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第30話外伝 『原初の獣、目覚める時』


エルダーリーフを出てから、しばらく。

ウィンは森の奥へと進んでいた。

木々は深く、昼だというのに薄暗い。

湿った土の匂いと、苔の香りが漂っている。


「……よし」

小さく呟いた。

できるだけ音を立てないように歩く。

足の運びは慎重に。

ホークスに後ろから忍び寄って抱きついた時の事を思い出す。

(足は静かに……)

(呼吸も静かに……)

(誰にもに見つからないように……)

ウィンは真剣な顔で森の中を進む。


そして。

ぎこちないながらも、魔力探知を使う。

目を閉じて集中する。

「……うーん……」

魔力感知はまだ得意ではない。

感じる魔力も、ぼんやりしている。

しばらくして。

「あ」

小さく声を出した。

微かだが、魔力の反応がある。

「たぶん……あっち」

ウィンはその方向へ歩き出す。


森の奥。湿った空気。

草木の間から、短い時間だけ差し込む陽の光。

そして――

「あ!」

思わず声が出そうになり、慌てて口を押さえる。

目の前にあった。

黒緑色の細長い葉。

特徴的なギザギザの形。

「ドレッドリーフ……!」

ホークスの怪我に効く薬草。

やっと見つけた。

しかし。

そのすぐ横で。

「ぐおおおお……」

巨大なモスベアが寝ていた。

ウィンは固まる。

(……くま)

しかも。

めちゃくちゃ大きい。

毛むくじゃらの巨体。

腕は丸太のように太く、爪は短剣のようだ。

それが。

完全に爆睡している。


「ぐおおお……」

地面がわずかに震えるほどのいびき。

ウィンはゆっくり息を吐く。

そして真剣な顔になる。

(静かに行けば……)

(きっと大丈夫……)

自分に言い聞かせる。

ゆっくり、ゆっくり。

音を立てないように近づく。

一歩。

また一歩。

モスベアは動かない。

「ぐおおお……」

ウィンはしゃがむ。

そっと。

ドレッドリーフの根元を掴む。

「……」

緊張で手が少し震える。

ゆっくり、ゆっくり。

引き抜く。

スポッ

「……!」

成功。

ウィンの目がキラキラ輝いた。

(やった!)

ホークスの怪我を治せる。

ウィンはそっと立ち上がる。

静かに、静かに。

その場を離れようとする。

その瞬間。


パキッ

小枝を踏んだ。

ウィンの動きが完全に止まる。

ゆっくり、ゆっくり。

モスベアを見る。

「……」

モスベアの耳が、ぴくっと動いた。

「……ぐお」

少しだけ顔を動かす。

ウィンは完全に石像になっていた。

(お願い……)

(お願い……)

(起きないで……)

モスベアは――

再び寝た。

「ぐおおお……」

ウィンは心の底から安堵する。

(よかったぁ……)

胸をなでおろす。

そして振り向いた。

その瞬間。


目の前にいた。

別のモスベア。

しかも。

距離、三メートル。

モスベアは首をかしげていた。

「……?」

ウィンと。

目が合う。

沈黙。

森が静まり返る。

数秒。

ウィンが叫んだ。

「きゃあああああああ!!」

全力ダッシュ。

モスベアは一瞬きょとんとした後。

「グオオオオ!!」

追いかけてきた。

さらに。

さっき寝ていたモスベアも起きる。

「グオォォ!!」

そしてもう一体も動き出す。

三体になった。


ウィンは泣きそうになりながら走る。

「なんで三匹ぃぃぃ!!」

森の中を全力疾走。

後ろから。

ドドドドドド!!

熊の足音。

地面が揺れる。

木の葉が揺れ落ちる。

ウィンは半泣きで詠唱する。

「ひ、火よ!矢となり――」

「ファイアアロー!」

……出ない。

「なんでぇぇ!!」

また走る。

「火よ矢になれ!」

「ファイアアロー!!」

……出ない。

「なんで出ないのぉぉぉ!!」

完全にパニックだった。

ウィンは必死に木に登る。

「よいしょ!よいしょ!」

木の上へ逃げる。

下を見る。

モスベア三体。

「グオオ」

「グルル」

そして。


普通に木を登り始めた。

「なんで登れるのぉぉぉ!!」

ウィンは泣きながら詠唱する。

「火よ矢となれ!」

「ファイアアロー!」

今度は成功。

小さな火の矢が飛ぶ。

ドン!

モスベアに当たる。

「グオ!」

少しだけ怯む。

しかし。

普通に登ってくる。

ウィンは泣き叫ぶ。

「効いてないじゃん!!」

半泣きで剣を抜く。

モスベアが手を伸ばす。

巨大な爪。

ウィンは――

「やだぁぁ!!」

全力で斬った。

ズバッ

モスベアの手が切れる。

「グオオ!!」

モスベアはバランスを崩し、落ちた。

ドスン!!


ウィンは泣きながら魔法を撃つ。

「ファイアアロー!」

「ファイアアロー!」

「ファイアアロー!!」

火の矢が連続で当たる。

別のモスベアが落ちる。

しばらくして。

モスベア達は諦めた。

「グオ……」

「グル……」

三体は森の奥へ帰っていく。

ウィンは木の上で座り込んだ。

ぽろぽろ涙が出る。

「こわかったぁ……」

しばらくして木から降りる。

そして。

森を見回す。

「……あれ?」

少し歩く。

また止まる。

「帰り道……どこ?」

沈黙。

森は広い。

似たような景色ばかり。

ウィンは青ざめた。

「……」

――その後。

ウィンがエルダーリーフに帰るまで、六時間かかった。


第30話外伝ー終


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