは話を続ける。

「焦らせろ。楽しませ続けろ。アルクの思考を忙殺しろ。分身で攻めの彩りを加えるんだ」


ホークスはしばらく黙り込む。

そして静かに言った。

「……今の俺に足りないのは、魔法による崩しと戦法か」


「やっと気づいたか」

レオンは笑いながらホークスに言う。

「お前は強い。だが真正面から考えすぎる」


ホークスはジョッキを掲げた。

「助かった」


「改まるなよ、気持ち悪い」

少し照れながらも、レオンは杯を合わせる。

「兄弟みたいなもんだろ、俺たち」


ホークスは答えずに微笑み、静かに杯を鳴らした。

その夜、二人は魔界で共闘した戦争の話や、二人で潜った遺跡での死線を肴に、深夜まで飲み明かした。


そしてホークスは決める。

――明日、カトレアに相談しよう。

一騎討ちのためではなく、勝つために。

そして、かつて背中を預けた男に失礼のない戦いをするために。


――その頃――

神界側の境界線付近にて、空を震わせる咆哮。

神界に迷い込んだ大型の魔物が暴れている。


その前に立つのは、長い髪の魔女。

幾重にも重なる魔法陣が展開される。

加速。

巨大化。

威力。

複数の魔法陣を通過した魔力が一点へ収束する。

「――マナストライク」

光が奔る。

巨大な魔物は一瞬で粉砕され静寂が流れる。


任務終了、そこへ一羽の伝令鳥が舞い降りる。

「ぴい助?」

小さく鳴く鳥が、神界にホークスが帰ってきていることを伝える。


長い髪の魔女はわずかに眉をひそめた。

「……顔も出さないなんて」


小さな不満。

だがその瞳には、確かな安堵が浮かんでいる。

「無事なら、まあいいけど」


ギルドメンバーのランクX随一の天才魔法使いの魔女であるカトレアの髪を風が揺らす。

レイナス王国の王都へ、静かに視線を向ける。

物語は、静かに加速していく。


――第4話 終。


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