第20話――獣王国の衝撃――
オルクス獣王国の会議室。
各司令官たちが次々と立ち上がり、勇ましく戦線の報告を上げていく。
「北部戦線、押し返しました!」 「東の砦、奪還成功!」
鬣を揺らし、牙を見せ、拳を打ち鳴らす。
戦況は優勢。 会議室の空気は熱を帯びていく。
そして最後に立ち上がったのは、副獣将バルハ。
「南部戦線は俺が押し潰した!敵将は逃げ帰ったぜ!」
豪快に笑い、拳で胸を叩く。
「次は兄貴とどっちが武勲を上げるか勝負だな!」
会議室は爆笑に包まれる。 士気は最高潮に達していた。
――その時。
扉が勢いよく開く。
「し、失礼します!!」
息を切らした伝令が飛び込んできた。
「なんだ、そんなに焦ってどうした?」 司令官の一人が笑いながら聞く。
別の司令官が茶化す。 「まさかアルクのダンナがやられちまったか?」
「はっ、アルクを倒せる奴なんざ、魔界の底をひっくり返しても出てこねぇよ!」
獣王国特有の荒っぽい言い回しが飛び交い、再び大笑いが起こる。
バルハも笑いながら言う。
「兄貴を倒せるのは将来の俺だけだぜ!!」
――伝令の顔が、強張ったままだと気づく者はいなかった。
「……魔獣将アルクが、戦場にて戦死しました」
笑い声が、止まる。
一瞬で。
静寂。
バルハがゆっくりと伝令へ歩み寄る。
「……冗談ならぶっ飛ばすぞ」
胸ぐらを掴み、持ち上げる。
「もう一回言ってみろ!!」
伝令は苦しげに喉を鳴らしながら告げる。
「い、一騎討ちにて……討ち取られました……!」
バルハの腕に力がこもる。
「誰だ!!誰が兄貴を殺した!!」
その腕を、リオルが掴む。
「兄上……そのままでは話せません。離してあげてください」
静かな声だった。
バルハは舌打ちし、伝令を放す。
リオルがそっと伝令に近づく。
「大丈夫ですか。落ち着いて、詳しく」
伝令は深く息を吸い、会議室中に聞こえるように告げる。
「アルク様は戦場にて一騎討ちを受け入れました」 「相手は……ランクXを名乗る男」 「名は、ホークス」
ざわめき。
怒り、驚愕、信じられぬという声。
バルハは歯を食いしばる。 だが先ほどまでの激情とは違う。
「……一騎討ち、だと?」
怒りが、少しだけ形を変える。
リオルは悲しみを滲ませながら呟く。
「一騎討ちに応じるとは……兄上らしい……」
国王が立ち上がる。
「即座に戦争終結の準備を進めよ!」 「境界線の防衛を強化せよ!」 「レイナス王国国境の警戒も上げろ!」
会議室は一気に慌ただしくなる。
その中で、バルハは静かに言った。
「……兄貴の弔いをやる」 「戦場でだ。今すぐ準備だ」
リオルは涙を拭いながら頷く。
「私も参ります」
その頃。
ギルドの宿屋。
ホークスが目を覚ます。
腹の傷を確認する。 まだ完全には塞がっていない。
「……外出はできるが……戦闘は避けるか」
外に出ると、すでに昼を過ぎていた。
ホークスはアルコールの強い良質な火酒を大瓶で二本購入する。
門を出ようとすると、門番が声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
門番達は、ホークスのただならぬ雰囲気と、どこか悲しげな空気に気づきながらも見送った。
ホークスは召喚術でフェンリルを呼ぶ。
「昨日は助かった。頼む、あの戦場へ」
フェンリルは静かに頷き、疾走する。
戦場跡。
大きな焚き火が燃えている。
獣人達が泣きながら笑い、酒をかけている。
ホークスが近づく。
「……」
獣人達が一斉に武器を構える。
「誰だお前は!?」
「こっちは大事な弔い中だぞ!!」
「こいつ…もしかして!?」
そこへ、バルハとリオルが現れる。
「何があった?」
「……その男がホークスです」
空気が張り詰める。
バルハは今にも飛びかかりそうな様子で睨む。
「何しに来た?」
リオルは心配そうにホークスを見る。
ホークスは火酒の入った大瓶を2瓶見せて話す。
「アルクに頼まれていた」 「アルコールの強い火酒で弔ってくれと」
周囲はざわめき。
「でたらめ言うんじゃねぇぞ!!」
バルハが怒鳴る。
リオルが静かに問う。
「……なぜ兄上が強い火酒を好むと知っているのですか?」
ホークスは語る。
魔界での共闘。 獣人の弔いの儀式。 そして――
「もし俺が死んだら、喉が焼けるような火酒を大瓶一つ丸々焚き火にかけてくれ。飲みかけは嫌だぞ」
リオルの目が揺れる。
バルハも思い出す。
「……あの野郎、俺にも何度も言ってやがった」
バルハは静かに問う。
「約束の為に来たのか?」
「戦友の最後の頼みだ、無礼を承知で頼む、弔わせてくれ」
ホークスは獣人達に頭を下げて頼み込む
辺りに広がる沈黙。
リオルがバルハを見る。
バルハは――
涙を流していた。
「……兄貴らしいじゃねぇか」
ゆっくりとホークスに近づく。
「来い」 「兄貴を弔ってくれ」
肩を叩き、焚き火へと連れていく。
第20話―― 終




