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第28話 「少女の剣と、待ちわびる氷魔将」


「どっからでもかかってこい」

ホークスは木剣を肩に担ぐように軽く構え、余裕の笑みを浮かべて言った。

その言葉に、ウィンの眉がぴくりと動く。

「……言ったな」

ウィンは木剣を握り直し、地面を蹴った。

一直線にホークスへと駆け出し、その勢いのまま木剣を振り下ろす。

だが――


カンッ!

乾いた音が響いた。

ホークスはほとんど動くこともなく、片手で軽く木剣を受け止めると、そのまま弾いた。

「っ!」

ウィンの身体がぐらりと揺れる。

弾かれた衝撃で体勢が崩れ、思わず数歩後退した。

ホークスはその場から一歩も動かない。

木剣を肩に乗せたまま、退いたウィンを見て軽く笑う。


「そんなもんか?」

その言葉は、明らかに煽りだった。

「……!」

ウィンの頬がかっと赤くなる。

体勢を立て直し、木剣を構え直す。

「まだ始まったばっかりでしょ!」

再び地面を蹴る。

今度は先ほどよりも速い。

ウィンはホークスの懐に飛び込み、連続で木剣を振るった。


上段、横薙ぎ、突き。

だが――

ヒュッ

ヒュッ

ヒュッ

ホークスは一歩も踏み込まず、身体をわずかに動かすだけでその全てを避けていく。

まるで風が通り過ぎるのを眺めているような余裕だった。

「なっ……!」

攻撃が当たらない。

それどころか、完全に見切られている。

ウィンの呼吸が荒くなる。

そして、ついに痺れを切らした。

「――闘技!」

ウィンの木剣に力が集中する。

「強撃!」

闘気を込めた一撃が、ホークスへ振り下ろされた。

今度こそ重い一撃。


だが――

カンッ!

ホークスはそれを正面から受け止めた。

「おっ、いい一撃だ」

軽く言いながら、木剣を弾く。

「っ!」

ウィンの体勢が完全に崩れる。

足がもつれ、後ろに倒れそうになる。


その瞬間――

ぐいっと腕が引かれた。

「おっと」

ホークスがウィンの手首を掴み、倒れる身体を支えていた。

ウィンは一瞬、何が起きたのか理解できず固まる。

目の前には、近すぎる距離のホークスの顔。

「大丈夫か?」

「……っ!?」

ウィンの顔が一瞬で赤くなる。

「だ、大丈夫!ありがと!」

慌てて手を離し、数歩離れる。


木剣を握り直しながらも、どこか落ち着かない様子だった。

ホークスはそんなウィンを見て、軽く肩をすくめる。

「怪我はしてないな」

「う、うん……」

少ししおらしくなった声でウィンが答える。

ホークスは木剣を地面に軽く立てながら言った

「さっきの、分かったか?」

「え?」

「お前の構え」

ホークスは足で地面を軽く叩いた。

「攻めるのか」

もう一度叩く。

「受けるのか」

さらに叩く。

「避けるのか」

そしてウィンを見る。

「全部、中途半端だ」

ウィンの肩がぴくりと動いた。

「構えが決まってないから、動きも半端になる」


ホークスは続ける。

「それに剣を振るときの立ち位置も悪い」

「立ち位置?」

「ああ」

ホークスは軽く足を動かして見せた。

「お前、剣を振るときに“どこに立ってるか”考えてないだろ」

ウィンは何も言えない。

「だから、どんな攻撃を出すのか決めないまま振ってる」

少し悔しそうに、ウィンが唇を噛む。

ホークスはそんな様子を見て、少し声を柔らかくした。


「まあ安心しろ」

「え?」

「剣が悪いわけじゃない」

そう言って、ウィンの持つ剣を見る。

シルバーの形見の剣。

「問題は足だ」

ホークスは自分の足元を指す。

「まずは剣を振るときの足運びを覚えろ」

「足運び……」

「そうだ」

「それ、教えて」

ウィンは真っ直ぐホークスを見る。

「お願い」

ホークスは少し笑う。

「最初からそのつもりだ」

そう言って、木剣を肩に担いだ。


「いいか、剣は腕で振るんじゃない」

一歩踏み出す。

「足と腰で振るんだ」

ウィンは真剣な顔で頷く。

その後、ホークスは剣を振るときの基本的な足運びを一つずつ教えていった。

踏み込み。

重心の移動。

後退の足。

体の軸。

ウィンは何度も足を動かしながら、それを繰り返す。

ぎこちないながらも、少しずつ形になっていく。

その様子を見ていたホークスが、ふと顔をしかめた。


「……っ」

腹の傷が、鈍く痛む。

それに気づいたウィンが、すぐに駆け寄った。

「ホークス!大丈夫!?」

「平気だ」

ホークスは軽く手を振る。

「大したことない」

「でも今……」

「気にするな」

そして顎で地面を指した。

「続けろ」

「……」

ウィンは少し心配そうな顔をしながらも、再び足運びの練習を始めた。

踏み込み。

引き足。

踏み込み。

引き足。

その様子を見ながら、ウィンはふと思う。

(あとで……ホークスの傷に効く薬草、探してみようかな……)

そんなことを考えながらも、足は止めない。

ホークスとウィンの剣術指南は、お昼まで続いた。


一方その頃――

レイナス王国、氷魔将自治領。

王都から遠く離れたその領地は、常に冷たい空気が漂っている。

深い森の奥には、人の気配よりも魔物の気配の方が濃い。

その森の中心。

白い息を吐きながら、一人の男が静かに立っていた。


氷魔将――ヴォルド・リムフロスト。

長い外套を揺らしながら、彼は静かに長剣を構える。

その周囲を取り囲んでいるのは、十数体の魔物。

バンディットベア。

通常の熊の倍はある巨体。

盗賊のように群れで行動し、人間の集落さえ襲う凶暴な魔物だ。


低い唸り声が森に響く。

グルルルルル……

一体が地面を踏み鳴らした瞬間――

群れが一斉に襲いかかった。

巨体が地面を震わせる。

だが。

ヴォルドの表情は変わらない。

「……遅い」

呟きと同時に、身体が揺れた。

次の瞬間。

一頭目のバンディットベアの爪が振り下ろされる。

だが、その爪は空を切った。

ヴォルドは既に横へ滑るように移動していた。

そのまま。

一閃。

銀の軌跡が走る。

ズバァッ!!


熊の胴体が深く裂け、巨体が崩れ落ちる。

だが、休む暇はない。

二頭目、三頭目が左右から牙を剥いて飛びかかる。

ヴォルドは軽く息を吐く。

「数だけは多いな」

その瞬間。

彼の周囲の空気が――

凍り付いた。

パキ……パキパキ……

空中に霜が広がる。

そして。

ヴォルドは空を軽く払うように手を振った。

「――氷刃」

瞬間。

空中に魔力が凝縮する。

氷が形を成し、

二本の巨大な氷の大剣が生まれた。

透明な刃。

青白く輝く氷の剣。

それは宙に浮かび――

次の瞬間。

勝手に動き出した。


ドォンッ!!

氷剣が高速で飛び、熊の胴を叩き斬る。

ガァァァッ!!

もう一本の氷剣が回転しながら飛び、背後の熊の首を斬り落とす。

バンディットベア達は混乱した。

魔物の本能が叫ぶ。

危険だ。

だが、遅い。

氷剣はまるで意思を持つように森の中を舞う。

斬る。

貫く。

裂く。

ズンッ!!


最後の一頭が倒れ、森は静寂に包まれた。

氷剣はゆっくりと空中で停止し、

パリン……

静かに砕けて消えた。

ヴォルドは剣を鞘に戻す。

周囲には巨大な熊の死体が転がっている。

だが彼の顔には、戦いの余韻すらない。

「……つまらない」

ぽつりと呟く。

これ程度では、鍛錬にもならない。


彼は森の奥を振り返りながら歩き出した。

その脳裏に浮かぶのは――

一人の男。

ホークス。

父を討った男、薙ぎ払う槍のアルク。

先代氷魔将であり歴代最強の氷魔将と言われた父。

その仇を討ったのが、ホークスだった。

だが。

ヴォルドの胸にあるのは憎しみではない。

むしろ、静かな期待だった。

「父を越えた男、か」

口元が僅かに歪む。

「楽しみだ」

雪のように冷たい声。

森の奥を歩きながら、彼は静かに呟く。

「どれほどの剣なのか……」

白い息が空に消える。

「――ホークス」

その名を呼ぶ声には、

僅かな高揚が混じっていた。


第28話―終


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