表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/47

第25話――形見の剣と氷の来訪者――


ギルド本部の重厚な扉が開く。

夕方のクエスト帰りの喧騒。

冒険者たちの笑い声、金属のぶつかる音。

酒の匂い。

ウィンは一歩先を歩き、くるりと振り返る

「ねえ」

少し誇らしげな顔。

「私、Cランクになったんだよ」

胸を張る。

ホークスは一瞬目を見開き、そして笑った。

「……そうか」

短いが、ちゃんと嬉しそうな声。

「やるじゃねえか」

軽く頭をぽん、と叩く。

「ちゃんと前に進んでるな」

ウィンの顔が一気に明るくなる。

「でしょ?」

鼻が少し高くなる。

「もうDランクとは違うからね!立派なギルドメンバーだよ!」

「ああ、立派な一人前だ」

ホークスは真面目に言った。

それが何より嬉しい。

ウィンは少しだけ視線を落とす。

ウィンの腰に下げた剣へ。


銀の装飾。

使い込まれた柄。

シルバーの形見の遺物の剣。

「……少しは、うまく使えるようになったかな?」

声が、ほんの少しだけ柔らぐ。

ホークスも視線を落とす。

あの日の背中が、脳裏をよぎる。

「見せてみろ」

ウィンが鞘のまま剣を構える。

重心がまだ安定していない、荒削りだ。

だが、握りに迷いはない。


「……悪くない」

ホークスは小さく頷く。

「近々、ちゃんと剣術を見てやる」

そう言って、自然に頭を撫でる。

ウィンの目が丸くなる。

「ほんと!?」

「ああ。容赦はしないぞ」

「望むところ!」

可愛らしい満面の笑み。

そのままぴょんと離れ、クエストボードへ向かう。

「クエスト受けてくる! また今度ね!」

軽やかな足取り。

ホークスはその背中を少しだけ長く見つめた。

(強くなれ)

心の中でだけ、呟く。

――ウィンはまだ知らない。

自分の祖父がこのギルドのギルドマスターであることを。

ウィンにとってボイドは、ただのギルド職員。

それでいい。

今はまだ。


ホークスは受付へ向かった。

ギルドカードを机に置く。

職員は一瞬だけ目を見開き、すぐに姿勢を正した。

深く一礼する。

「お待ちしておりました、応接室にどうぞ」

奥の扉が静かに開く。

喧騒が遠ざかる。

酒の匂い、笑い声、金属音。

それらが扉一枚で、まるで別世界のように遮断される。

静かな廊下には足音だけが響く。

ホークスは迷いなく奥へ進む。

重厚な扉の前で止まり、軽くノック。


「入れ」

聞き慣れた低い声。

ホークスは扉を押し開けた。

――その瞬間。

空気が変わる。

冷たい。

肌を刺すような静寂。

部屋の中央。

ボイドの向かいに、一人の男が座っていた。

長身。

蒼白に近い銀髪。

冷気のように広がる魔力、闘気。

氷のように澄んだ瞳。

その視線が、静かにホークスへ向く。

鋭い。

だが、威圧ではない。

研ぎ澄まされた刃のような気配。


ボイドが低く言う。

「お前に客だ」

男が音もなくゆっくり立ち上がる。

冷たい空気が、静かに広がる。

「初めまして」

声は落ち着いている。

品のある敬語。

しかしその奥には、戦場を知る武人の重みがある。

「氷魔将、ヴォルド―リムフロストと申します」

ホークスは軽く顎を上げるが、視線を外さない。

「……どうも」

短い返答。

二人の間に、静かな緊張が生まれる。


ヴォルドの視線が、わずかに動く。

肩、腕。

足運び。

呼吸。

ほんの一瞬だけ、視線が止まる。

「……なるほど」

小さく呟く。

ホークスが眉を僅かに動かす。

ヴォルドは静かに微笑んだ。

「どうやら本日は万全ではないご様子ですね」

空気が、少しだけ変わる。

ホークスは何も言わない。

だが、否定もしない。

ヴォルドは穏やかに続ける。

「腕の筋肉の張り方」

「足の運び」

「それに、無意識に庇っている呼吸の癖」

ホークスの口元が僅かに上がる。

「……よく見てるな」

ヴォルドは静かに頷く。

「武人として当然の観察です」

ボイドが腕を組んだまま言う。


「結局要件はなんだ?」

ヴォルドはホークスへ向き直る。

「本日はご挨拶と、ひとつの提案に参りました」

「提案?」

「ええ」

ヴォルドの瞳が、少しだけ鋭くなる。

「闇魔将への勧誘です」

一瞬、沈黙が落ちる。


ホークスの眉が動く。

ボイドは黙ったまま。

ヴォルドは続ける。

「もっとも、魔将という立場は、軽々しく勧めるものではありません」

一歩だけ近づく。

「適性があるかどうか、六魔将の一員として、確かめさせていただきたい」

ホークスの口元が、わずかに上がる。

「……というと?」

ヴォルドは穏やかな口調のまま言った。

「いずれ、手合わせをお願いしたい」

静かな声。

だが、その奥に確かな闘志がある。


「万全の状態で、互いに全力を尽くせる時に」

ホークスはゆっくり息を吐く。

「……なるほど」

腰の刀の柄を軽く叩く。

「逃げる気はねえ」

ヴォルドは満足そうに頷いた。

「その言葉が聞ければ十分です」

ボイドが鼻で笑う。

「新しい氷魔将様は物好きだな」

ヴォルドは肩をすくめた。

「強者を見ると、試したくなるのは武人の性でしょう、それに」

そしてホークスを見る。

氷の瞳が静かに光る。

「先代氷魔将の敵であるアルクを討ち取った、それだけでも腕が疼きます」

ホークスを見る表情に戦士の顔が見え隠れする。

「改めて、その時を楽しみにしております」

ホークスも視線を返す。

「俺もだ」

短い言葉。

だが、空気は充分だった。

二つの武人の約束が、静かに交わされた。


第25話―終


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ