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第21話「火酒と焚き火」


大きな焚き火が、夜の戦場を赤く照らしている。

火の粉が舞い、焦げた土の匂いと酒の匂いが混ざる。

バルハに肩を叩かれ、ホークスは焚き火の前に立つ。

誰も武器は向けていない。

だが視線は重い。 


ホークスは持ってきた大瓶のコルクを抜く。

乾いた音。

一瞬、全員の視線が瓶に集まる。

ホークスは静かに、焚き火へ少しだけ火酒をかけた。

火が一瞬、強く揺らぐ。

バルハも無言で自分の火酒を焚き火へかける。

「……兄貴との一騎討ち、経緯を聞かせろ」

低い声だった。


ホークスは頷き、火酒をもう一度少し注ぐ。

「ギルドの方針だった」

「この戦争で最も武勲を挙げているアルクを討ち取ることで、戦争の早期終結とギルドの名声を上げるためだと」

火が唸る。

バルハの顔が僅かに険しくなる。

だが何も言わない。

ホークスは続ける。

「俺自身も、あいつを超えたかった」

「アルクの戦い方は、戦士の理想のそれだったからな」

「あまり乗り気じゃ無かったが、戦う理由としては充分だった」

「まぁ、確かに兄貴の戦い方は理想だったな」

「俺の戦い方は、兄貴を超える為にできた戦い方でな」

「……結局、最後まで届かなかったけどな」

「……やっぱ獣王国でも一番の使い手だったんだな」

「バルハ、あんたも相当強いだろ?見ればわかる」

「兄貴を倒したお前に言われるのも、ちょっと複雑だな」

2人の間に交わされる強き戦士としてのやり取りを、周りの獣人達は静かに、そして耳を澄ませて聞き入る。

「……魔界で共闘した時、あいつは――」

火酒をかける。

炎が高く立つ。

魔界での共闘。

並んで戦った時間。

背中を預けた瞬間。

その全てを思い出しながら。

「そもそも兄貴は何で魔界にいたんだ?」

バルハが問う。

ホークスは少し口元を緩める。

「お忍びで遊びに来てたらしい」

「気づけば戦争に混ざってた」

バルハが、ふっと笑う。

「兄貴らしいな」

バルハは火酒を焚き火へ。

リオルも続く。

「兄上は度々魔界へ行っては、あちこちで戦っていたと聞いています」

「面白い戦い方をする人間がいると話していました。……もしかして」

ホークスが小さく頷く。

「多分、俺の事だ」

火がまた揺らぐ。

「敵地のど真ん中に突っ込んで行くから、ついて行っちまって」

「気づけば、敵地の要塞のど真ん中だった」

「周り全部敵でよ」

「アルクは笑いながら尚も突っ込んでいくし、俺も必死で戦った」

「少し後悔しながらも必死で戦ってたら要塞1つ2人で落としてたんだ」

「その後ニッコニコで手合わせをしたい、って言われたよ」

リオルが静かに笑う。

「兄上らしいです」

リオルが火酒をかける。

「兄貴の馬鹿に付き合える人間がいるなんて思わなかったぜ」

バルハも少し笑いながらかける。

ホークスは続ける。

「その後に2人で街の酒場に行って、酒を飲みながら兄弟の話をしてな」

「弟の一人が、近い将来自分より強くなりそうで楽しみだ、と嬉しそうに話しててな」

ホークスが火酒を焚き火にかける。

バルハの笑みが、少しだけ寂しさを帯びる。

焚き火を見つめながら、ぽつりと呟く。

「……生きてるうちに超えたかったな」

リオルは少し俯く。

その表情を見たホークスは続ける。

「その後にアルクが言っていたんだ」

「自分や次男には出来ない、もっと規模のでかいことを成し遂げられる弟がいると」

「少し照れながら、尊敬していると話していた」

ホークスは火酒をかける。

「……まさか?」

リオルが信じられない顔をして驚く。

「お前しかいないだろ?」

バルハはリオルに言う。

「俺や兄貴みたいに、馬鹿みたいに武器ぶん回すよりも」

「きっちり作戦考えて、飯の計算してよぉ」

「みんなが全力で戦えるようにしてくれてるお前は、この軍で一番の功労者なんだぜ」

バルハの素直な評価に、リオルの頬に涙が伝う。

「……ありがとうございます」

泣きながらもリオルは火酒をかける。

バルハがリオルの肩を叩く。

「俺らには出来ねぇ大仕事やってんだ」

「もっと胸張れ!」

バルハは豪快に焚き火へ火酒をかける。

リオルが少し痛がりながら頷く。


「一騎討ちの中で、アルクの横っ腹に魔法を叩き込んだんだ」

「お前魔法も使えるのか?本当に多才だな」

「隙を作るための急ごしらえだけどな」

ホークスは続ける。

「それで隙ができたと思ったら」

ホークスは腹の傷を見せる。

「すぐ反撃で闘技、斬撃を食らった」

バルハが目を見開く。

「兄貴が攻撃闘技を使っただと……!」

「とっさに防御して、回避までしたのに」

「お気に入りの槍ごと斬られて」

「避けきれなかった」

ホークスはその場面を思い出すように、少し多めに火酒を注ぐ。

「あんな鋭い斬撃は初めてだった」

炎が大きく揺れる。

バルハは焚き火を見つめながら呟く。

「……本気だったんだな」

バルハも火酒をかける。


「傷を負いながら、命を落とす覚悟で突っ込んだ」

「どうにか間合いに入り込んで刀で一撃」

「またどうにか横っ腹に魔法をたたき込んで隙を作って」

「あいつの片腕を斬り落とした」

「あの傷、片腕が斬れていた経緯は、そういう事だったんですね」

リオルは静かに納得する。

「……」

バルハは息を呑んで事の顛末を聞き入る

「だが、腕を斬り落とされた程度で、アルクは止まらなかった」

「構わず蹴られて、斬り落とした腕が持っていた槍を拾い上げて俺の追撃に備えた」

「俺は最後に全ての闘気を振り絞って闘技を放った」

「アルクも、最後に、獣王斬って闘技を放った」

「……兄貴が、そこまで本気だったのか」

バルハは驚いた様子で言い、リオルも信じられない顔で呟く。

「獣王斬は……オルクスの奥義です」

「あれを放ったということは……」

リオルは驚き、ホークスは答える。

「もし、万全の状態で撃たれてたら」

「もう少し削るのが足りなかったら」

「……討ち取られてたのは俺だった」

「あんな凄まじい闘技、撃ち合ったのは初めてだった」

「だが……俺の闘技がアルクの槍ごと叩き斬った」

「……それで一騎討ちは終わった」

ホークスの声が少し震える。

「……最後に遺言を聞いた」

ホークスの喉が、少し詰まる。

「そしたら、あいつは――」

言葉が、一瞬止まる。

焚き火の音だけが響く。

そして。

「――兄弟達に、元気でな」

ぽたり、と。

ホークスの頬を涙が伝った。

焚き火に残りの火酒を全て注ぐ。

一瓶が空になる。

静寂。

炎の爆ぜる音だけが響く。

バルハの肩が震える。

リオルの目から涙が溢れる。

バルハは涙を流しながら言う。

「……兄貴の最期の相手があんたで良かった」

「オルクス獣王国の男として、魔獣将として、そして戦士として」

「最後まで、敬意を示してくれて、ありがとうな」

残りの火酒を全て焚き火へ。

リオルも涙を拭いながら言う。

「兄上の言葉を……ありがとうございます」

火酒を全て焚き火へ。

炎が一際高く舞い上がる。

しばし、静寂。


バルハが鼻をすすり、拳で涙を拭く。

「……ここからは湿っぽいのは無しだ!」

振り返り、獣人達へ怒鳴る。

「泣いてるんじゃねぇ!兄貴はそんなの望まねぇよ!」

新しい火酒のコルクを抜き、豪快に飲む。

そのまま踊り出す。

リオルも涙声のまま言う。

「私も踊りますよ」

ぎこちない足取りで火の周りへ。

ホークスは深く息を吸い、新しい瓶を開ける。

一口飲み、焚き火へ少しかける。

「……俺の分も分けてやるよ」

空を見上げ、さらに飲む。

苦手な火酒の味は、いつもより心地良い味に感じた。

焚き火は夜を焦がし続ける。

泣き声と笑い声と酒の匂いが混ざる。

大きな炎の周りで、獣人達の宴は朝まで続いた。


第21話―終


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