第39話――謁見前の静かな時間――
レイナス城の巨大な城門が、ホークスの前にそびえていた。
白い石で築かれた高い城壁。
停戦中だというのに、門前には既に多くの兵士が立ち、王都の守りを固めている。
ホークスはゆっくりと門へ歩み寄った。
「止まれ。ここはレイナス城だ。用件を——」
番兵の一人が言いかけて、ホークスが差し出した封書を見る。
王家の紋章。
番兵の表情が変わった。
「……失礼しました」
封書を確認すると、もう一人の兵士に目配せする。
「責任者を呼んでくる」
そう言って一人の兵士が城の中へ走っていった。
残った番兵は、しばらくホークスを見つめていたが、やがて少し緊張した様子で口を開いた。
「……あの」
「ん?」
「ホークス殿ですよね?戦場で見た者から聞きました。
獣王国の魔獣将アルクと一騎打ちをされたと」
ホークスは軽く肩をすくめる。
「大げさだな」
番兵は首を横に振った。
「いえ……あれで戦争の風向きが変わりました。きっとこのまま終戦になるはずです」
そして少しだけ頭を下げる。
「ありがとうございます」
ホークスは少し困ったように笑った。
「礼を言う相手を間違えてる」
「え?」
「戦争を終わらせたのは兵士達だ。俺は最後に少し暴れただけだよ」
番兵は一瞬きょとんとしたが、やがて苦笑した。
「それでも、あの戦いは皆の噂です」
「暇なんだな、兵士達は」
そんな雑談をしていると、城門の奥から足音が聞こえてきた。
先ほど走っていった番兵と、鎧姿の男が歩いてくる。
整った動き。
ただ者ではない。
男はホークスの前で足を止め、礼儀正しく一礼した。
「お待たせしました。私はレイナス王国騎士団長、レギンと申します」
ホークスは軽く手を上げる。
「ホークスだ」
レギンは頷く。
「話は聞いております。女王陛下がお待ちです。
どうぞ、こちらへ」
ホークスは城門をくぐり、レギンと共に城内へ入っていった。
それを見送る番兵二人。
一人がぽつりと言う。
「……なんというか」
「うん」
「すごい人だな」
「うん」
少し間を置いて、もう一人が言った。
「でも」
「でも?」
「ちょっと怖いな」
二人は顔を見合わせて苦笑した。
一方その頃。
王都のカフェ。
ウィンはテーブルに頬杖をつきながら、ミルクティーを飲んでいた。
目の前にはカトレア。
テーブルにはチョコクッキーが並んでいる。
「……むぅ」
ウィンが不機嫌そうにクッキーをかじる。
カトレアはくすっと笑った。
「どうしたの?」
「おじいちゃんがね」
「うん」
「ホークスお兄ちゃん宛てに大切な女性から手紙が届いたって言ってたの」
カトレアは一瞬だけ目を細める。
——ああ、ボイドね。
ギルドマスターが、女王からの手紙を
「大切な女性からの手紙」
とわざと誤魔化したのだろう。
カトレアは笑いをこらえながら言う。
「たぶんそれ、ただの仕事の手紙よ」
「え?」
「依頼主が女の人だったんじゃない?」
ウィンは目をぱちぱちさせる。
「……え?」
「ボイドさんのいたずらじゃないの?」
少し考えて、ウィンの顔が青くなった。
「わ、わたし……お兄ちゃんに嘘つきって言っちゃった……」
カトレアは優しく微笑む。
「ホークスはそんなの気にしないわよ」
ウィンは少し安心したように息を吐いた。
「でも……今度謝らないと」
カトレアはクッキーを一枚食べながら思う。
(ホークス……一つ貸しよ)
そして目の前の少女を見る。
(まあ、今日はこの子との時間を楽しもうかしら)
(お兄ちゃんか………カトレアお姉ちゃんって呼んでくれないかしら?)
カフェには、穏やかな午後の時間が流れていた。
第39話―終




