第32話――白銀の刃、決闘の刻を待つ――
ドレッドリーフ事件の後。
あの煎じ茶は――
まだ残っていた。
結論から言うと。
ホークスは合計四杯飲むことになった。
一杯目で舌が死に。
二杯目で味覚が絶望し。
三杯目で人生を見つめ直し。
四杯目で魂が苦味に支配された。
その代償は大きかった。
ホークスは数日間、
謎の苦味の幻覚と戦うことになる。
だが――
効果は絶大だった。
深かった傷は驚くほど早く塞がり、
数日後にはほとんど問題なく身体を動かせるようになっていた。
そして。
氷魔将ヴォルドとの手合わせの日程が決まった。
手合わせ当日の朝
「――うっ……!」
ホークスは飛び起きた。
額には冷や汗。
夢を見ていた。
ウィンが笑顔で言う。
『ホークスお兄ちゃん、まだあるよ!』
ドレッドリーフの煎じ茶が
延々と差し出され続ける悪夢。
「……夢か」
ホークスは顔を押さえる。
「二度と飲みたくねぇ……」
しばらくして大きく息を吐いた。
身体を動かす。肩を回す。腕を振る。
腰を落とす。
「……悪くない」
むしろ好調だった。
ドレッドリーフの効果か、
傷はほとんど気にならない。
ホークスは小さく呟く。
「……ありがとな、ウィン」
あの子は本気で自分を心配していた。
だから文句は言えない。
ホークスの目が少し鋭くなる。
「……だが」
ゆっくり拳を握る。
「ボイド……」
低い声で言った。
「この借りは――必ず返す」
固い決意だった。
ホークスは外へ出る。
日課の剣の稽古を軽くこなす。
黒鉄の大剣を振る。
ブンッ
ブンッ
空気を裂く音。
軽く体を温める程度。
今日は消耗したくない。
稽古を終え、朝食を取りながら考える。
氷魔将――ヴォルド。
以前感じた魔力を思い出す。
(あれは……)
ホークスは眉を寄せた。
(広がるタイプの魔力だ)
広範囲に展開する魔力。
氷属性。
おそらく領域型に近い戦い方になる。
(長期戦はまずいな)
魔力の広がり方からして
時間が経つほどヴォルドの有利になる可能性が高い。
「……短期決戦だな」
ホークスはそう結論づけた。
食事を終え、部屋に戻る。
装備の確認をする
刀と買い替えたロングソード、そして黒鉄の大剣
修理した魔獣の革の防具。
魔力の流れ、闘気の循環。
調子は中々いい。
その時。
ホークスはふと思い出す。
(そういや……)
以前ヴォルドがギルドに来た時。
闇魔将の勧誘に来ていた。
(つまり)
俺に闇魔将の資質があると見ているのか?
それはつまり。
「……闇魔法か」
ホークスは笑う。
闇魔法主体の戦術。
忍術と闇の攻撃魔法。
これらを軸に戦う。
「面白くなりそうだ」
ホークスはギルド本部に到着する。
受付に向かう。
受付嬢が顔を上げた。
「ギルドカードを」
ホークスはカードを見せる。
「氷魔将との手合わせで来た」
受付嬢は確認すると丁寧に頭を下げる。
「応接室へご案内いたします」
ホークスは歩き出す。
その時。
後ろから声が聞こえた。
「きゃー!」
「氷魔将様よ!」
「すごい……!」
黄色い声。
どうやらヴォルドは既に来ているらしい。
ホークスは少し苦笑する。
(人気者だな)
応接室の扉を開ける。
中には二人。
ボイド。
そして。
長身の男。
氷魔将――
ヴォルド・リムフロスト。
ボイドがニヤニヤ笑う。
「おう、ホークス」
そして。
わざとらしく大声で笑う。
「身体の調子は良くなったようだなぁ!」
ホークスのこめかみがピクッと動く。
「……おかげさまでな」
低い声で返す。
ヴォルドは首をかしげた。
「?」
不思議そうに聞く。
「何かあったのですか?」
ホークスは答える。
「ドレッドリーフの煎じ茶を飲んだ」
ウィンのことには触れない。
ヴォルドの目が少し見開かれる。
「……それは」
そして深く頭を下げた。
「身体を治すためとはいえ、そこまでして手合わせの日を早めてくださるとは」
真剣な声。
「本当にありがとうございます」
ホークスは少しバツが悪そうに言う。
「……いや」
ボイドが。
腹を抱えて笑う。
「ぶはははは!!」
ヴォルドがまた首をかしげる。
「?」
ホークスはボイドを睨みつける。
ヴォルドはボイドに聞く。
「何かあったのですか?」
ボイドは手を振る。
「いやいや、なんでもない」
ホークスは話を切る。
「さっさと本題に入ろう」
ヴォルドの目が少し輝く。
「……そうですね」
どうやら待ちきれないらしい。
「では」
ボイドが言う。
「奥の訓練所に行くぞ、そこなら暴れても大丈夫だ」
三人はギルド奥の訓練所へ向かう。
重い扉を開ける。
広い石造りの空間。
ボイドが扉を閉める。
さらに。
鍵をかけた。
カチャリ。
ホークスとヴォルドは中央へ歩く。
互いに距離を取り定位置につく。
ボイドは壁際に立つ。
腕を組む。
そして大声で言う。
「俺が審判だ!」
ニヤリと笑う。
「まぁ、いざって時は止めてやる」
そして。
楽しそうに叫ぶ。
「だから好きなだけやり合え!!」
ホークスは黒鉄の大剣を構える。
(闇魔法主体)
ランク3相当のの忍術カゲアソビ、カゲロウ。
闇魔法らしい忍術の分身。
未熟ながら使えはする闇の攻撃魔法。
頭の中で戦術を組む。
対するヴォルド。
宿した闘志とは裏腹に静かに長剣を構える。
そして言った。
「ホークス殿」
「改めて」
真っ直ぐな目。
「手合わせに応じてくださりありがとうございます」
ボイドが手を上げる。
「……よし」
ニヤリと笑う。
そして。
叫んだ。
「――始め!!」
掛け声と共にヴォルドの冷気の魔力が広がる。
ヴォルドの熱い闘気と冷たい魔力がこの先の戦いを予測不能にする。
闇と氷の衝突が今始まる
第32話―終




